4つの剣技
「お前、四獣がどんなんか分かっとらんやろ? 四獣っつったらな、玄武、朱雀、白虎、青龍って呼ばれる、他の霊獣とは別格の存在や! そんなもん、復活させたら手に負えるわけがない!」
黒髪が俺を指さしながらそう言い放った。
ところがどっこい、四獣のことはよく知ってるし、その倒し方も昔たたき込まれた。
「……知ってるし、倒す方法も知ってる」
「な、なんやて!?」
黒髪は相当驚いたらしく、尻餅をついた。
「あ、ありえへん…… お前みたいなヘタレが、どうやって四獣を倒すねん!」
さっきからこいつ、年下のクセにすげー上から目線だな……
まあ、どんなに頑張っても身長の関係で俺を見上げることになるが。
「なあ、校長。 この学校にライン引きってあるか?」
蚊帳の外だった校長が急に話題を振られ、ガタッと机を揺らした。
……話聞いとけよ。
「な、なんですと?」
「ライン引きだよ。 石灰を入れてライン引くやつ、あるだろ?」
「ライン引き…… あると思いますが、一体何に使うのでしょう?」
霊獣の性質の一つに、塩を跨げない、というのがある。
霊獣が祠から放たれた場合、逃がさないよう山を取り囲むようにして塩をまいてしまおう、と俺は考えた。
「塩のラインを引いて、山を囲んで霊獣を閉じ込める。 んでもって、俺の霊剣で一匹ずつ仕留めていく」
「お前、若草家とは縁切った言うとったよな!?」
黒髪が立ち上がって口を開いた。
「こういう仕事だからな。 剣を一本くすねてきてたんだよ。 とにかく、お前は手を出すんじゃねえ」
すると、黒髪はポケットに手を突っ込んで、あるものを取り出した。
ボイスレコーダーだ。
「……まあええわ。 最悪、全部お前のせいにしたるからな。 責任はワイにはない」
そう言うと、黒髪は校長室から出ていった。
俺と校長は、手分けして塩で山を取り囲むという作業に入った。
スーパーで業務用の塩を購入し、ライン引きの中にそれを入れる。
さすがに1人でやるのはしんどいが、2人ならまあ何とかなるだろう。
校長は腰が痛い、とか何とか言っていたが、聞こえないフリだ。
その日の夕方にライン引きが終わると、俺は事務所に戻って剣技の復習をすることにした。
玄関の脇の傘立てに霊剣は置きっぱなしになっている。
「……錆びちゃいないみてーだな」
鞘から抜き放った霊剣は、磨き込まれており、鏡のようだ。
両刃で1.3メートルほどの長さを有している。
試しに素振りをすることにした。
「剣技その一、龍返し!」
ガアン! と天井の照明に命中し、電球が砕けた。
「あーあ」
いつの間にかポワロのやつが後ろにいた。
……見てんじゃねえ。