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第18話:遊園地へいこう

「何故だ……何故、こんなことに」


 俺は目の前の光景が信じられず、かといって目を閉じることもできない。

 遊園地の従業員をべろんべろんに酔わせて爆笑しているリア。「ですわー!」と叫びながら大量の紅茶をまき散らしているマリー。そしてコートの前を広げた状態で空を飛ぶティーナ。

 あまりにもカオスすぎるその空間で俺はそっと中空を見つめた。


「ああ、神様。どうか夢でありますように」


 俺は完全に現実逃避し、全てを神に委ねた。

 そもそもこんな状況に陥った原因は数時間前に遡る。






「ゆうえんちぃ!? それほんとかいミッチー!」


 次の街の正門前で、目をキラキラさせながら俺を見つめるリア。そのあまりに期待に満ちた瞳にたじろぎながらも俺はぽりぽりと頭を掻いた。


「本当だよ。この街“トリックスター”は観光地だからな。遊園地が主な収入源だ」

「わぁい遊園地! アタシ遊園地大好き! 行ったことないけど!」

「ねぇのかよ!」


 かく言う俺も実は行ったことがない。というか一緒に行く友達がいな……いや、これ以上はやめておこう。


「そういえば私も遊園地は行ったことがないな」

「わたくしもありませんわ」

「へぁー。アタシたち仲間だにぇ」


 こいつら呑気に話してるが、それってつまり―――


「俺たち全員一緒に行く友達が一人もいない。ってことか?」

「「「…………」」」


 あ、やばい。これ余計な事言ったんじゃない? ていうか俺自身のダメージも凄いんだけど。


「ミッチー罰ゲーム! 遊園地のチケット購入係ね!」

「そうだな。遊園地の入り方すらわからないが、チケットが必要なら当然購入係が必要だ」

「もちろんおごりですわよね?」

「満場一致!? ちょ、待って! なんか受付とか怖いんですけど! 初心者にはハードル高いって!」

「大丈夫だよぉミッチー。最悪ボコられるくらいだから」

「ボコられるの!? 嫌だよそんな遊園地!」


 チケット購入くらいわけない……と思いたいが、何となく怖い。いや、大丈夫だ。映画のチケットを買うのと同じさ。映画も一人でしか行ったことねえけど。


「まあとにかく、れっつごーだよミッチー!」

「うぉい! わかった。わかったから押すなって!」


 リアはぐいぐいと俺の背中を遊園地のある方向へと押していく。俺はその手に導かれるまま遊園地のゲート前に到着していた。


『トリックスターへようこそ! 何名様ですか?』


 結局受付のエルフのお姉さんの前に到着してしまった。俺はできるだけの笑顔で震える指を四本立てた。


「あ、えと、四人っす。へへ……」

『四名様ですね! 入場特典の髪飾りをどうぞ!』

「あ、ど、どもです。へへへ……」

『その髪飾りが入場証ですので、皆様それを付けて入場してくださいね! では、いってらっしゃーい!』

「い、いってきまーす。へへへ」


 俺は引きつった笑顔を浮かべながら四人分の髪飾りを受け取ってみんなの元へと戻っていく。髪飾りはわりとサイバーなデザインで、三角形をしたメカ系ユニットのような形だ。

 みんなはにっこりとしながら俺から髪飾りを受け取る。


「ほ、ほら。これが入場証だってよ」


 俺は恥ずかしさで赤くなった顔を悟られないように顔を背けながらリアたちへと髪飾りを突き出す。

 リアは髪飾りを受け取りながらにっこりと微笑んだ。


「ありがとミッチー。キョドっててキモ……面白かったね!」

「いっそはっきり言ったらどうなの!? 自分でもキモいと思ったよ!」


 俺は血の涙を流しながらリアに向かって叫ぶ。ティーナはそんな俺の肩をぽんっと叩きながら聖母のような笑顔を浮かべた。


「大丈夫だ、みっちゃん」

「ティーナ……」

「キモくても私たちは仲間だからな」

「やっぱりキモいんじゃねえかコラァァ! これ以上人の心の傷を抉るんじゃねえ!」


 何? 髪飾りを受け取る時は人を罵倒しなきゃいけないルールでもあんの? もう致死量だから勘弁してほしいんですけど。


「ああ、もういいや。ほらマリー。かかってこいよ」


 一番毒舌なマリーだからな。どんな猛毒を浴びせられるかわかったもんじゃねえ。俺は下腹に力を込めながらマリーへと髪飾りを突き出した。


「これって、プレゼント……いえ、あの、なんでもありませんわこの馬鹿!」

「ストレートに馬鹿とな!?」


 なんか知らんが顔を真っ赤にしながら髪飾りを受け取るマリー。しかも罵倒付きだよこの野郎。そのオプション解除できませんかね。


「よし! じゃあさっそく髪飾りを付けて―――おわっ!?」

「おおっ!? り、リアの頭に犬耳が!?」


 犬耳を生やしたリアは獣人っぽい印象を与える。そうか、そういえばこのトリックスターは亜人が中心になって運営している遊園地だったな。


「亜人になりきって一日過ごしてみようってわけか。面白い企画だな」


 俺は髪飾りを付け、おでこのところから角が生えるのを確認する。俺は竜人か。カッコイイな。


「ふむ。私は……おお、耳が伸びたようだ」

「エルフだな。それっぽいそれっぽい」


 元々ティーナの顔立ちはエルフっぽいところあるから違和感がないな……これで変態でさえなきゃ最高なんだが。


「よし、じゃあマリーも付けてみ」

「えっ、あ、そうですわね。すー……はー……」

「???」


 なんでかわからんが緊張した様子のマリー。そんな緊張するようなことか?


「可愛いのこい、可愛いのこい……えいっ」


 意を決したマリーが髪飾りを付けると、その頭部にぴこぴことした猫耳が生えた。


「おおっかわうぃー♪ 触っていい!? 触るね!」

「ちょ、くすぐったいですわ!」


 猫耳を生やしたマリーを見たリアはすぐさま飛びついてその頭の猫耳を撫でる。ふむ、確かに可愛いな。


「これなら頭のリボンは解いた方が良いですわね……ど、どうかしら」

「おお……かわいい」


 いや、マジで可愛い。なんか小動物的というか、これまでのマリーにはなかった属性で驚きさえあるな。


「か、かわっ!? うるさいですわこの角バカ!」

「角バカ!? 初めて言われたよそんなん!」


 そして一生言われる気がしないよこんにゃろう。


「まあまあ! とにかくみんなでれっつごー!」

「おー」

「あっこら!? ただでさえ人多いんだから先行すんなって!」


 入場口に向かって走り出したリアとティーナを追いかける俺とマリー。

 こうして遊園地で過ごす波乱の一日は唐突にその幕を開けた。

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