花弁
生きたいとか死にたいとか、そんな事ばかり考えていた。
何故生きていたいのか?とか、何故死にたいのか?とか。
本当に生きていたいのか?とか、本当に死んでも良いのかな、とか。
君にさよならを言うのが怖かった。
一際大きな風が吹いて、桜の花弁が舞う。あぁもう春も終わりに近いな、なんて考えながら河川敷を歩く。ふと空想してみる、今この場所に、隣に君が居たら。僕の表情を、この顔を見て、なんて言ってくれるんだろう。暗い顔してたら、怒られるかな、心配されるかな、それとも励ましてくれるかな。君は気まぐれだから、どうやって僕に声をかけてくれるんだろう。視線を下に落とすと、花びらがアスファルトにへばり付いているみたいに、風に乗れないでいつまでもそこにしがみ付いているように見えた。人に踏まれてか、それとも枝から離れたせいか、花弁はもう茶色くくすんで、醜い色になっていた。少し前までの僕ならば、目にも止めなかったんだろうその色。くすんで醜くて、ゴミの様に蔑まれて踏みつけられて、風に乗れず誰の目にも触れず、景観を損なうその茶色を気にも留めなかったんだろうと思う。けれど、今は真逆だった。舞う花弁よりも、アスファルトに張り付いて動けないたくさんの、たくさんの醜く汚れた花弁に自分を重ねていた。
舞う花弁は君
いつまでも動けない僕は
景観を損なう汚い花弁
誰にでもなく自嘲するように、僕は心の中で吐き捨てた。落ちていく花弁に君を重ねるのが、なんとなく不謹慎に思えた。けれど、僕は視線を上げる。けれど、舞う花弁は僕の掌からするりと零れていく。するりと、ふわりと、ゆっくり地面に落ちていく。それを止める事は誰にもできない。僕にも、君にも、きっと誰にも。そして落ちきった花弁は醜く黒ずんで蔑まれるか、または綺麗なまま誰かの視線を奪うんだろう、花弁の絨毯の様に、一面を明るいピンク色に染めて。あぁ、じゃあやっぱり舞う花弁は君だ。なんて、柄にもなく微笑んでしまいそうになった。僕は落ちる花弁を眺め、くすんだ花弁を見つめ、そしてまた前を向いた。
きっと君は怒るんだろうね。こんな風に考える僕の、卑屈さや自分勝手さに。分かっているんだよ、でももう無理なんだ。きっともう、何もかも遅かったんだろうと思うよ。あの日、桜の花弁が散ってしまって、君はアスファルトに吸い込まれてしまって。僕も一緒に落ちたかったのだけれど、少し、時期がズレてしまったんだろうね。
だからどうか怒らないで欲しい、それが自然だった事の様に、僕も今落ちるのが自然なんだろうと思うから。理解してくれなくても、怒ってくれても、泣いてくれても嫌ってくれても構わない。
ただ、君に寄り添って落ちていきたいんだ。
どうか許してほしい。
愛しているよ。
愛しているよ。
舞う花弁
落ちる君
落ちた僕