第26話:クリスっす
『それでは早速ですが入学生を紹介します。今回は同時に四人ですが、皆さんすぐにお名前を憶えて仲良くしましょう』
担任の先生の声が教室の中から聞こえてくる。俺は心臓が口から飛び出しそうなほど緊張していた。
「だぁいじょうぶだよミッチー。みんな仲良くしてくれるさ♪」
リアは相変わらず若干の無理がある制服に身を包みながら、立てた親指をぐっと突き出してきた。
「一番学生として無理があるやつに言われても―――」
「女神チョップ!」
「頭が!?」
頭にリアの怒りのチョップが突き刺さる。何このチョップめっちゃ重いんだけど。
「大丈夫? 頭割れてない?」
「めちゃくちゃ割れてるぞ。今夜が山だ」
「マジかよ」
ってそんなアホなこと言ってる場合じゃねえ。頭の痛みは別として教室に入らなければ。
こうして俺たちは順番に教室に入ったが当然のごとくクラスメイトからは質問攻めに遭い、休み時間を迎えるころには精神が疲弊しきっていた。
「つ、疲れた……もう一生分の質問に答えた気がするぜ」
「みんなハリセンに興味深々だったぬぇ」
リアは口をωの形にしながら俺の腰元のハリセンをぽんぽんと叩く。まあそりゃそうだろうな。ハリセン持って魔法学科入学なんざ前代未聞だろう。
「不思議ですわ。何故わたくしを称賛する声が無かったのかしら」
「まあ、誰もマリーの実力(?)は知らねえだろうしな。しょうがねえだろ」
本人が言うほどマリーに魔法の才能があるかどうかは甚だ疑問だが、とにかく魔力値が桁外れなのは事実だ。いずれその事実が何らかの働きをする日が来るのかもしれない。
「いやー大変だったっスねぇ。大丈夫っスか?」
「お前は確か……クリス? だっけ」
このクラスに入ってから最初に話しかけてきた茶髪の女子クリスは、能天気な笑顔を浮かべている。
たまにいるんだよなぁ、こういう初対面の壁を感じさせないタイプの奴。結構羨ましいぜ。
「名前を覚えてもらえてうれしいっス。皆さん個性的だから皆興味深々なんスよ。勘弁してあげてほしいっス」
クリスは歯を見せて笑いながらぽりぽりと頬をかく。俺は教室の椅子にゆったりと深く腰掛けた。
「勘弁も何も、別に怒ってねえよ。それに―――」
「それに?」
「ううむ。あの女子良い足をしている。是非パンティを交換してほしい」
「さあ! わたくしをもっと褒めて! もっと称えてくださって良いのよ!」
「―――あいつらを見て興味を持つなって方が無茶な話だ」
俺は苦虫を噛みつぶしたような顔をしながらクリスへと返答する。クリスはどんな顔をすれば良いかわからないのか、再び頬をかいた。
「あ、あはは……まあとにかく、わからないことがあったら何でも聞いてほしいッス。あたしは一応ここのクラス委員なんで」
心なしかえっへんと胸を張るクリス。そんなクリスにリアは背後から抱き着いた。
「ありがとークリスっち! 早速だけど学食どこ!? お酒飲める!?」
「飲めるわけねぇだろ! ここ学園だぞ!?」
リアが入学できた時点で年齢制限はないのかもしれんが、それにしたって酒は置かないだろう。
「うーん。残念ながらお酒は無いッスが、料理は安くて美味しいって評判のところがあるッス」
「いいねぇ! 昼休みそこ連れてって!」
「了解ッス!」
いえーい! とハイタッチするリアとクリス。結構気が合うのかもしれない。そして勝手に昼休みの予定を決められてしまった。
「はぁ。こんなんで魔王の情報なんか集められんのかね……」
俺は本来の目的を思い出し、小さくため息を落とす。
教室の窓から見上げた空は平和で、これから起こる騒動など微塵も感じさせなかった。




