校長
「まあ、立ち話もあれだ。 中入ってくれ」
俺は客人をリビングに通すと、キッチンに向かった。
棚にはカップ麺しかなく、冷蔵庫にも缶チューハイがあるだけだ。
「……まあ、これでいいか」
お湯を沸かし、用意したカップ麺の中に注ぐ。
一旦リビングに戻って、缶チューハイを客人に差し出した。
「わ、わざわざすいません……」
「カレーとシーフード、どっちがいい?」
客人は少し戸惑ったのち、カレー、と言ったが、俺もカレーがいい。
すっとぼけてシーフードを渡しちまおう。
「んじゃ、カンパーイ」
プシュ、と缶チューハイを開けると、俺はグビリ、と酒をあおった。
「そろそろカップ麺もよさそうだな」
「まだ3分経ってないのでは……」
「ばっか、1分で食うのがうまいんだよ。 あんたも食え」
キッチンに戻ってラーメンを2つ持ってくると、シーフードを渡す。
すると、突然客人がキレた。
「こんな茶番をしに、ここに来たのではないっ!」
ダン、とテーブルに手のひらをたたきつける。
あまりのキレっぷりに、俺も思わずたじろいた。
そ、そんなにカレーが良かったのかよ……
「わ、わりい、カレーが良かったんだろ? ほら、食えよ……」
「……違うっ! 依頼をしに、私はここに来たんだ」
……そっちかい!
ラーメンをすすり、少し落ち着きを取り戻した客人は、話を始めた。
この客人、実は学校の校長先生で、最近、自分の学校で生徒が行方不明になって大騒ぎになったらしい。
「……行方不明? 学校の中でか?」
「はい。 授業中、ある生徒がトイレに向かったのですが、いつまでたっても戻ってこず、心配した友達が探しに行ったそうなんですが…… そのまま行方不明になってしまったんです」
俺は、もしかしてそのまま家に帰っちまったんじゃ? と質問したが、外履きが残っており、外に出た痕跡はないとのことだった。
「……うーん。 上靴でそのまま出てくってのも、考えにくいか。 でも、俺探偵じゃねえし…… そういうのは警察に言った方がいいんじゃねえの?」
「……私は、ひそかにこれは神隠しではないか? と考えているのです」
校長はこう語った。
学校の隣には山があり、その奥に祠があるらしい。
そこには、四獣、と呼ばれる神様が祭ってあるとのことだった。
「毎年学園祭で、その神様に形式上、生贄を差し出すという行事を行っていたのですが、PTAに生贄というのは教育上どうなのか? ということを迫られ、廃止することになってしまいました」
その行事をやらなかったから、神様の怒りに触れて、事件が起きたってことか……