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第3話:雪の街スノーボゥル

「神は死んだ」


 魔王討伐の旅をさせられることになってしまった俺は、死んだ魚のような目をしながらフラフラと次の街に向かって歩く。

 ああ、何故空は青いのだろう。何故俺は生きているのだろうか。そして何故聖剣がハリセンなんだろうかふざけんなコラ。


「もー元気出しなよミッチー。次はスノーボゥルって雪の街らしいよ? ロマンチックぅ♪」

「テンションたけーなリア……俺はとてもそんな気分に―――ん、待てよ!?」

「???」


 突然歩く足を止めた俺を不思議そうに首を傾げて見つめるリア。しかし俺はそんなリアに構わず思考を回転させた。

 待て。そういえばスノーボゥルには新たなヒロインが一人いたはずだぞ。そうだ、確か……


「来たぁ! ティーナちゃん来たぁああああああああ!」

「ふおっ!? びっくりしたぁ。突然どうしたのさ」


 リアは両目を開きながら肩をびくっとさせる。そうかこいつはこのゲームのシナリオを知らんのだな。まあシナリオなんてあってないようなもんだが、さすがにヒロインはちゃんと出てくるだろう。


「ティーナってのは恥ずかしがり屋のヒロインでな。いっつも厚着をしてるんだ。もじもじとした仕草が可愛くて可愛くて、俺ぁ初見プレイではティーナルート一択だったもんだぜ」

「…………」


 いやー、ゲームプレイ時の思い出が蘇るぜ。そうして俺がうんうんと頷きながら話をしていると、リアはみるみるうちにほっぺを膨らませていく。風船かな?


「おもしろくなーい!」

「うぉわっ!? なんだよ!?」


 リアは突然俺の背中に飛びつきそのまま首を絞めてくる。なんか背中に大きな二つの柔らかいものが……いやていうか締ってる。首締ってる。死ぬわこれ。


「り、リア! 締ってる! ギブギブ!」

「ぶー。なんか面白くないなー。なんでだろ」

「知るかぁ! いいから降りなさい!」


 精神攻撃と物理攻撃を同時にやるんじゃないよ! このままじゃマジで召されるわ!


「なんかわかんないけどとりあえずチョップしとくね」

「いっでぇ! なんで!?」


 ようやく背中から降りてくれたリアだが、最後は俺にチョップを入れていきやがった。結構痛いぞコラ。なんで俺がこんな目に遭うんだ。


「アタシだってわからんわ! とりあえずお酒よこせ!」

「どういう怒り方!? 酒なんか持ってるわけねえだろ!」

「ぶー。じゃあアタシがお酒出すからミッチーはおつまみね」

「く、食われる!? 勘弁してください!」


 こうして俺たちは問答を繰り返しながら次の街、スノーボゥルに向かって進む。段々と寒くなっていく気温に伴って、街が近づいてくることを実感するのだった。




「ここがスノーボゥルか。綺麗な街だな。綺麗だけど……」

「さんむぃ! 寒いよミッチー!」

「んだぁ引っ付くな! 俺だって寒いんだよ!」


 雪の積もる街中を歩く人々は皆厚着をしているのに、俺たちだけ薄着。完全に奇異の目で見られている。これはまずい。


「ていうかなんでこんなに気候が違うんだよ! 前の街からそんなに離れてねーだろ!?」

「異世界ってのは不思議なんだよ」

「不思議すぎるだろ! 説明は!?」

「にゃい!」

「うるせえよ!」


 ネコのポーズをしながら返事を返してくるリアにイラっとする。しかしまあとにかく、今はこの格好をどうにかせねばなるまい。


「とにかく服買おうぜ。ちょうどあそこに服屋あるし」

「いいの? 露出減っちゃうよ?」

「俺を何だと思ってんの!? いいからとっとと行くぞ!」

「はぁーい」


 俺はリアの首根っこを掴み、ずるずると服屋へ引きずっていく。

 小さく収納可能な上着を購入した俺たちはどうにか寒さに耐えられるようになっていた。しかし―――


「気になるな」

「何が? やっぱり露出が減って寂しい?」

「そっちじゃねえよ! 服屋の店主が忠告してきてただろ!」

「ミッチーがダサいってこと?」

「ぐへー。ちげぇよ! この街で怪奇現象が起きてるって話!」


 そう。服屋の店長いわくこの街では夜な夜な怪しい影が街を駆け回り、人々を襲っているのだそうだ。

 しかもその被害者は皆口を揃えて「光が……光が……」と繰り返しているらしい。そんなん絶対ヤベーやつじゃねぇか遭遇したくねえよ。


「あーそういや言ってたにぇ。まあミッチーの聖剣(笑)があれば大丈夫っしょ」

「(笑)付けんな!」


 まあ付けたくなる気持ちもわかるけどな。何せハリセンだし。

 おかげで悪目立ちしちまってしょうがねえよ。


「まあまあ。とりあえず今日の宿でも探そうよ。勇者としての支援金もたんまり貰ったしさ」

「そうなんだよなぁ……何か申し訳ねえよ」


 俺は腰元に付けていた財布を取り出して中身を確認する。この世界での定食が大体五百ペールだから、まあ安い宿なら二人で一泊一万ペールってところか。


「あ、今ミッチー安宿で済まそうと思ってるでしょ。ダメだよー女の子連れてるのにケチケチしちゃ。何より安宿じゃ良い酒が呑めないじゃないか」

「そうだな。じゃあ今夜は野宿にするか」

「ごめんちゃい安宿でいいです」


 最初からそう言いなさい酔いどれ女神が。まあ野宿なんてしたら確実に凍死するんですけどね。


「よし! じゃあ頑張って安い宿を見つけるぞ!」

「おーっ!」


 リアは満面の笑顔でぴょーんと跳ねながら片手を上げる。その際揺れる二つの何かを見た俺は咄嗟に視線を外し、降ってくる雪で頬を冷やしながら宿探しの足を速めた。

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