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第20話:垂直コースター

「気のせいかな。ジェットコースターのレールが垂直になっている気がするんだが」

「ワクワクするな」

「胃がキリキリするよ! 俺絶叫系得意じゃねえのに!」


 明らかにガチ系のジェットコースターじゃねえかこの野郎。今すぐ帰りたいよ。


「さあみっちゃん! 素敵な世界へさあ行くぞ!」

「その素敵な世界って天国じゃないよね?」

「地獄さ」

「なお悪いわ! あーもうドキドキする!」


 俺はアトラクションに乗るための鉄製の階段を上りながらバクバクと脈打つ心臓を押える。

 そんな俺の視界にアトラクションの係員らしきお姉さんが見えてきた。


『ヘルコースターへようこそ~♪ まずはこの同意書にサインしてくださいね♪』

「ど、同意書がいるのか? えーっと……“当アトラクションによってお客様が怪我や失命などの状況に陥った場合でも当パークは一切の責任を負いません”」

『はいっ♪』

「いや負えよ! どういうコースターなのこれ!? 死ぬの!?」

『大丈夫ですよ~。ほとんど死にません』

「たまに死ぬのかよ! もうそれアトラクションじゃねえよ死刑台だよ!」


 めちゃくちゃな事を言い出すお姉さんにツッコミを入れる俺。どうりでこのアトラクションだけガラガラだと思ったよ。

 しかしそんな俺の様子を見たティーナはぽんっと俺の肩を叩いた。


「安心しろみっちゃん。死ぬときは一緒さ」

「安心できねぇぇ! だから死にたくないんだっちゅうの!」

「そう言うだろうと思ってみっちゃんのサインもねつ造しておいたぞ」

「勝手に書くなよ!? 無駄にうめえし!」


 ほんとに俺のサインとそっくりだ。こいつの前で字を書いたのなんて数回なのに……このスキルをもっと有意義に生かせよ。


『はいっ同意書ありがとうございまーす♪ それではどうぞお乗りください♪』

「あのー俺帰ってもいいですかね。これから具合悪くなる予定が……」

「ダメダヨ♪」

「ですよねー」


 ティーナはがっしりと俺の腕にしがみついて離さない。そのまま俺はずるずるとコースターの座席に座らされた。

 あ、でも、安全バーはちゃんとあるんだな。結構しっかりしてるしこれなら安心かもしれん。

 やがて動き出し坂を登りだすコースター。俺は何度も安全バーが固定されていることを確認し、安堵のため息を落とした。


「よかったよティーナ。これなら―――ってお前なんで安全バー下りてないの!?」


 ティーナの体は安全バーに固定されていない。それどころか手すりすら掴んでいなかった。


「ああ、あのバーなら下ろさなくてもいいらしいぞ」

「よくねえよ馬鹿! 危ないだろが!」

「スリルのある人生を生きたいんだ私は」

「今まさにその人生が終わろうとしてるよ! いいから早くバー下ろせ!」


 バーを下ろそうとする俺とバーを下ろすまいとするティーナ。そうしてもみ合っている間にコースターはてっぺんまで登りきっていた。


「おー。良い景色だなみっちゃん」

「いやそんな悠長なこと言ってる場合じゃねーって! 早くバーを下ろせ―――」

「あ、落ちた」

「いやあああああああ!?」


 俺は絶叫しながら下っていくコースターの手すりに懸命に掴まる。そのまま隣を見ると、いつのまにかティーナの姿がなくなっていた。


「ティーナ!? まさか吹っ飛ばされ―――」

「アイキャンフラーイ!」

「え……」


 高速の世界で見たその視界には、コートを広げて輝いているティーナが幸せそうに空を舞っている姿があった。

 そうだよな。お前はそういうやつだよ。心配するだけ損した俺。


「っていうかあいつ速攻でコースター降りてんじゃねえかコラァァァ!」


 俺が乗る意味ねえ! 俺が乗る意味ねえ! ちくしょうめが!


「みっちゃーん! 見てくれてるかい私の雄姿を!」

「見えねえよ! 光しか見えねえ!」

「褒めすぎだみっちゃん!」

「褒めてねえ!」


 結局その後地獄のようなコースターに揺られた俺は吐き気をもよおし、近くのベンチで数十分ほどダウンすることになる。

 ティーナは楽しそうに空を舞い、マリーは相変わらずラリっている。

 どうしてこんなことになったのか。俺は吐きそうになる内臓を抱えながら頭痛と共に考えていた。

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