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第27話:激辛麺の恐怖

「へぇ。ここがクリスおススメの学食か。結構というかかなり綺麗だな」


 昼休みをむかえた俺たちはクリスの案内で学食へとやってきていた。昼休みに入ってすぐダッシュしたため、まだ人は少なめだ。

 学食はガラス張りの天井と壁。食券受付や床は清潔でピカピカ。さすがはこの世界最大の学園の学食といったところか。しかもこの学食以外にまだいくつもあるというのだから驚きだ。


「学食はいくつかあるッスが、自分はここが一番のお気に入りッス。特におすすめなのがこの激辛麺ッスね」


 クリスはどこか誇らしげにしゅびっと手を伸ばし、学食の看板に書かれている「名物! 激辛麺」の看板を指し示す。

 あんまり辛いの得意じゃないんだが、美味いってんなら少しくらい食ってみるか。


「よぉしおっちゃん! こちらのミッチーに激辛麺超激辛で!」

「俺辛い物苦手なんですけど!? ていうか自分で食べろよ!」

「アタシは親子丼食べたい」

「わぁマイルドな食べ物。なんで俺に激辛押し付けてんだコラ」


 俺はリアの顔面を掴みながら怒りの四つ角をこめかみに浮かび上がらせる。リアはぷらぷらと手を振りながら俺に掴まれた手の下で笑顔のままだ。


「まあまあ。この機会に激辛が好きになるかもよ?」

「いやそりゃ、美味いならそれもあり得るだろうが……超激辛で注文する必要ねえだろが」


 そもそもが激辛麺って書いてあるのに、超激辛のオーダーってどういうことだコラ。


『あいよ! 超超激辛麺お待ち! お大事にな!』

「なんか気になる一言がくっついてたんですけど!? ていうかスープの水面が沸騰してる!」


 出されたラーメンのような面料理はものの見事に真っ赤っかで、しかも水面が沸騰している。沸騰した部分から溢れたスープの一部が机に落ち、机が若干溶けたような気がする。気のせいだろうか。気のせいであれ。


「さあミッチー! がつんといっちゃおう!」

「た、たぶん美味しいッスよ。ガンバッス」

「若干引いてんじゃねーか! そりゃそうだよ地獄みたいな見た目してるもん!」


 俺は目の前の激辛麺から目を背け、クリスとリアにツッコミを入れる。ティーナとマリーの二人は俺を盾に使いながら恐る恐る激辛麺を覗き込んだ。


「ほう。これはなかなか刺激的だ。豪傑なみっちゃんにはぴったりだな」

「本来なら美食はわたくしのテリトリーですけれど、今回はあなたにお譲り致しますわ」

「おめえら好き勝手言いやがって……わかったよ。一口だけだからな」


 さすがに一口だけなら。それだけなら死にはしないだろう。……しないよな?


「さて、じゃあ割りばしを……あれ?」

「どしたのミッチー」


 スープの中に入れた割りばしが半分の長さになっている。あれれー? おかしいぞぅー?


「これは…………死ぬんじゃないか?」


 俺は目の光を完全に失いながら目の前の激辛麺を見つめる。そんな俺にリアは手拍子をぶちかましてきた。


「ミッチーの! ちょっといいとこ見て見たい!」

「ハイドドスコドドスコドドスコドイ!」

「てめぇら……!」


 人の気も知らないで煽ってくるリアとティーナ。目の前で対峙するとオーラ半端ねえんだぞこの麺。いやまあいい。俺も男だ。


「だぁぁぁああ! ままよ!」


 俺はどんぶりを掴んでスープを思い切り飲み込む。その瞬間極上のうまみとのどごしが俺の体を貫通した。


「う、美味……かれええええええええええ!?」


 美味いけど辛い! 辛い! やばい! 俺死ぬんじゃない!?


「いやー。その激辛麺って普通でもかなり辛いんスよね。まあ三か月くらい食べてれば慣れるッスよ」

「その情報言うの遅くね!? 俺初手で地獄まで行っちゃったよ!」


 水をがぶ飲みしながらクリスへと怒鳴り声を響かせる俺。こうして波乱交じりのランチタイムは騒がしくその幕を開けた。

 そうして昼食を楽しんで(?)いると、校内放送用のスピーカーから声が響いてきた。


『スラスター三体を学内で発見。職員が駆除しました。生徒の皆さんは取り乱さず、生き残りのスラスターがいないか注意してください』

「スラスター? 駆除? 何の話だ?」


 俺は頭に疑問符を浮かべ、クリスへと質問する。クリスは激辛麺をするするとすすりながら校内放送用のスピーカーを見上げた。


「ああ、実験用の生物が凶暴化したものを学内では“スラスター”と呼んでいるッス。今のはその駆除報告ッスね」

「物騒だな。大丈夫なのか?」


 魔法学科がある学園だし実験生物くらいいるのかもしれんが、凶暴化とは穏やかじゃねえな。


「大丈夫ッスよ~。うちの駆除スタッフは優秀ッスから」

「ふーん……」


 俺は目の前の激辛麺をちょっとずつ食べながら、特に気に留めることもなくその話を聞いていた。しかし目の前でかつ丼をモリモリ食べていたマリーは気になったらしく、俺の目に何かを訴えてくる。


「もふぉ! ふぉふぉふぁふぁふふぃふぁふぁおふぃふぇふぁふぃふぁふ! ……ですわ!」

「な、なんだって?」


 かつ丼がよほど美味いのか、口いっぱいに頬張りながらしゃべるマリー。なんでもいいけどお嬢様なのにお行儀悪いなお前。


「ふぁふぁふぁ! わふぁふふぃふぉふぉふんふふふぇふぁふぉふぇふ! ……ですわ!」

「“ですわ”しかわかんねえ!」


 俺はこのおてんばお嬢様に頭を抱え、ついでに目の前の激辛麺の残りにも頭を抱える。結局激辛麺をクリスの助力によって倒した俺は、調子のおかしくなった腹で午後の授業を受けることになるのだった。


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