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第14話:一般人以下の勇者

「魔力値ゼロって、何? 俺一応勇者なのに一般人以下なのん?」

「一般人以下なんじゃないかにゃあ」

「そうだけどはっきり言うなよ!」


 容赦のないリアの言動にがっくりと膝を折ってその場に四つん這いになる俺。その時右手に鋭い痛みが走った。


「いてっ。なんだこの床、ザラザラしてる?」


 ついた手の端からほんの少し擦り傷が出来ている。こういうちっちゃい怪我ってヒリヒリして嫌なんだよな。でかい怪我はもっと嫌だけど。


「ああ、その辺の床は無駄にザラザラしてるからお気をつけて」

「本当に無駄じゃない!? 俺手ぇすりむいちゃったんだけど!」

「よかったじゃありませんの」

「よくねえよ!? よくねえよ!?」

「大事な事だから二回言ったんだにぇ」


 口をωの形にしながらうんうんと頷くリア。いや、ほんともう泣きっ面に蜂というか踏んだり蹴ったりというか、なんで俺がこんな目に遭ってるんだ。


「本当に良かったですわ。これでわたくしの治癒魔法の実験ができます」

「ええええ……そういうこと? やだなぁ」


 マリーの実力を疑うわけじゃないが、物凄く嫌な予感がする。怪我がよけい酷くなりそうな気もするし。


「なんのためにあなたを助手にしたと思っていますの? さっさとお役に立ちなさい!」


 びしっと俺を指差しながら命令してくるマリー。本当容赦ねえなこのお嬢様は。


「わかったよ……まあ怪我治してもらえるならありがたいしな」

「もっと酷くなるかもしれないがな」

「嫌なこと言うなよ俺もちょっと予想してんだから!」


 俺と全く同じ予想を立てるティーナにツッコミを入れる俺。マリーは一度こほんと咳ばらいをすると魔法書と思わしき本を開いた。


「ではいきますわよ! 覚悟はよろしくて!?」

「覚悟が必要なの!? 嫌だよそんな治癒魔法!」


 俺のツッコミも虚しくマリーは呪文詠唱を始める。あ、全然聞いてないパターンだわこれ。


「わたくしの初めての治癒魔法を受けられることを光栄に思いなさい!」

「初めてなのかよ!? チェンジ! チェンジで!」

「ごめんなさーい。その娘チェンジできないんですよぉ」

「リアはなんでこのタイミングで会話に入ってきたの!?」


 リアは何故かぺろっと舌を出しながら俺にメンゴ♪ のポーズをとってくる。いやそんなこと言ってる場合じゃねえんだよ。このままじゃ俺が大変なことに―――


「くらいなさい! マリー・ヒーリング!」

「おおおおおっ!?」


 マリーが右手を前に突き出すと、黄緑色の光が俺の体から発せられる。な、なんか意外と治癒魔法っぽい色だぞ。これはもしかして成功か!?

 俺がそう思った瞬間、俺の着ていた服が全て弾け飛ぶ。当然全裸になった俺は、死んだ目をしながらマリーと視線を交差させた。


「……おかしいですわね」

「本当におかしいよ! しかも怪我治ってねえし!」


 俺は咄嗟に両手で股間を隠しながらマリーへと抗議する。そんな俺の肩をティーナはぽんっと優しく叩いた。


「みっちゃん……良い露出だったぞ」

「いいから鼻血拭けよ! しかも“だった”っていうか現在進行形で全裸なんですけど!?」

「あーはいはい。代わりのお洋服持ってきたゆぉ」


 リアはどうやって調達したのか、元々俺が着ていた学生服とほぼ同じ服を持ってきた。まあなんでもいい。とにかく服を着よう。


「こんな……あり得ませんわ。大魔法使いのわたくしが失敗するなんて」

「ま、まあそう落ち込むなよマリー……先生。誰にでも失敗はあるって」


 俺は急いで服を着ると、わたわたと手を動かしながらマリーを慰める。しかしマリーはがばっと顔を上げると真っ直ぐに俺を見据えた。


「そうですわ! 一度の失敗は百回の成功で塗り替えましょう!」

「ポジティブぅ! その様子なら心配ねぇな」


 どうやら思ったよりマリーは落ち込んでいないようだ。いや内心ショックだったのかもしれんが、空元気も元気のうちだろう。


「さっそく実験ですわ! やってやりますわよ!」

「あっちょ、どこ行くんだ!?」


 マリーは何かを思いついたのか、駆け出して研究所を飛び出していく。いやいやいや、成功で塗り替えるってまさか、これ以上治癒魔法を使う気じゃないだろうな。


「治癒魔法の被験者が沢山いる場所といえば、病院か? もしかしたらそこに向かったのかもしれんな」


 ティーナは腕を組みながらマリーの走り去った方角を見つめる。俺は反射的にティーナを指差した。


「それだ! 俺たちも追いかけるぞ! 被害者が増える前に!」

「そうだな。露出するのは私だけでいい」

「お前もすんなよ!」


 俺はティーナにツッコミを入れながら、飛び出してしまったマリーを追いかけて病院に向かう。

 幸いゲームをやりこんでいたおかげで、病院までの道はすぐにわかった。

 しかしまさかあの病院であんな惨劇が起こるとは、この時の俺たちは予想もしていないのだった。

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