第13話:ゼロですわ
「これがわたくしの研究成果、“魔力量測定装置”ですわ!」
マリーに案内された研究所の広間に入ると、広間の中央にぽつんと置かれたテーブルの上にこれまたぽつんと測定機らしきものが置いてある。
あーこれあれだ。血圧とか計るやつに似てるな。
「あのー先生。この広間にこの装置だけってのはさすがにスペースの無駄使いでは?」
「シャラップ! おだまり助手! 装置で重要なのは性能ですわ! それに持ち運びを考えたら小さい方が良いでしょう!」
マリーはない胸を張りながらふんすと鼻息を吹き出す。しかしまあ、言ってる事は正しいな。確かにその通りだ。
「ねーねー! それよりこの装置って魔力量計れるんしょ!? みんなで計ってみよーよ!」
リアはキラキラとした瞳でマリーの服をくいくいと引っ張る。マリーは自分の研究に興味を持たれているのが嬉しいのか、元気よく腰に両手を当てた。
「わかりましたわ! ちょっとお待ちになって!」
マリーはいそいそと装置の近くに行き測定の準備を始める。リアはニコニコしながらその様子を見守った。
「マリーっち可愛いねぇ。妹にしたいよ」
「そうだな。私も妹にしてパンティ貰いたい」
「後半おかしくね!? 妹はパンツ供給装置じゃねえから!」
「違うのか?」
「こいつ、こんな純粋な目で……!」
キラキラとした瞳で頭に疑問符を浮かべているティーナ。こいつ本気でパンツ供給装置だと思っていやがる。もう手遅れだこれほっとこう。
「準備できましたわ! さあ、最初は誰が測定しますの!?」
マリーは楽しそうに笑いながら両手を腰に当て、きょろきょろと俺たちを見渡す。
その瞬間リアは元気よく右手を突き上げた。
「はいはーい! アタシやってみたい!」
リアは飛び上がるんじゃないかってくらいの勢いでトップバッターを名乗り出る。そういや女神の魔力値ってどのくらいあんだろう。ちょっと興味あるな。
「よろしいですわ。ではこの筒の中に腕をお通しになって」
「はーい♪」
「本格的に血圧測るやつに似てるな……」
リアは装置の中心にある筒の中に腕を通す。ティーナはぽちっと装置のボタンを押すと、装置は黄緑色の眩い光を放ち始めた。
「おおーっ。めっちゃきれーっ!」
その瞳を輝かせながら装置を見つめるリア。あいつ結構こういう装置好きなのかな。
「測定結果が出ましたわ! 魔力値は……一万八千ですわね」
「それって高いのか?」
「普通の魔法使いで500くらいですわ」
「馬鹿高いじゃねえか!」
常人何人分なんだよ……さすがは女神というところか。
「えへへぇ。照れますなぁ」
リアは頬を少し赤くしながらポリポリと頬をかく。
ううむ。こいつ意外と魔法の才能とかあるのかもしれんな。いやよくわからんが。
「では次私がやってみよう」
ティーナが片手を上げながら一歩前に歩みを進める。リアは「おおーっ、やってみやってみ!」と装置の前の席を譲った。
「あら、随分と厚着していらっしゃいますのね。とりあえず袖をまくって頂けるかしら」
「わかった。全部脱ごう」
「脱ぐな! 腕だけ出しゃいいんだよ!」
ほぼ予想通りなティーナの反応へ即座にツッコミを入れる俺。ティーナは口を3の形にしながら「ちょっとした冗談ではないか」と言っていたが、絶対冗談じゃない。目が本気だった。
「ここに腕を通すのか。なんかムラムラするな」
「どゆこと!? いいから早く通せよ!」
「あらやだみっちゃんたら強引」
「うるせえ!」
俺はモタモタしているティーナの右腕を装置の中に突っ込む。マリーがぽちっと装置のボタンを押すと、再び装置が眩い黄緑色の光を放った。
「数値は……五千六百万ですわね」
「魔王かよ! この装置ぶっ壊れてるんじゃねえか!?」
異常に高すぎる数値にツッコミを入れる俺。しかしマリーはほっぺを膨らませながら反論してきた。
「この装置は絶対正確ですわ! この変態さんが異常なんです!」
「あ、異常ってことは認めるわ」
「あらやだみっちゃんひどい」
確かにこいつなら異常数値が出てもおかしくないような気がしてきた。いや、むしろ必然か。
「ねえミッチー。女神って一体何だろうね」
「め、目が死んでいる!? しっかりしろリア!」
一般人に魔力値で負けたことがショックだったのか、リアは目の光を失いながら中空を見つめる。
俺が肩を掴んでがくがくと揺さぶっていると、マリーが踵を鳴らして装置へと一歩踏み出した。
「ついにわたくしの番ですわね! 目にもの見せて差し上げますわ!」
「あーうん。さすがにティーナ越えはないだろうけどな」
俺は乾いた瞳でふんふんと鼻息を荒くするマリーを見つめる。マリーはそんな俺の言葉など聞こえていないのか、ずぼっと装置に腕を突っ込んだ。
「いきますわ! すいっち、ぽん!」
「掛け声かっこわる!」
装置のスイッチを押すマリー。その瞬間装置は赤く異常な輝きを放った。
「うわっなんだこりゃ!?」
俺は咄嗟に右腕を使って光から目を守る。やがてその光が弱くなった頃、魔力値が装置に表示された。
「えーなになに、数値は…………六十五億!?」
「ですわ!」
えっへんと胸を張るマリー。いやいや、桁が違いすぎるだろ化け物かよ。
「まあこの大大大大大大大大魔法使いのわたくしなら当然の結果ですわね!」
「いやこれ完全に装置の故障―――むぐっ」
「それ以上言うとまずいよミッチー♪」
いつのまにか背後に回っていたリアに口を押えられた。そうか、そうだな。確かにこれ以上は禁句だ。
「さあ! 次はあなたですわね! 一応測って差し上げますわ!」
「アッハイ。ありがとうございます」
俺はどこまでも偉そうなマリーの言葉にゲンナリしながら装置に腕を突っ込む。
リアはわくわくとしながらそんな俺を見つめた。
「ま、常人程度の数値は出るでしょう。はい、すいっちぽん」
「やる気ねえ!」
明らかに期待していない様子のマリーにしょんぼりする俺。やがて装置は黄緑色の光を放ち、数値が表示された。
「あら、結果が出ましたわ。数値は……」
「数値は?」
「ゼロですわ」
「―――は?」
ちょっと待て。俺の耳がおかしいのかな?
「ゼロですわ」
「二回も言うなよ! 魔力が無いってあり得るの!?」
「ある意味凄いですわ」
「嬉しくぬぇ!」
俺はショックを隠し切れず、がっくりと肩を落として頭を抱える。リアはそんな俺を見て口をωの形にしながら「ありゃりゃ~」と呟いていた。




