催眠術
「あなたは催眠状態から解放されます。 3、2、1…… はい!」
すると、ベッドに横たわっていた女子生徒が目を覚ました。
ところが、
「もう少し寝かせてよ~、むにゃむにゃ」
こいつ、寝ぼけてここが自分の家だと思ってやがる……
「おいっ、朝だ! 起きろっ!」
俺は無理やり布団をひっぺがし、生徒を起こした。
「うう、さぶっ…… って、あんだ誰よっ!?」
俺の姿を確認し、女子生徒は思いっきり身を引いた。
「……寝ぼけてんじゃねえ、ここは病室だ。 お前は催眠術で操られて、山の祠に生贄として捧げられてたんだ。 もう少し発見が遅れてたら、ミイラになってたぜ」
「う、うそでしょ、あはは、……マジ?」
「その通りです」
俺の後ろから、ぬっ、と校長が顔を出した。
「どわっ、こ、校長先生まで!」
「で、ちょっと聞きたいんだが、お前を操ったやつに心当たりはないか?」
女子生徒は腕を組み、うんうん唸っていたが、鼻から提灯が膨らんだ。
「ぐうぐう」
スパーン、とスリッパで頭をはたき、起こす。
「あ、心当たりは無いんだけど、私、教室で居眠りしてた時に変な夢を見たのよね。 バクみたいな紫でしましまの変なやつが、私に何か言ってたのよ。 内容は覚えてないけど」
……そういうことか。
そして、催眠に陥れる方法も分かった。
「校長、今から俺の言うことに従ってくれ」
俺は校長にこう指示を出した。
まず、2年C組の教室に監視カメラを設置し、その後、ホームルームで生徒が見つかったと報告を入れる。
計画が失敗したと分かれば、犯人は同じ方法で生徒を操るハズ、と俺は踏んだ。
「犯人は恐らく、眠っている生徒にバクをけしかけて操る。 わざわざ授業中に事を起こしたのはそのためだろう。 俺ならバクの姿が見えるから、それで犯人を捜そう」
校長はこれを承諾、すぐに準備に取り掛かることとなった。
翌日の放課後、監視カメラの設置が終わり、モニターが校長室に配置される。
モニターの電源を入れると、教室内の様子が映し出された。
「オッケー、ばっちりだな」
翌日の朝、すぐに女子生徒が見つかったとの報告を入れてもらい、俺は校長室で画面をじっと睨んでいた。
すると、すぐに犯人は動いた。
2時間目の英語の授業中、開始5分で眠りに落ちた生徒が現れると、それを見計らったかのごとく、後ろに座っていた男子生徒が、コソコソと何かを始めたのだ。
「……」
じっくり観察していると、その生徒の脇から、紫と白のシマシマの霊獣が姿を現した。
バクだ。
「校長、あいつだ! 一番後ろの窓際にいる男子だ」
「彼は、先週転校して来たばかりの…… 黒髪刃君です!」