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第38話:ドンチャン騒ぎ

「―――で、どうしてこんなことになるんだ?」


 俺は今賞金稼ぎの街“ハンターシフト”の酒場でオレンジジュースを両手で持ってカウンター席で肩身の狭い思いをしている。

 一方そんな俺とは裏腹にリアは机の上に乗って両手から酒を出して馬鹿笑いしていた。


「おら皆飲め飲めー! 酒は無限にあるぞぉー!」


 街で絡んできた(こっちから絡んだ)男との大酒飲み対決に早々に勝ったリアはいつのまにかこの街の住人とすっかり打ち解け、今や酒を皆に振る舞っている。なんでもリアの出す酒はめちゃくちゃ美味いらしい。俺は飲んだことないから知らんが。


『うおおー! 姐さん最高ッス!』

『みんなー! 今日は姐さんのおごりだってよ!』

『ウオオー!』


 なんかとてつもなく盛り上がってるが、これ酒場の営業妨害じゃねえのか? あいつ実質無限に酒出せるわけだし。


「なんというか、すんません。うちの仲間が迷惑かけちゃって」


 俺は酒場の店主に頭を下げ、オレンジジュースを口に含む。砂っぽい風で乾いた喉に冷たいオレンジジュースがよく通った。


「いいっていいって。つまみが良く売れるからさ、結果的に普段より売り上げがいいんだよ」


 店主はホクホク顔で今日の売り上げをチラリと見せてくる。確かにこりゃ凄そうだ。ウェイトレスのお姉ちゃん達は大忙しみたいだけどな。


「マスター。こちらオレンジジュースに付け合わせのスナックです。しょっぱくてよく合いますよ」

「おう、ありがとうリープ……って何でウェイトレスの恰好してんの!?」


 リープは相変わらず眠そうな表情をしながらもその服装はヒラヒラのウェイトレスのそれだ。背もちっちゃいしなんか法に引っかかりそうだが、とにかく給仕の仕事をしていることは間違いないだろう。ていうか何いきなり働いてるの君。


「こちらの仕事に興味がありまして。店主様に了解は頂いております」

「お前時々めっちゃ自由だよな……まあいいけどさ」


 まだ出会って間もないこともあるが、リープの思考はよくわからない。まあいろんなことに興味を持つことは良いことではあるだろう。何せまだ生まれたばかりだからな。


「よし。いい感じに場が盛り上がってきたところで私の露出ショーをみんなに……」

「やめい! ここの連中の目を潰すな!」


 俺は席を立ってテーブルの上に乗ろうとするティーナの肩をがっしりと掴んだ。


「わかった。じゃあせめてウェイトレスのスカートに入ってきていいか?」

「いいわけないよね!? どういう性癖だよ!」

「私も賞金稼ぎ……もといパンティという名の宝探しがしたいんだ」

「下ネタじゃねーか! いいから大人しくしてろ!」


 俺は口を3の形にしながら“みっちゃんは何でもダメって言う”とぶーたれているティーナを説得する。いやむしろなんでオッケーが出ると踏んだんだよ。そっちのが理解不能だわ。


「これだけの観衆がいると燃えるものがありますわね! 私も華麗な魔術ショーをお見せしますわ!」

「いいから座ってろって! 俺のオレンジジュースやるから! なっ!?」


 俺は立ち上がろうとしたマリーの肩を掴んでさっきまで飲んでいたジュースのコップをマリーに手渡す。

 マリーは「あ、ああああ、あなたが口を付けたジュースなんて飲み、のみまひぇんわ!」と何故か顔を真っ赤にして噛み噛みになっていた。何を焦ってんだこいつは。


「あっはっは! お客さん達面白いねぇ。でもな、夜になったら気を付けたほうがいいぞ」

「というと?」


 少し真面目な表情になった店主に耳を近づける俺。店主はこそこそ話をするような形で話を続けた。


「この街の端っこにはな、俺達賞金稼ぎが封印した凶悪な人型モンスターがいるのさ。そいつは夜行性で、夜になると暴れ出す」

「はぁっ!? めちゃくちゃ危ねぇじゃねーか!」


 なんて街に来ちまったんだよもう。そんな設定ランハーではなかったぞ。今すぐ立ち去りたいわ。


「あっはっは! まあ心配するな。封印はきっちりしてあるし、それを解除しない限りは絶対安全だからよ」

「なんだよもう……ビビらせないでくれよな」


 俺は店主を恨みがましい目で見つめ、小さくため息を落とす。隣を通りがかったウェイトレスの姉ちゃんは「まーたお客さん脅かして。悪い癖ですよ店長」と注意していた。いつもやってるんかい。やめろやチビるだろ。


「あーっはっは! さいこぉー!」

「……ま、楽しそうだしとりあえずはいいか」


 俺は楽しそうに笑いながら賞金稼ぎ達と酒を飲みかわすリアを見て苦笑いを浮かべる。

 この時はあんな大騒動が巻き起こるなんて、俺は欠片も考えていなかった。


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