プロポーズ
「ぐああっ!」
俺は飛び起きた。
……ここは、夢見亭のテントの中か。
椅子にもたれて意識を失っていたらしい。
「おかえりなさい。 結果は良くなかったみたいだけど」
「ああ……」
牛尾のやつ、マシンガンを警察にぶっ放しやがった。
馬鹿だろ。
俺は椅子から立ち上がった。
「見てたんだろ? うまくいかなかった。 仕方ないから、もっと別な手を探す」
牛尾がもっとマトモだったら、もう一度やらせてもいい。
だが、久しぶりに暴れられるぜ、というセリフを聞いて、俺はもうこいつには任せられない、と思った。
俺がテントから出ようと垂れ幕を手で押し上げた時だった。
「待って、あなた…… 私が思ってたより、男気があるみたいね。 今度、食事でも行かない?」
……!
あのマシンガンをぶっ放したのが、この女にとってはそんな風に映ったのか。
しかし、あれをやったのは牛尾であって俺じゃない。
加えて、こういう冷酷な女はタイプじゃない。
……だが、待てよ。
四獣と戦うのに、相手の姿が見えなきゃ話にならない。
指輪が欲しい……
俺は振り向いてアイリスにこう言った。
「だったら、その指輪を貸してくれないか?」
「ふふ、これは商売道具よ。 あなた、私を養ってくれるの?」
アイリスは手の指を絡ませ、上目遣いに俺の方を見やった。
プロポーズをしろ、ってことか?
ふ、ふざけんな……
しかし、こんなチャンスはない。
どうする?
「……どうするの?」
クソッ、やけくそだ!
「……ああ、その指輪のためらな、安いもんだ」
「……冗談よ」
アイリスはそう言って、指からリングを抜き取り、こちらに放り投げて来た。
俺は慌ててそれをキャッチする。
「連盟に四獣を捕まえろってお達しがあったから、初めからそのつもりだったけど。 ただ、自分を犠牲にできないヘタレに私の大事な指輪は預けられなかったってだけ」
「……」
俺は再度、テントの垂れ幕を押し上げ、その場を離れた。
翌日、俺は学校にやって来た。
校長に会うためだ。
そして、昨日の夜、四獣を炙り出すためのプランを考えていた。
「この学園内に四獣が!?」
「ああ、それで、もう一度、今度は全教室に監視カメラを設置して欲しい」
俺は校長にこう説明した。
四獣は生徒か先生か、どちらかの体を乗っ取っている可能性が高い。
そして、時期が来たら、おはらい連盟と交渉するためにことを起こす。
そうなる前に、ある手段を使って連中を炙り出す。
「……どんな手を使うのでしょうか?」
「四獣は塩に拒否反応を起こす。 ってことはだ、直接体内に塩を取り込むことに抵抗があるってことだろ?」
俺が徹夜で思い描いたプラン。
それは、塩分豊富なパンを構内にいる全員分用意して、プレゼントしてやるって方法だ。