第33話:ハリセンの威力
「き、効いたぜお前のビンタ。俺も目が覚めたかな」
「マスター。目的はそこではありません」
「あらやだ冷静」
静かにツッコミを入れるリープ。そうだった。パワーアップのためのビンタだった。パワーアップのためのビンタってなんだよ。
「お、おお!? ほんとに体から光が!?」
両手を見ると眩い金色の光がまるで粉雪のように体の周りを舞っている。しかし特に体が軽くなったとかは感じないな。
「これ、体が光っただけってオチじゃねえよな?」
「オチというのはよくわかりませんが、マスターは今敵を撃退できる状態にあります」
淡々とした口調で説明するリープ。いや撃退っつっても量がすげぇぞ? 一人一人ハリセンで吹っ飛ばしてたら半年あっても終わらねぇわ。
それに―――
「おりゃー! 吹き飛びやがれ!」
「聖なる光を浴びるがいい!」
「マリー・ヒーリング!」
最後のやつ余計だなー。せっかくリアとティーナが敵の数減らしたのに回復しちゃってるもの。そしてめっちゃ嬉しそうだもの。よほど普通に魔法が使えることが嬉しいらしい。いや、気持ちはわかるがあんまり回復してるとマリーがスラスター側扱いされるんじゃねえか?
「マスター。敵が迫っています。迎撃の実施をご提案します」
リープは相変わらず眠そうな目で無表情のまま俺に提案する。しかし言ってる事はこの上なくもっともだ。なんにしてもやるしかねえだろう。
「しかし……もし、万が一威力がとんでもないことになってたら怖いから一度素振りしておこう」
山に突き刺さるどころか空の彼方まで吹き飛ばしちまったら無事も確認できねえしな。まあ吹き飛ばされた先では浄化されたスラスターが綺麗な目をして奉仕活動することになるんだろうが。
「よし、じゃあ一度素振りしよう。リープ、一応ちょっと離れててくれ」
「了解しました」
こくりと頷いて俺との距離をとるリープ。俺は敵群がよく見える場所まで移動すると腰元のハリセンを抜いた。
そしてそのまま体の後ろへと引く。
「よし、じゃあいくぞ。えーっと…………“お前ら人のいない街襲って何が楽しいんじゃコラァ”!」
俺はツッコミと共にハリセンを横なぎに振る。その瞬間暴風のような素振りの風が目の雨の群勢のほとんど。恐らく数千体のスラスターを吹き飛ばし、近くの山は一瞬にしてスラスターの墓標(?)となった。
そしてついでに、スラスターの周辺にあった街も粉々に吹き飛んでいる。吹き飛んでいる?
「って吹き飛んじゃダメだろーがやりすぎだろ!」
「マスター。グッジョブです」
「どこか!? むしろ俺がスラスターだろこれ!」
確かに敵に甚大な被害は与えられたが、街にも甚大な被害が出ている。これ意味なくね? むしろマイナスじゃね?
「いやー皆さん凄いッスねー。特に光輝くんのはエグいッス」
「呑気か! ああもう、どうやって街の人に謝ればいいんだ……」
俺は目の前が真っ暗になる想いでクリスの言葉を聞く。ていうかクリスなんでそんな落ち着いてんの?
「あー建築物は再生魔法で直せるんで問題ないッスよ。むしろ問題があったらとっくに光輝くん拘束されてるじゃないスか」
「確かに! そういえば俺野放しだわ!?」
周囲の教員から感嘆の声は上がっているものの、怒号は飛んでこない。あれ、これって俺許された系?
「では思い切りやりましょうマスター。スラスター飛ばし祭り開催です」
「嫌な祭りだね!? しかしまあ、やるか!」
俺は気合いを入れてハリセンを肩に担ぎ、生き残っているスラスターを睨みつける。
そして―――
「マリー・ヒーリング! ヒーリングぅぅぅ!」
まずはあの馬鹿にツッコミを入れよう。そう心に決めた俺はマリーにチョップを入れ、やがてスラスター達を大量に吹き飛ばす作業へと戻るのだった。




