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第28話:襲撃とマリーの召喚

 最初は戸惑いも多かった学園生活だったが、しばらく過ごしてみるとそれほど難しい話でもなかった。

 授業内容は魔法に関するものではあったが呪文の暗記などの座学もあり、普通の学校とあまり変わらない。魔法実験の際には魔力値ゼロの俺は全くの役立たずだったが、そこはリアたちに上手くカバーしてもらった。

 単位を取得していく大学に多いシステムを採用しているものの学園長の教育方針で道徳の授業を特に重要視しているらしく、クラス単位でまとまって道徳の授業を受けることも多い。おかげでクラス内にもそれなりに知り合いが増え、クリスとはさらに仲良くなった。

 道徳の授業でティーナの露出癖が治らなかったのは残念だが、今のところ学園内で露出事件は起こしていないのでまだマシだろう。

 まあ要するに、学園生活は順調だったのだ。あの日、休み時間に一つの警報を聞くまでは。


『学園内全生徒に告ぐ! 即座に地下シェルターへと避難せよ! 繰り返す。これは訓練ではない。即座に地下シェルターへ避難せよ!』


 けたたましいサイレンと共に明らかに焦っている教員の声が学園内に響き渡る。その放送を聞いた生徒たちは、教員誘導の元地下シェルターへ移動を始めた。


「一体何事だ? 地下シェルターって?」

「この学園にはモンスターの襲来や天災に備えて、元々巨大な地下シェルターが作られてるッス。今までの歴史でそのシェルターが使われた記録はないということだったッスが……これはただごとじゃないッスね」


 クリスは深刻な表情で校内放送用のスピーカーを見上げる。なるほどな、とにかく今は学園にとって緊急事態なわけだ。

 地震等が起きていないことを鑑みるに、モンスターの襲来……か? なんにせよ俺たちも避難すべきだな。


「誰か露出でもしたのかな」

「お前じゃねえんだからやらねえよ! てか全校生徒避難にはならねえだろ!」


 俺はティーナのズレすぎている推理にツッコミを入れる。お前が露出したら確かに全校生徒避難もあり得るだろうが、今はしっかり制服を着ているしそれはないだろう。それにしても、避難理由について続報はないのか?


『スラスター大量発生中! 現在学園都市外周を完全に包囲している模様! 繰り返す。現在学園は大量のスラスターに完全包囲されている。スラスター担当教員は中央管理塔に即座に集合せよ。繰り返す。中央管理塔へ即座に集合せよ!』


 焦った様子の教員の声が響く。スラスターって確か、この学園で生成された魔法生物が凶暴化したとかいうやつか? 状況的にはモンスターに囲まれた、と考えた方がわかりやすそうだな。


「まあとにかく、俺たちも避難だな。地下シェルターに入ればとりあえず死ぬことはないだろう」


 俺はぽりぽりと頬を掻き、避難を始めている生徒たちの背中を目で追いかける。

 状況はいまいちわからんが、今は俺も一生徒だ。ここは生徒として避難すべきだろう。決して勇者としての責務を包囲しているとかではないのよ? ……本当だよ?


「なぁに言ってんのさミッチー! 今こそ勇者様の出番だよ! さあ、中央管理塔にれっつごー!」

「やっぱりかあああああ! せっかく学園生活に慣れてきたのに! 何故平和に過ごさせてくれない!?」

「平和に過ごす勇者なんか聞いたことない」

「もっともだ」


 リアのあまりに的確すぎるツッコミに思わず頷く俺。ちくせう。やはり勇者と戦いは切っても切れない関係なのか。


「ねえミッチー。学園の皆が困ってるなら、勇者様はどうするのかな?」

「そうだぞみっちゃん。どうするんだ?」


 ずいずいと顔を寄せてくるリアとティーナ。俺は女の子特有の良い香りに包まれながら地獄かな? とその瞳から光を失った。


「……タスケマス。ソレガユウシャデス」

「よく言ったミッチー! さあ、中央管理塔へ」

「れっつごー」

「あ、あははは……」


 俺は妙に張り切っているリアとティーナに首根っこを掴まれ、廊下をずるずると引きずられていく。

 そんな俺の様子を見たクリスは驚愕に目を丸くした。


「え、ちょ、勇者!? 管理塔!? どういうことッスかー!?」


 結局クリスも俺たちについてきてしまい、マリーを合わせた総勢五人で中央管理塔へと移動していくのだった。





『な、なんだ君たち!? 生徒は地下シェルターへ避難したまえ!』


 中央管理塔の入り口に到着した俺たちを迎えたのは、至極当然すぎる教員からの怒号だった。

 しかしリアは口をωの形にしながらぱたぱたと手を振り、その教員に説明を始めた。


「いやーほら、この人実は勇者なんすよ。ほら見てこのハリセン。ほれほれ」

『そ、それは!? 確かにこの街にも勇者誕生の通知は来ていたが……わ、わかった。中に入って状況を把握してくれ』


 中央管理塔の入り口に立っていた教員は魔力を利用した無線のようなもので内部の教員たちに勇者来訪を伝える。無線のスピーカーからは歓喜の声が微かに聞こえ、俺は今すぐにでも逃げ出したかった。ていうかおうちかえりたい。


「さあ行くよミッチー! れっつらごー!」

「あはは……元気だなーリアは。その元気さでスラスターも倒しちゃってくれよ」


 俺は目の光を失った状態でリアに引きずられ、そのまま中央管理塔の内部へと入っていく。

 魔力制御のエレベーターで最上階(屋上)まで登ると、そこには信じがたい、いや信じたくない景色が広がっていた。


「おい。あの蠢いてるの全部スラスターってんじゃねえだろうな」


 立ち上がった俺が見たのは、学園都市全体を完全に包囲している敵の大群。ゾンビや機械生物、スライムなど実験に失敗したのであろう生物たちが赤い目をしながら敵意むき出しで学園都市を囲んでいる。

 その数は百や千では足りない。完全に数万単位の軍勢となって学園を囲んでいた。


「そんな……うちの研究施設でもスラスターが生まれる数はせいぜい二、三体のはずっス。一体どうしてこんなことに!?」


 クリスもこの状況に驚いているのか、少し震える自身の体を抱きしめている。

 リアは「ほえー」とか言いながら敵の軍勢を見渡した。


「多いねー。これも魔王の影響かなぁ?」

「だとしたらシャレになってねえわ。こんな軍勢、一騎当千系のゲームじゃなきゃ見た事ねえぞ」


 俺は一時期ハマっていた一騎当千系アクションゲームを思い出しながらその顔をヒクつかせる。ティーナはそんな俺の隣に立つと腕を組みながら敵の軍勢を睨みつけた。


「あれだけの視線の数となると……露出のし甲斐があるなんてもんじゃないな」

「メンタルオリハルコンかよ! お前本当露出のことしか考えてねえな!?」


 ていうか正気を失ったスラスター相手に露出して何か意味があるんだろうか。せいぜい相手の目がくらむくらいだと思うんだが。


「??? そういえばマリー、随分静かだな。虫でも食べた?」

「最近は食べてませんわ……」

「何気に衝撃発言すんなよ昔は食ってたのかよ」


 妙に静かなマリーに話しかける俺。マリーは俯いていた顔をゆっくりと上げると敵の軍勢を見回し、自身の腰元を力強く掴んで胸を張った。


「ついに! この! 大大大大大大大大大大大大大大大大大魔法使いであるマリー=フラワーズの真価を発揮する日が来ましたわ! わたくし、こういう状況をずっと待ってましたの!」

「あ、なんだろう。すっごく嫌な予感がする」


 俺は光を失った目でとっても元気なマリーを見つめる。しかしマリーはそんな俺に構うことなく言葉を続けた。


「あれだけの軍勢を相手にするならもう“召喚魔法”しかありませんわ! 敵が一万なら味方を二万にすればいいじゃない!」

「いやマリーアントワネット的な感じで言われても! それかなり雑な理論だからね!?」


 そもそもマリーが魔法を使う時点で嫌な予感しかしない。ていうか間違いなく状況悪化するじゃねえかやめろ。


「召喚魔法!? おもしろそー!」

「確かに。パンティとか召喚してほしい」

「下着屋さんかな!? ていうかお前らも期待すんな!」


 あ、駄目だ。リアもティーナも完全に期待しちまってる。こりゃマリーを止める流れにはならなそうだぞ。


「召喚用の魔法陣もすでに描きましたわ!」

「あらやだ手際がいい!」


 なんでこんな時に限って動きがいいんだよこの野郎。もうバッチリ魔法陣ができてるじゃねえか今すぐ消したい。


「クリスが手伝ってくれましたわ」

「えーっと、なんだかわからないけど手伝ったッス」

「もうちょっと行動に疑問持とう!? あの子が魔法使うと本当ロクなことにならないから!」


 俺は涙ながらにクリスへとすがりつく。クリスは若干引きながら「も、申し訳ないッス」と返事を返していた。まあマリーに無理やり手伝わされたのかもしれんな。許すまじあのお嬢様。この戦いが終わったら激辛麺の刑だ。


「ではさっそくいきますわ! マリー・コーリング!」

「ぎゃあちょっと待って! 心の準備があああ!」


 マリーは早速呪文を詠唱し、それに呼応して魔法陣は高速で回転を始める。

 やがて魔法陣は金色の輝きを放ち、そして―――ある救世主(?)をその場に召喚した。


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