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愚者と悪魔の物語  作者: らいった
第0章後編  物語の始まり
5/50

プロローグその5  目覚めたら 修正済

なかなかクドイ展開かもしれませんがお付き合いくださいませ。

 ……黒と赤で彩られた、混沌というのを表現したらこのようになるのだろうという空間。その中に俺は居た。


 ーー主様……ーー


 ここがどこなのか、何のためにここにいるのか、そういったことが何もわからない。ただ俺はなされるがまま、ぼんやりとしていた。


 ーー貴方様は最高ですーー


 そうやって揺られていると空間全体を振動するように声が響きわたる。


 ーー私は貴方様を見誤ったーー


 ーー貴方様は私に答えをくれるかも知れない人ーー


 言葉に反応し、黒と赤の空間が鳴動を始めた。


 ーー故に認めようーー


 ーー貴方様は生きるに値するとーー



 締めのごとく強く告げられる言葉と共に、黒と赤の空間が突如光輝き、白に塗り潰されていく。


 そして俺自身も白の空間の中で白く塗り潰されていった。







    ※




「うっ……」


 胸の中心部がズキンと痛み、俺は目を覚ます。

 直前まで何か夢を見ていた気がしたがどうにも頭がはっきりせず思い出せない。


「ここは……?」


 それでも何とか頭を動かし、とりあえず周りを眺め思考を巡らせる。ーーつまりここはどこかと。


 俺は今、天井、壁、床全てがピンク色で構成された、お世辞にも趣味が良いとは思えない無駄に広い部屋のベッドの上に寝ていた。ちなみにベッドもピンクと精神的に参りそうな構成である。


「ん~それでもこの部屋がこの城で一番ましだと皆が言うのですわよね」


 と、その時、まるで人の心を覗いたかのように、自身以外の気配が感じられなかった部屋の内部で突然甘い声が響いた。


「おはよう。気分はどうかしら?」


 何処か力が抜けるような甘ったるい声。その声がした方を向くと、部屋入り口付近に、扇情的な形状の紫のドレスを身に纏った、絶世の美女とでも言えそうな美貌を持つ金髪の女が立っていた。


「ちょうどお茶にしようと思っていましたの。貴方もいかがですか?」


 その美女は俺は見て微笑みながら問いかける。そのすぐ側にある机には、湯気が上がるティーカップが二つ置かれていた。


「ここは……? 何故俺はここにいる?」


 当然の如く持つ疑問。それをぶつけると女は微笑みを崩さずに俺に近づき、答えを述べる。


「ここはわたくしの城ですわ。森で倒れていた貴方をここまで連れて来たんですのよ」


 何故森で倒れたのかはわからない。だが、どうやら俺は目の前の女に助けられたらしい。


「すまない。お蔭で助かった」


「別にわたくしはただ連れてきただけですので礼は不要ですわ。魔物はメフィちゃんが結界を張ってたから問題なかったですしねぇ」


「っ!? メフィ……!?」


 メフィ、悪魔メフィストフェレス、その名を聞いた瞬間俺は全てを思い出した。


「そうだ、俺は……!?」


 俺は確か奴を喰らったはずだ。なのに俺の体は相変わらず透き通っているし、強くなった気がしない。体中を見ても変化は精々噛み切られた左腕にもとのような腕が生えているくらいだった。


「…………?」


 何故何も変化がない?いや左腕は治っている。けれどそれだけか?俺は界を渡る力を持つ悪魔を喰らい内に納めたはずだ。何故何も満足感も力も得られていない?


 疑問を持ちながら思考を巡らせていると、女がこちらを向いて自身の豊満な胸を指さしているのが俺の眼に飛び込む。


「……随分立派なモノを持っているな」


 ドレスからこぼれるくらいの双丘を前に思わずもれる言葉。その言葉に目の前の美女はくつくつと楽しそうに笑い声を上げた後、強調するように胸元を寄せながら話しかけてくる。


「あら、ありがとうございます。ためしに揉んでみますか? うふふ。でも、そうじゃなくて貴方の胸をご覧なさいな?」


 俺の胸を指差す女の言葉に従い、俺は自身の胸を見る。

 そこには、前の世界で着ていた白いワイシャツが狼の返り血が着いて赤黒くなっており、特に変わった所は見受けられない。


「これは……!?」


 と、その時、何気なく服を脱ぎだして始めて、今までの差異に気がついた。

 ーーそう、服の下にある俺の生身の部分、コバルトブルーに透き通っていた胸の中心に、黒の中にまるで血管のように赤のラインが入った球体が埋め込まれているのを見つけた。


「そう。それはスライムとなった貴方のコアであり、メフィストフェレスの力を封じ込めたモノ、つまりはあの子の体そのものですわ。……貴方が喰らった、ね」


 妖艶な笑みを浮かべ、説明する女性を前にふと背筋が凍る。何故この女はそれらを知っている? そもそもメフィストフェレスをメフィと呼ぶこの女は何者なんだ?? と。


 俺は寝かされていたベッドから飛び上がり、警戒しながら出口を意識しながら女性に尋ねる。


「あんたは何者だ?」


 目の前の女性は隙だらけのようで隙が見えない。それでも俺は殺気を放ちながら、サーベルウルフの時のように右腕を刃のように変型させる。


「うふふ、ダメじゃないそういう質問は一番最初にしなきゃ。それでは悪い人に騙されますわよ? けどまぁ気づいてからの警戒や殺気の向けかたは及第点かしら。今後に期待と言う意味では十分ですわね」


「良いから早く答えろ!!」


 向けた殺気を気にもせず、変わらぬ様子で上から目線で話す女性。その様子に俺は焦れながら訊ねる。


「あらあら。何事もせっかちな男は女に嫌われますわよ? まぁ、問われたからには答えましょう。始めまして、メフィストフェレスの契約者さん。わたくしはアスモデウスと申しますわ。この城の主にして、〈色欲〉を司る魔王をさせていただいております。これからは気軽にアスとお呼びくださいませ」


 優雅に頭を下げ、一礼と共にアスモデウスと名乗る美女。その様子は男というものを魅了する色香を放っていたが、俺はそれに囚われること無く、ただただ驚きの声をあげる。


「魔王だと……!?」


「ええ、世界に7体のみ存在する魔物の王の一角であり、この世界の人類の天敵の親玉ですわ。まぁ、だがらといって人類を滅ぼそう何て考えず、時々

良い男を誘惑しているだけの健全な魔王ですけどね」


 健全な魔王というのも可笑しい話であるとは思う。だが、俺は動揺し、そこに疑問に思うほどのゆとりも残ってなかった。


「……何故魔王が俺とメフィストフェレスの関係を知っている?」


「それはもちろん全部見ていたからですわ!! 貴方が抵抗しないメフィを無理矢理押し倒して骨の髄まで味わいつくすのを…………コホン、すいませんわね。つい、何時もの癖で語り始める所でしたわ。…………ええとまぁかいつまんで言うならば、メフィとわたくしは親友で、あの子が異世界まで契約をしにいく何て面白いことをするから、野次馬に行ってたんですのよ」


 ドヤァというように自慢気に話すアスモデウス。その顔に妙に人間臭さに似たようなものを感じながら、俺はさらに疑問をぶつける。


「奴は魔王と友になれるくらいすごいのか?」


「ええ。あの子は〈傲慢〉を司る魔王のもとで公爵の地位についていますわ。まぁ、正直あの子の実力ならば大公なんかよりも上ーーそう、マンモンが崩御してから空位となっている〈強欲〉の魔王となるにふさわしいはずなのに、天はあの子を選ばないし、本人もその気が無いので、ムカつく馬鹿の元でフラフラと生きていますわね。……全くもうルシファーのアホは放置しているなら〈色欲〉に譲ってくれれば良いのに、あいつの上に立てるのは俺だけだとかどれだけ自惚れるつもりって話ですわ……」


 最早愚痴にしか聞こえない様子で呟くアスモデウス。……とにかくアスモデウスの話によればメフィストフェレスは強いらしい。では何故俺に力が湧かないのだろうか?


「それはあの子がそのコアの中に力を抑え込んでいるからですわ。その点に関しては貴方はあの子に感謝しなければならないんですのよ?」


 と心を読んでアスモデウスは俺に告げる。それに俺は思わず噛みつかん勢いで反論する。


「感謝する? 何故だ!? あいつは俺を騙し、満足させ魂を奪おうとした!! 俺が感謝する必要など何処にある!!」


 恨みは消えない。騙し魂を奪おうとしたことは事実だからだ。


 しかし、


「考えて見なさいな。今の貴方はスライム。その魂の中に魔王級の力が急速に入り込んだらどうなります?貴方は力に耐えきれずキレイに弾けるでしょう。 それにあの子を喰らった時の衝動もなく、今理性的に考えられるでしょう? それもあの子のおかげなのですよ? 要するに結果的に貴方はあの子に命を救われこの地に立ったということですわ」


 まるで諭すように紡がれる言葉。その言葉に俺は何も返せなかった……

長くなるので一度切ります。

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