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第40話:えへへ

「はぁっはぁっ……くそっ!」


 俺はリアの手を引きながら懸命に夜の街を走る。しかし、街灯が少ない。なかなかモンスターの姿は捉えられなかった。


「ミッチー! アタシはいいから逃げて!」

「馬鹿なこと言ってねぇで走れ! ……来るぞ!」

『グルアアアアアア!』


 俺は間一髪でモンスターの爪撃を回避し、どうにか街灯の下に立つ。そこでようやくモンスターの全貌が見えてきた。俺たちの数倍はあろうかという体躯。鋭い爪と牙。銀色に輝く毛並みは荒々しく逆立っている。明らかにウルフ型のモンスターだ。


「はぁ。ようやく姿が見えた……か」


 俺は呼吸を整えながら、ハリセンを構える。するとモンスターはその敵意を察知したのか、襲い掛かってきた。


『グルアアアアアアアア!』

「ミッチー!」


 心配そうなリアの声が聞こえる。しかし俺は冷静にハリセンを横なぎに振りぬいた。


「人型のモンスターっていうか明らかに獣じゃねーか!」

『キャインキャイン!?』


 ハリセンの一撃を受けたモンスターは吹っ飛ばされ、いつも通り近くの山へと突き刺さる。きっと明日の朝には飼い犬のようにおとなしくなっていることだろう。この街で飼うことになるかもしれんな。


「あ、あの、ミッチー……」


 背後からリアの声が聞こえる。俺はその言葉を待たずに声を張り上げた。


「馬鹿野郎! お前、自分が何したかわかってんのか!?」

「ご、ごめんなさい! アタシ、皆を危険に晒して、それで……」


 リアは眉を顰めながら瞳を潤ませ、ぽつぽつと言葉を落とす。でも、違う。俺が言いたいのはそんなことじゃねーんだ。


「ちげーよ馬鹿。お前だって女の子なんだから、一人でうろつくな。それに―――」

「そ、それに?」


 リアは呆然とした表情で俺を見つめる。俺は妙な気恥しさを感じて視線を外しながら言葉を続けた。


「それに……ほら、俺がお前を放って逃げるわけねえっつーか、俺を見くびんなっていうか……とにかく! 街の皆もそうだけど、何よりお前が危ねぇだろ! だからもう危ない事はすんな!」

「は、はい!」


 俺の言葉を受けたリアは両目を見開いてぴんっと背筋を伸ばし、返事を返す。たどたどしくなっちまったが、とにかく俺の気持ちは通じたと信じたい。


「まあその、お前って酔っぱらうと普段より危なっかしいんだよ。あんま心配させんな」

「え……ミッチー。アタシのこと心配してくれたの?」

「初めからそうですけど!? なんで来たと思ってんだよまったく……」


 俺はとんちんかんな事を言い出したリアに背を向けて宿に向かって歩き出す。しかしいつまでたってもリアがついてこないので、しびれを切らした俺は振り返った。


「おい。なにしてんだ?」

「えぅ。あの。そんなに本気で心配してくれるって思ってなかったっていうか。え、えへへ。どういう顔すりゃいいんだかわからんねこりゃ」

「ああ? なんだそりゃ」


 リアは顔を真っ赤にしながら歯を見せて笑い、頭をかく。俺はわけのわからん事を言う女神様を見て大きくため息を落とした。


「とにかく、行くぞ。みんなも心配してんだろ」

「あっ……」


 俺は少し強引にリアの手を握り、宿に向かって引っ張っていく。気付けば空は次第に明るくなってきていた。


「…………えへへ」

「???」


 リアは何故かくすぐったそうに笑い、俺の手を強く握り返す。そんなリアの様子に俺は疑問符を浮かべながら、皆の待つ宿へと道を急ぐのだった。


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