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ひだまりの国

ひだまりの国 牡丹たちのバレンタイン

作者: 白波



 バレンタインデー当日。北上(きたがみ)牡丹(ぼたん)は、こちらの世界にある材料で作ったチョコに非常に近い菓子を包んだ袋をカバンに入れる。

 できることならチョコが良かったのだが、残念ながらこちらになかったので、味と見た目。ともに近かった旧王国領での伝統料理をカラフルな紙で包んでみたのだ。


「これで良しと……」


 牡丹は、普段お世話になっている人たちにチョコらしきものを配るために部屋を出た。






 牡丹が最初に訪れたのは、隣で寝ていたヴァーテルと上代(かみしろ)竜也(りゅうや)のところだった。


「ハッピーバレンタイン! チョコ持ってきたよ!」

「えっ本当!? もしかして」

「二人とも義理だけど」


 竜也のテンションが急降下し、その横でヴァーテルが、彼の言動を理解できないといった様子で首をかしげている。


「確か、そのバレンタインチョコとやら先ほど、雪草(ゆきぐさ)蓮華(れんげ)だったか? そいつも持ってきていたな……」

「えっ蓮華が来たの?」

「あぁ。竜也に義理だとか言いながら、これと同じものを渡していた」

「そうなんだ」


 蓮華が来ていたのは予想外だが、彼女ならやりかねない。

 牡丹たちがお互いにチョコを渡したりというのは毎年やっているからだ。さすがに旧王国領を抜けて遠くに行った行商の向島(むこうじま)百々(もも)は来ないだろうが……


「なら、蓮華もまだこの近くかな?」



 落ち込んでいる竜也のそばにチョコを置き、ヴァーテルにも渡してから牡丹は宿の外に出て行った。






 宿の外に出ると、蓮華が入口にもたれかかる形で立っていた。

 彼女の前を見れば、アウラがチョコらしきものが入っているとみられる箱を持っていた。


「蓮華。久しぶり」

「あら、牡丹さんではじゃありませんの! 奇遇ですわね」


 牡丹に話しかけられた蓮華はとても上機嫌で今にも鼻歌でも歌いそうだった。


「偶然? 竜也にチョコを渡しに来たんじゃないの?」

「ちっ違いますわ! そういうつもりでは……そもそもあれは、義理チョコでございますよ」


 蓮華が顔を真っ赤にして否定するしつつ、カバンからもう一つ箱を出した。


「牡丹さんにもありましてよ。いわゆる友チョコってやつですわ」

「ありがとう。それじゃ、私のもあげる」


 その後、しばらくお互いの近況を話していた牡丹と蓮華だったが、そろそろ行くところがあるということで、蓮華と別れることになった。


「まぁどこかで会いましょう」

「えぇ。もちろんでございますわ」


 牡丹と蓮華は握手を交わし、蓮華は手を振りながら立ち去って行った。


「そうだ。アウラにも……」


 すっかりその存在を忘れていたアウラにもチョコを渡そうかと思ったのだが、肝心のアウラの姿がなかった。


「アウラ?」


 牡丹は、その場に立ち尽くしていた。






 そのころ、フェラ帝国の西部に位置する町。

 この町に来ていた百々たち行商一行は、宿の大広間で体を休めていた。


「親方。これを」


 百々がチョコに似たお菓子を包んだ袋を親方に渡す。


「これは、お前が前に行っていたバレンタインチョコとやらか?」

「はい。日ごろお世話になっているお礼に」

「そうか。ありがとうよ」


 親方は、袋を開けてチョコらしきものを食べ始める。

 このお菓子は、旧王国領に古くから伝わるお菓子……つまり、牡丹が配っているものと同じである。


「皆さんにもあるからな」


 百々の一言に疲れ切っていたはずの男たちが一斉に百々のところに集まっていくのだった。






 牡丹がアウラを見つけるころには夕方となっていた。


「アウラ。どこ行ってたの?」

「これ」


 アウラが、ピンクの包みを牡丹のほうに突き出した。


「これってもしかして」

「バレンタインのこと蓮華姉ちゃんから聞いて、探してたの」

「そうだったんだ。ありがとう」


 牡丹は、包みを受け取ってアウラの頭をなでる。


「それじゃ、おいしく食べるからね」

「うん!」

「さっ早く宿に戻ろうね」


 牡丹とアウラは、夕日が赤く染めていく道を手をつないで歩いて行った。



 読んでいただきありがとうございました。

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