ホタル
6月1日、18時30分現在。
今日がホタルの解禁日らしい。
俺は、出かける前に玄関で最終確認をした。
「剣はそこ、塩の入ったライン引きも祠の脇に置いてある。 あとはイメージ通り、倒すだけだ」
俺のイメージでは、まずライン引きで安全地帯を作る。
塩のラインで円を描けば、四獣はその中には入ってこれない。
それをいくつか作った後、飛び移りながら相手を斬り倒して行けばいい。
「……完璧な作戦だぜ」
袋に包んだ剣を担ぐと、事務所を後にした。
19時、学校の正門に到着。
もわっとした、生暖かい空気が立ち込めている。
遠目から、オレンジの光が見えた。
「……出店?」
学校のグラウンドには、たこ焼き、焼きそば、ケバブなどを売っている出店が並んでいた。
グランドには浴衣を着て、山に向かっていく人の姿がちらほらある。
みな、ホタル目当てでここに来たに違いない。
「……大丈夫か?」
もし祠に人が集まっていたら、マズい。
四獣に襲われる危険があるし、下手したら殺されるか、体を乗っ取られる。
「ご主人!」
山の入り口に到着した時だった。
ポワロが突然指輪から飛び出し、俺を引き留めた。
「……四獣の匂いがします」
……!
もう、復活しちまったのか!?
「くそっ……」
階段を駆け上がり、祠を目指す。
途中、学生と肩がぶつかり転倒させてしまったが、そんなのを気にしてる場合じゃない!
(もう少し早く事務所を出るべきだったか……)
15分かかる道のりを5分に短縮し、祠の前に到着すると、そこには再び俺の予想してなかった光景が広がっていた。
祠の前に、人が列をなしていたのだ。
そして、その祠の中こそ、ホタルの展示場だった。
その時、俺はまさか、と思った。
「ホタルの時期に復活したのは、偶然じゃない?」
……もし、四獣がこの時期をあえて狙って復活したのだとしたら。
人がたくさんやって来るこの時期に、体を乗っ取るために……
「結構いっぱいいたね」
「うん、思ったよりすごかった」
学生が祠から出てくる。
この様子だと、騒ぎが起こった感じはない。
「……ポワロ、四獣の匂いは?」
「……残り香だけ」
「くそっ!」
俺は地面を蹴り上げた。
手遅れだった!
四獣はこの時期を狙っていた。
そして恐らく、誰かの体を乗っ取った後、塩の結界をすり抜けてどっかに行っちまった。




