第2話 電話少女
「おい!おい媽亜!おい!」
鳴瀬はリビングに倒れ込んでいる妹の媽亜を抱えながら叫んだ。
「おい返事しろよ!おい!」
しかし媽亜は既に息をしていなかった。
「くそっ!」
鳴瀬はふと時計に目をやった。
「この時間なら母さんも帰ってきてるはず....」
鳴瀬は媽亜をそっと地面に置き、家中を探し回った。しかし母親はどこにもいなかった。
「何がどうなってんだよ....」
それから鳴瀬は救急車を呼んだが、やはり媽亜は手遅れだった。
「うわああああああん!」
その日行われた通夜には媽亜の友達がたくさん来ていた。皆、小学生なので悲しいという感情をむき出しにして泣いている。
鳴瀬はその子らにつられて泣いてしまいそうだったので潤んだ真っ赤な目をそらした。
「鳴瀬....ちょっといいか」
鳴瀬は父親に呼ばれた。
「母さんのことなんだが....」
「見つかったの?」
「あぁ....」
「本当なの?」
「あぁ....」
「じゃあどこにいるんだよ!」
父親は躊躇った後にこういった。
「警察の厄介になっているそうだ。どうやらもっとも有力な容疑者らしい。媽亜を殺した。」
鳴瀬は戸惑った。
「何を言って....」
その日、鳴瀬と父親は近所の旅館に泊まった。
次の日、父親は色々な忌引きの手続きがあると言って朝早くに旅館を出ていった。
その後目を覚ました鳴瀬は何も考えずにただふらっと河原沿いを歩いていた。
「....媽亜.......母さんが..そんなわけ....」
「そうだよ。君のお母さんは媽亜ちゃんを殺してない。」
突然鳴瀬は話し掛けられた。そこには、白髪の高校生ぐらいの少女が立っていた。
「....何言ってんだお前」
「簡単に言わせてもらえば、君の妹を殺ったのは君のお母さんじゃなくてこの私」
「は?うっせえ。勝手に部外者が適当なこといってんじゃねぇよ!」
「わ~、こわいこわい」
その少女は棒読みで小馬鹿にしたような態度でそういった。
「クソが!!!」
鳴瀬はその少女の胸ぐらを掴み怒鳴った。
「ごっめんごめん。私は別に君を怒らせにきたわけじゃないんだ。」
鳴瀬は胸ぐらから手を離した。
「....感情的になって悪かったな」
「うん。そうだね、君が悪かった」
鳴瀬はプチんときたがあえて何も言わなかった。
「で、お前は誰なんだよ」
「私は、うん....リリリ、とでも名のっておこうか。まぁただリリリってのも味気無いから電話子とか適当に呼んで」
「いや、電話子とかダサすぎだろ。リリリでいいわ。てかどうせ呼ぶ機会とかねぇから。」
「まぁ雑談はこの辺で終了。本題にはいるよ」
それまでの表情とは違う真剣な表情でリリリという少女は言った。
「君の[死んだ事実を消す]能力。それが自分の死でしか発動しないのはもちろん知ってる。でも、今、もしも私の発言。私が媽亜ちゃんを殺したっていう事実が本当だとしたら?」
「........俺がお前に殺されればお前の存在ごと媽亜が死んだ事実は消える」
「あったり~」
鳴瀬は色んなことを考えた。
なぜこいつが俺の能力のことを知っている?そもそもこいつはなんだ。こいつの言ってることは本当なのか?本当なら俺がこいつに殺されれば媽亜は助かる。
「君だってわかってるはずだよ。もしもこれから媽亜ちゃんを殺した犯人を見つけたところで君は自分を殺させて、自分がその場で死んだという事実と共に媽亜ちゃんが死んだという事実と犯人の存在そのものを消す。そうするしかないんだって」
「仮にお前が言ってることが本当だとしてお前は俺を殺してくれるのか?お前が俺を殺せばお前の存在していたっていう事実を俺は消しちまうんだぜ?」
「うんわかってるよ。だから私は君を殺さない」
「....」
「なに?殺してほしいの?」
「あぁ、そうだよ。別にお前が媽亜を殺した犯人じゃなかったとしてもお前が消えたところで俺にはなんの不利益もねぇんだよ。だから、さっさと殺せよ」
「ほぉ、それでもし私の言ってることが本当だとしたらラッキーってことね」
「あぁ..」
「へ~いいよ。別に私は君を殺すことなんてこれっぽっちも怖くないんだよ?」
「お前の存在は消えちまうんだぞ?」
「試してみる?」
そういうとリリリは軽々と鳴瀬を蹴飛ばし手で首を締め付け川の中へと沈めた。
(こいつ、俺を溺死させるつもりか)
「知ってる?溺死って苦しいんだよ?」
意識が遠退いていくなかで鳴瀬は苦しみながらも笑っていた。
そして鳴瀬は死んだ。