隙
「うおらああああああああああっ」
黒髪の体重はそこまで重くない。
俺は腕を絡ませた状態で、黒髪を背負って投げ飛ばした。
「ぐあっ! ……じ、自分、強引すぎやろ!」
態勢を立て直すと、階段で俺と対峙する恰好となる。
「アームズ・モード!」
俺は、ポワロに手を触れてそう唱えた。
すると、ポワロは俺の手の中に、剣を形作って収まった。
ぶっつけ本番だが、うまくいったらしい。
「……やる気やな、受けて立つで!」
黒髪はハリセンを構えている。
いくら見た目がしょぼそうな武器でも、油断は禁物だ。
どんな能力が備わってるか分からない。
その時、心の中から声が響いた。
「ご主人、僕には相手の隙の匂いが分かります。 それを嗅いだら、ワン、と吠えて教えますので、その時奴に斬りかかってください」
……隙の匂い?
とにかく、俺は分かった、と心の声で返事をした。
「らあっ!」
黒髪は駆け出し、俺にハリセンを振るってきた。
ブンブン階段を上りながらハリセンを振り回す。
俺は、逃げることに徹するため、相手に背を向けて階段を駆け上った。
「待てやっ!」
その瞬間、ワン、とポワロが吠えた。
同時に、黒髪が段差で躓いた。
「ちょっ……」
ゴン、と思い切り峰で、黒髪の頭をぶっ叩いた。
黒髪は、どさ、と糸が切れたように階段の上に伸びた。
……隙の匂いが無くても勝てたか?
「……って、こんなやつはどうでもいい! 四獣を追わねえと!」
「み、見逃してくれてっ!」
ポワロを元の姿に戻すと、ものの2分で男は捕まった。
俺が駆け寄ると、前の女子生徒の時みたいに、ポワロが男に馬乗りになっている。
「男から出てこないなら、札で無理やりお前を追い出す」
俺が強い口調でそういうと、男が慌てた様子で待ってくれ! と叫んだ。
……何かがおかしい。
俺は、男の次の発言に耳を疑った。
「こいつを、見逃してやってくれ! 悪いやつじゃねえんだ。 それどころか、俺に閃きをくれたんだ!」
……な。
四獣が人格を乗っ取っている状態じゃねえ。
素だ。
話に聞くと、男はパン屋に務めており、何かいい商品のアイデアは無いか? と考えていた。
気晴らしにホタルを見に行き、その時四獣に体を取られてしまった。
しかしその四獣の正体は、うどん屋の職人で、意気投合し、話すうちに、焼きうどんのパンはどうだ? となり、今に至るってわけだ。
「こいつと一緒にパン屋をやるのが、今の夢なんだ!」
……さて、どうするか。
悪事を働くつもりがねーんなら、見逃すか?
だったら……
「なあ、一瞬四獣のやつに代わってくれ。 他の仲間の居場所を聞き出すのを条件に、見逃してやる」
「……分かった。 聞いてみるよ」




