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第39話:酔っ払いの千鳥足

「で、お祭り騒ぎの結果がこれか……」


 俺の目の前には後片付けで走り回っているウェイトレスと、すっかり酔いつぶれている賞金稼ぎの面々。皆リアと酒飲み対決をしていたが、結局リアが全勝してしまった。最後の一人は五樽分くらいの酒を飲みほしていたが、リアはその倍を普通に飲みやがったからな。女神っていうか化け物だわあいつ。


「そういやリアはどこいった? あいつこそ片付け手伝えよ」


 そもそも原因はあいつがドンチャン騒ぎしたせいなんだから責任取らせんといかんだろ。


「リア様でしたら先ほど外にトイレに行かれました。少しフラつかれているようでしたが」

「ああ? 何やってんだあいつは……ったくしょうがねーな」


 いくらリアでも女一人で街を歩かせるわけにもいかんし、倒れでもしてたら大変だ。俺は水の入った瓶を引っ掴んで酒場を後にした。


「悪いリープ! 後片付け頼むな!」

「了解ですマスター。このウェイトレスリープにお任せあれ」

「なりきっている!? このまま永久就職しないでね!?」


 完全にウェイトレスになっているリープにツッコミを入れながら街に向かって走る俺。フラフラとしながら街の端に向かって歩いているリアを見つけるのにそう時間はかからなかった。

 リアは片手に酒瓶を持ちながら真っ赤な顔で千鳥足になりながら歩いている。完全に酔っ払いだなこりゃ……


「おいリア。いい加減飲むのやめろ。飲みすぎだぞ」


 飲みすぎっつーかもはや酒を“処理してた”って表現の方が合ってたけどな。酒に強いなんてもんじゃねえ。


「んあ? あーミッチーだぁ。えへへぇ」

「酒くさっ!? くっつくなっつの!」


 俺の腕にしなだれかかってくるリアの胸の鼓動と柔らかさに一瞬緊張しながらも、俺は怒号をぶつける。とにかくこの馬鹿の目を覚ましてやんねーとな。


「あるぇ? ここトイレ?」

「ここは道端ですトイレじゃないです。お願いだから下着に手をかけないで」


 頭に疑問符を浮かべながらパンツに手をかけているリアに敬語でツッコミを入れる俺。やめろこの酔っ払い。パンツが見えて直視できなくなるだろうが。


「あー。もしかしてミッチー照れてるぅ? うりうり」

「やめほ。ほっぺをつつくな」


 ニヤニヤとしながら俺の頬を指でつつくリア。酔っぱらったせいで普段よりタチが悪くなってやがんなこいつ。


「とにかくほら。水飲め。そんで宿行くぞ」

「ええー? 連れ込むのぉ? ミッチーのエッチー」

「いやらしい言い方すんな! 宿で寝ろって言ってんだよ!」


 俺は頬に熱くなっている何かを感じながら怒号を飛ばす。くそ。酔っぱらったリアがこんなに色っぽく見えちまうとは。どうにも普段のペースが掴めねえ。


「ぶぅー。じゃあその水貸して」

「お、おう。ゆっくり飲めよ」


 俺はおぼつかない手元のリアに対して丁寧に水の入った瓶を渡す。リアは瓶を受け取るとびしっと敬礼した。


「はい将軍! ちゃんと酒に変えました!」

「変えんなよ! それ以上飲むなっつってんの!」

「お酒なんて水みたいなもんっスよ~。でぇじょうぶでぇじょうぶ」

「でぇじょうぶじゃねえ! それ酔っぱらって倒れる奴の常套句だから!」


 俺は両手で頭を抱えて沸き起こってきた頭痛を抑える。するとリアはんーっと顎に人差し指を当てながら言葉を続けた。


「あ、でもここがトイレじゃないならぁ、さっき開けた扉はなんだったんだろ。なんかめっちゃ封印されてたけど」

「へ?」


 ちょっと待て。なんか嫌な言葉が聞こえたぞ。封印が何だって?


「おい。まさかその封印解いたんじゃねえだろうな」

「もー、大丈夫だよぉ」

「ほっ。そ、そうだよな。いくらリアでもそこまでしねぇか」

「ちゃーんとみんなが使えるように封印解いておきました! えらい?」

「えらくねぇえええええ! 何してくれてんのお前!」


 俺はリアからの衝撃の告白に大声を張り上げる。その時リアの背後から獣の気配を察知した。


「あっぶね!?」

「おおう!?」


 俺はリアを抱えて咄嗟にバックステップする。元々立っていたその位置には獣の爪痕が残されていた。


『グルルルルルル……!』


 唸り声を上げるその影は月明かりでかろうじてその姿を現す。銀色の毛並みをしたそのオオカミのようなモンスターは赤く血走った瞳でこちらを睨んでいる。どうやら無事に帰してくれるつもりはないらしい。


「み、ミッチー。このモンスターって!?」

「ああ……どうやら、やべー奴を解き放っちまったみてぇだな」


 俺は腰元のハリセンに手をかけ、深呼吸をする。

 横目で見たリアはすっかり酔いが覚めた様子で、俺はため息交じりにモンスターへと視線を戻した。


「とにかくここは逃げるぞ! 相手の姿もよく見えねぇ!」

「う、うん!」


 俺はリアの手を引き、街の方へと戻っていく。モンスターはその四本の足を操り、逃げる俺達を驚異的なスピードで追ってきていた。


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