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第30話:リープの存在、リープのチカラ

 スラスターを退治する能力はないが、状況は打破できるというリープ。俺はその言葉の意味がわからず質問した。


「なあリープ。この状況を打破できるってどういう―――」

『おいクリス! その娘は良性のスラスターなのか!?』


 俺の言葉を遮って教員の一人がこちらに近づいてくる。その目は明らかに恐怖に染まり、真っ直ぐにリープを指差していた。

 クリスは両手をぶんぶんと左右に振りながら近づいてくる教員の動きを制止した。


「だ、大丈夫ッス。生物実験というより今召喚魔法の暴走で誕生したばかりで自我の薄いスラスターッスから」

『そ、そうか……ならいいが、これ以上敵を増やすなよ』


 クリスの言葉に納得した様子で立ち去る教員。俺は二人の会話がいまいち理解できずクリスに質問した。


「なあ、自我とか誕生とか、どういうことだ?」


 俺の質問を受けて「あ、そうか!」と目を見開くクリス。そこからクリスのスラスター講座が始まった。


「まず、生物実験の失敗や召喚魔法の失敗でこの世界に現れてしまった我々と敵対している生物。それを悪性のスラスターと呼ぶッス。で、リープさんの場合ッスが……彼女の場合は“召喚された”というより今“誕生した”と言った方が正しいので、害はない良性のスラスターと説明したところなんス」


 詳しいことはわからないが、とにかくリープは今召喚魔法によって生まれたばかりの赤ん坊のような存在であり、俺達と敵対しているわけじゃないよ~と教員に説明したわけか。

 まあ確かにそりゃ事実だな。リープには明らかに攻撃の意思はない。


「ちょっとお待ちなさい! 召喚魔法の暴走って、わたくしの魔法が失敗したと言うんですの!?」

「いやむしろ成功したと言う方が無理あるだろ!?」


 普通召喚されるのって剣士とか精霊とかだろうし、その場の問題を解決してくれる存在だろ? リープはスラスターを倒すどころか戦闘力があるのかすら怪しいじゃねえか。


「誰が何と言おうとリープの召喚は成功ですわ。さあリープ! 今すぐあのスラスターどもを焼き払いなさい!」

「無理です」

「ですわ!?」


 ショックを受けて固まるマリー。だよねー、そりゃ無理だよねー。

ていうかリープの存在について確かに謎は多いが、今はそれより気になっていることがある。


「さっき生物実験の失敗が原因でスラスターは生まれるって言ってたけどさ、どんだけ失敗したのようちの学園」


 遠目に見える一国の軍隊並みのスラスターの大群。ありゃ一回二回の実験失敗で生み出される数じゃねえぞ。


「そこは私も不思議なんス。うちの学園で生物実験や召喚実験の回数はかなり厳密に制限されているはずなんスが……」

「だろうな」


 その二つの実験回数に制限をつけなかったら大量のスラスターが発生しちまう。それこそ神経質に管理しているはずだろう。だからこそ、この状況は解せない。


「はいはーい! それについてはこのリアちゃんが説明するよ!」

「おおっ!? リア、説明できんのか!?」

「できにゃい!」

「できねーのかよ!」


 これは意外な奴が手を挙げた……と思ったらできないんかい。緊急事態に遊んでるんじゃないよ。


「でもさー、こんなことできるの魔王くらいしかいなくない?」

「はっ。た、確かに。それしか考えられないッスね」

「どういうことだ?」


 俺はリアとクリスの会話内容がよくわからず、頭に疑問符を浮かべる。するとクリスは丁寧に説明を開始してくれた。


「あれだけの数のスラスターを生み出すには相当の魔力が必要ッス。そして現状世界でそんな魔力を持っているのは……」

「魔王だけ。ってわけか」


 完全に消去法だな。しかしまあ恐らくその推理は当たってるんだろう。実際あれだけの大群をどこぞの国が密かに生成してたなんて方が素っ頓狂な話だ。

 少し話が逸れちまったが……さて、どうする? スラスターの大群はどんどん街の中に入ってきてるし、あれだけの数にツッコミを入れるのは無理だ。

 そうして俺が難しい顔をしていると、くいくいと服の裾を引っ張られる感覚に襲われた。


「マスター。あの敵軍を排除したいのですか?」

「あ、ああ。そうだよ。それで今悩んでる」


 リープの質問に素直に答える俺。そういえばさっき状況は打破できるって話だったが……どういうことなんだろう。


「私は元々サポートに特化した生命体です。私のチカラを使えば皆様の能力を何十倍にもすることができます。これで状況の打破は可能ですか?」


 小さく首を傾げるリープ。なんだかわからんが、俺たちのチカラを増幅できるってことか? なら勝機はあるかもしれんぞ。


「何それおもしろそー! アタシにやってやって!」


 リアはその瞳をキラキラさせながらリープへと抱き着く。リープは少し息苦しそうにしながら口を動かした。


「了解致しました。リア様。ちょっとそこに立って頂けますか」

「はいはーい♪」


 リープに指示された通りくっついていた体を離し、リープの立っている位置から少しだけ前に立つリア。

 リープはそんなリアの正面に立つと、思い切り片手を後ろに振りかぶった。


「根性注入!」

「ひでふ!?」

「ビンタしたぁ!? 能力増幅ってそういうのなの!?」


 思い切りリアの頬にびんたを叩き込むリープ。リアはふらつきながらニヤリと笑った。


「へ、へへ、効いたぜお前さんのビンタ」

「いや今そういうシーンじゃねえから! リープきみ何してんの!?」


 困惑しながらリープにツッコミを入れる俺。リープは無表情のまま返事を返してきた。


「根性注入ですマスター。これをすることによってリア様の能力は格段にアップします。時間制限はありますが」

「ええええ……他に方法はないの?」

「チョップという方法もあります」

「嫌な二択だね!? まあ女の子相手にはチョップにしとこうか!」


 さすがに顔面びんたはショッキングすぎる。まあ俺ならいいだろうけど一応チョップにしとこう。いやチョップも全然ダメなんだけどね?


「了解しましたマスター。ボディブロー等のオプションも充実させておきます」

「アッハイ」


 こくこくと頷いて心なしかやる気を出しているリープに空返事を返すことしかできない俺。ダメだわこのサポート生命体。殴らないと気が済まないらしい。


「うおおお!? ミッチーみてみて!」

「なんだよ今忙し―――ワァァァァッ!? スラスターが大量に吹っ飛んでる!」


 リアの両手からは消防団が使う水流の何倍もの威力がある酒が噴出され、遠目に見えるスラスターをまるで掃除するように吹っ飛ばしている。お前の酒生成ってそんな威力あったっけ!?


「なんかめっちゃ凄い勢いで酒が出る! これ使えるよミッチー!」

「お、おうそうだな! 確かにこれはいけるかも!」


 なんかいつのまにかリアの体も金色に輝いてるし、いわゆるフィーバータイムみたいな感じか? もしかしてリープって凄い奴なんじゃないだろうか。


「マスター。他の皆様も殴りますか?」

「言い方気をつけようね!? サポート! サポートするんだよね!?」

「はい」


 俺はリープの肩をがっしりと掴んでまず言い方を変えるよう懇願する。さっきから教員の皆様の視線が痛いから疑われるような言動は控えようね。


「おーっほっほ! この大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大魔法使いのわたくしがパワーアップしたらどうなってしまうか、自分でも恐ろしいですわ!」

「私の露出もいよいよ世界レベルか……楽しみだな」

「わぁい。やる気まんまんの子達がいるぞぅ」


 俺は光を失った目でティーナとマリーを見つめる。なんかめっちゃ嫌な予感がするけど、ここはもうやるしかない、よな?

 こうして俺たちはリープの能力の恐ろしさ……もとい凄さを体感し、この戦況を打破すべく本格的に立ち上がるのだった。


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