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第15話:大丈夫だ先生

「やっと着いたな……ここがマジシャンズの病院か」

「病院もおっきいにぇ」


 リアはぼーっと口を開けながら目の前に聳え立つ病院を見上げる。白塗りを基調とした病院は清潔感があり素晴らしいが、肝心のマリーが見当たらない。これだけ広い病院でマリーを見つけるのは至難の業かもしれん。


「恐らくだが彼女は外科の病棟にいるのではないか? 治癒魔法は基本的に外傷を治すものだろう」

「なるほど。確かにそれなら探索範囲をかなり狭められるな」

「ミッチー! こっちに案内板があるよ!」

「よっしゃ! みんなでマリーを見つけよう!」

「「おーっ」」


 俺達三人は一致団結して病院内を駆け回る。そんな中リアは神妙な顔つきで俺に話しかけてきた。


「さっき聞き込みをしててわかったんだけど……マリーっちさっきの実験にかなり賭けてたみたい」

「賭けてたって、どういうことだ?」


 俺は頭に疑問符を浮かべ、走りながらリアに質問する。リアは真剣な表情のまま言葉を続けた。


「マリーっちはさ、究極のお嬢様じゃん? でも“ただのお嬢様、何もできないお嬢様だ”って結構陰口叩かれてるらしくて、本人もかなりそれを気にしてたみたいなの」

「なんだそりゃ。ただの嫉妬じゃねえか」


 正常なランハーの世界ならそんなもの欠片も見えなかったんだが……これもバグのせいなのか? もしくは、俺がきちんと世界を見れていなかったのかもな。


「ただの嫉妬でも、数が多ければしんどいよ。だからマリーっちは魔力値が高いって知った時凄く嬉しかったんじゃないかな」

「だから治癒魔法の習得に執着している……というわけか。治癒魔法の魔力消費量は多いと聞くし、筋は通っているな」


 リアとティーナの会話を聞く限り、要するにマリーは周りからの陰口を防ぐために治癒魔法を習得したかったらしい。言葉で言うのは簡単だが、人と接する事の多い貴族のお嬢様、しかも年端もいかない少女の心に大人の陰口はどれだけ響いたことだろう。どれだけあいつの心を傷つけてきたんだろう。

 俺は口の中が苦くなったような感覚に襲われて、思わず奥歯を噛みしめた。


「だから、これ以上マリーっちに失敗させちゃいけない。させちゃいけないよ」


 リアは心配そうな表情で俺を見つめる。ああ、そうだ。その通りだな。


「絶対に見つけよう。そして止めるんだ」

「おっけー♪」

「返事は軽いのかよ!」


 ついさっきまで真面目な話をしていたと思ったんだが、感情の起伏が激しすぎるだろ。情緒不安定かよ。

こうして病院の外科病棟を目指して走る俺達。魔法を使う直前のマリーに出会ったのはそれからあっという間の事だった。






「マリー! その魔法ちょっと待った!」


 外科病棟の前で魔法書を広げているマリー。突き出した右手は黄緑色に輝き、もう魔法が発動する数秒前って感じだ。

 マリーは睨みつけるように上半身だけ使って振り返った。


「待てませんわ! わたくしには才能がある。それを証明するんですわ!」

「気持ちはわかる! わかるがちょっと待て! まだはえぇって!」


 正直言ってマリーの魔法はまだ未熟だ。ここでまた露出狂(冤罪)を増殖させるわけにはいかねぇ。なんとしても止めなければ。


「もう遅いですわ! マリー・ヒーリング!」

「あーっ!?」


 マリーの突き出された右手からより一層強い光が放たれ、その前に並んでいたけが人の体が黄緑色の光に包まれる。

 なんてこった……これでまた被害が拡大しちまう。もちろんマリーだけを責めることはできない。この悲劇は環境と状況が呼んだ悲劇として後世に語り継がれるだろう。


「!? ミッチーあれ見て!」

「ん? ンンンンンンン!?」


 全裸になると思われていた患者たちはもこもこの羊の毛皮のようなものに全身を包まれ、空中を浮遊している。

 いや、なにこれ。こうなるとは思ってなかったんだけど。マリーの魔法って効果は安定してないのか?


「そん、な。何故ですの!? ちゃんと魔法書の通りに呪文を詠唱したのに……」


 マリーは絶望を絵にかいたような瞳をしながら空中を浮遊する患者たちを見つめる。幸い怪我の悪化はしてないが……いや、してるか。身動きが取れねえんじゃ軽傷よりたちが悪い。


『おいこれ、一体どうなってんだ!?』

『助けてくれぇ!』


 空中に浮遊して身動きが取れない患者たちの悲鳴が聞こえる。いや見た目はもふもふの羊さんが沢山浮いていてファンシーなんだが、聞こえてくる声が野太いおっさんばかりでぶち壊しだ。まあそんなこと言ってる場合じゃないんだが。


「ごめん、なさい。ごめんなさい。わたくし、どうしたら……」


 マリーは両目を大きく見開きながらその瞳の光をどんどん失っていく。マリーは、悪くない。その小さな体に沢山の期待と嫉妬を背負ってきたんだろう。それが今爆発しちまっただけだ。

 なら―――フォローするしかねぇだろ。勇者様としてはよ。


「大丈夫だ先生。俺がなんとかする」

「みつてる……?」


 俺はマリーの肩をぽんっと叩き、空中に浮遊する患者たちを見つめる。

 ゆっくりと腰元のハリセンを引き抜くと、俺はその切っ先を患者たちに向けた。

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