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66話

10/2にアイリスNEO様より書籍化予定です。

みなさま応援ありがとうございます!

なお、書籍化にともなって

「身代わり令嬢と堅物男爵の剣舞曲 ~貴族令嬢、 婚約破棄して駆け落ちした姉の後始末に奔走する~」

と改題することになりました。改めてよろしくお願いします。

 このまま談笑を続ける雰囲気でも無かったので、料理をそこそこ楽しんだあたりで切り上げることにした。店を出て、大通りのベンチに腰掛ける。今日は祝日で外を行き交う人も多い。母親に手を引かれた子供が無邪気に走り回ろうとするが、母親がしっかりと手を握って離さない。だが子供の方は意に介さずに好奇心をむき出しにしてあちらこちらを興味深そうに見て回っている。あまりにも無邪気な様子につい私も微笑んでしまう。ふと子供がこちらを見て微笑み返す。平和だな……。


「すまないな、大人げないところを見せた」


 と、アドラスが疲れた溜め息を漏らす。

 ごめんなさい、平和すぎて彼の疲労度を一瞬忘れてました。


「全然大丈夫よ。ところで……ええと、アレって知り合い?」


 つい無意識にアレ呼ばわりしてしまった。

 まあ良いか……ガラの良さそうな御仁でも無かったし。


「奴も僕と同じ魔道具職人でな。ただ、向こうの方が家柄が古い。こっちは新参な上に、魔道具の評価や売れ行きで買ってしまって……」

「あー……」


 得意な土俵の上で新参者に負けて、妬んでいると。

 なるほど、貴族同士……だけではなく、まあ人間の社会にはよくあることだ。

 仕方ない、こういうこともある。私にだって、蛇蝎の如く嫌われてる人は居る。

 そんなことよりも大事なことがある。


 愛と納得ってなんですか。


「ええと、その、アドラス」

「ああ、すまないな。気分転換に別の店で茶でも飲もうか」

「あー、う、うん」


 聞こうとしたタイミングでアドラスが立ち上がった。

 いや改めて聞くほどのことでもないし、あれこれ掘り下げるのも無粋だとは思うから、尋ねなくて正解だったのかも知れない。でもやっぱりどういう意味だったのか知りたい。



 今度は、軽食もできる開放的なレストランに立ち寄った。

 大通りに面していて、屋内の席の他にテラスの座席がある。テラスでは私達と同じく茶を飲みながら歓談していたり、時間つぶしに新聞を広げている人が居る。良い意味で堅苦しさの無い、まさに王都の日常を現している店だ。

 さきほどの店よりはやや庶民的な雰囲気だ。そこまで凝った料理は出さないが、空気が明るい。学校が忙しかったときはこういう店に来る余裕も無かったが、たまにはこうして羽を伸ばすのも良いだろう。


「あれ、アイラ。デートとは余裕ねー?」


 ……つまり開放的で庶民的ということは、庶民的な友人とも出会うということだった。振り返ってみれば、白いローブ姿ののっぽな女がにやにやしながらこっちを見ていた。ダリアだ。


「そう思ったなら放っておきなさいよ。そっちこそ卒業は大丈夫なの?」

「当たり前でしょ、もう卒業まで一週間も無いんだから」


 もう少しで卒業式が差し迫っている。

 私自身はもう部屋を引き払う準備を始めていた。ミスティが占有していたウェリング邸三階の一部を間借りし、自室の荷物を移動させている。


「おめでとう……確か、冒険者になるんだったかな? 活躍を祈っているよ」


 アドラスがダリアに微笑む。


「ええ、もう少し自由気ままに冒険します」

「怪我なんかしないでよね」

「しないって、怪我治すのは得意だからね」

「そーやって魔法に頼りすぎるから心配なのよ。もし魔法が封じられたら一瞬で死ぬなり傷が残るなり危険なんだから、気をつけなさいよ」

「あら」


 珍しいものを見たとばかりにダリアは目を丸くする。まったく、聖職者だというのに嘘がつけない無礼な子だ。


「なによ」

「わかったわかった、ご忠告痛み入ります。パーティの初仕事も近いし」

「ああ、本格的に冒険者稼業をするのね」

「付いていきたいって言ったって連れてってあげないから」

「はいはい。みんなで頑張ってね」

「……あ、言わなかったっけ? 色々あってパーティは作り直しで、迷宮都市行くのも延期」

「へ? ディエーレとギリアムは?」


 確か、腕の立つ友人同士で冒険者パーティーを組むという話だった。私もそこに勧誘されていたはずなのだが。


「ディエーレはなんか魔道具工房を作るとか言ってやっきになってるよ。それが一段落するまでお預けだって」

「ああ……」


 そういえばミスティ……私の親友にして隣人は、アドラスの妹、ミスティと共に仕事をしているはずだ。冒険者稼業を延期するということは、予想以上に本腰を入れて手伝ってるのだろう。


「んで、ギリアムはフリーで依頼を受けるから半年くらい待ってくれって言われてさ。仕方ないから他のメンバー見つくろって行くところ」

「フリーの依頼……?」


 なんだろう、ギリアムは人の話を聞かないところはあるが、剣や冒険に関わることで不義理をする人間ではないはずなのだが。


「あれ、まだ知らないの?」

「何よ」

「あんたのお姉さんの捜索依頼を受けるって言ってたんだけど」

「ほあ?」


 ほあ、とかやたら間抜けな声が出てしまった。


「全然知らないんだけど……アドラスは?」

「そういえば、ギルドの方から適任が見つかったと言っていたな……。具体的な面談をしたいから時間を作って欲しいと言われていた」


 つまり、私達に紹介されるのはギリアムということか。

 良いのかな……?


「え、えーと、ダリアは良いの? こっちとしてはギリアムくらい実力があるなら安心して仕事を頼めるってところはあるけれど……」

「ま、急ぐ旅でも無いしね。迷宮都市が逃げるわけでも無いし」

「そりゃそうだけどね」

「だからあんたらの披露宴も余裕で出席できるってわけ。楽しませてもらいましょうか。それじゃ、またね」


 ダリアはにやにやと笑い、去って行った。

 まったく、他人事と思って……。

 

「なんか、ごめんなさい」

「なに、良い友達じゃないか」


 気付けばアドラスもにやにやと笑っている。

 友達にずけずけした物言いをしているところはあんまり見られたくないのだけれど、かといってアドラスの前だからといって変に取り繕った態度を取るのもしたくない。女友達とも男の人ともフラットに応対できる余裕が欲しい。はぁ。


 と、溜息をついたところで、もっと脱力する事態に遭遇した。


「あれ? アイラだ」

「男と一緒に居るぞ」

「噂の婚約者か?」


 うわっ、更にダリアの後ろからどやどやと同級生やら下級生やらが付いてきてる。


「あ、そうだ。研究室のみんなも来てたのよ」

「じゃあ、邪魔するのも悪いし席外すわ」

「むしろこっちが邪魔と言わんばかりねー、まあわかるけど」


 と言って、アドラスの手を取ってさっさと脱出する。

 アドラスは苦笑いしながら付いてきてくれた。


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