第13話 ダンジョンへようこそ!
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「ここか・・・」
〈強欲〉の魔王領、人間の国に近い森の中のダンジョンの前に今、我はいる。我は〈怠惰〉に属する主様のダンジョンで作られたバードマン、名前は無い。
敬愛する我が主様より、近辺で発見された初心者用ダンジョンの偵察、可能なら攻略を命じられて主様の副官たる我は今ここに来ているのである。
我が主様は焦っていた。最近、人間達を多く見かけることや、前に存在した中級ダンジョンの崩壊により野生に帰り暴れまわっていたコカトリスを中心とする群れが、何者かの手で壊滅したということを知ったのだ。その者達によっていつ自分達のダンジョンが襲われてもおかしくはない。だから、保険として以前から目をつけていた初心者用ダンジョンへの侵攻、及び支配のため我を派遣したのである。
「ふむ・・・、初心者用ダンジョンにしてはしっかりとした作りだな」
ダンジョンの中の様子を見てふと呟く。入ってすぐの場所にワープ床があり、それを飛んで避けた先にも落とし床があった。正直ダンジョン生まれで翼を持つ我でなければ気づいて避けることが出来ずに少なからず被害を受けそうな罠である。
その罠に感心しつつも、初心者用ダンジョンならこれ以上のことはないだろうと高を括り、敬愛なる主のために足を進めて階を降りていき、3階層に降りたその時ーー
「ーーーー!?!?何だ!?これは!?」
思わず声が出る。何故ならそこには、ありえないはずの密林が広がっていたのだ。
「ここは初心者用ダンジョンのはずだ!?何故改変されている!?」
本来、フロア改変を出来るのは中級ダンジョンからのはずであり、実際我が主様のダンジョンにも密林はある。しかし、このダンジョンは初心者用のはずだ!?この矛盾はなんなんだ!?
混乱することばかりだがこれは主様に正確に連絡する必要がある。そう思い、我は翼を広げフロア改変により偽りの空を映しだされているダンジョンの天井近くまで飛び上がりフロア全体を見渡す。
「広いな・・・・・・」
フロアは予想以上に広大であり、下り階段は見えているものの、そこまでに何やら魔物の気配がする。
これは一筋縄では行かない、主様に連絡しなくてはと思い、連絡用魔道具を使用しようとしたその時ーー、
「ぐうっ!?!?」
ーーいきなり何かが私の翼を射抜く。なんとか墜落を免れたものの、痛みが激しい。痛む翼を見ると、そこには銀色の矢が刺さっていた。
「攻撃されているだと!?一体どこから!?」
見回してみても気配はない。ただ、直感的に感じる。まだ我は狙われていると。
だから飛んでくるであろう矢にのみ意識を向け、我はゆっくりと降下する。すると予想通りどこからか矢が飛んできた。
「くっ!!風よ!!」
飛んでくる矢は前方から襲いかかってくる。それに対し我はスキルを使用し翼からの風を発して軌道をずらした。だがーー、
「!?!?」
風により軌道をずらしたはずの矢がまるで生きているかの様に再びこちらに向けて襲いかかる。それをなんとか手で持つ武具でいなすも、一本、二本、三本と矢は連続で襲いかかり、我の翼に直撃する。
「ぐわぁぁぁぁ!!」
連続で突き刺さる矢に耐えきれず我は墜落し、森の中に落ちる。木々がクッションになったお陰でダメージは無いものの、翼は痛むためしばらく動けそうもない。すぐにダンジョンから脱出出来そうもない状況の中、矢の攻撃を逃れるために木々に隠れ、主様と連絡を取ろうとした瞬間ーー、
「「「「ブウゥゥゥン」」」」
何体かの虫の羽音が響きわたる。その音に慌てて振り返ると、そこには巨大な蜂達が針状器官をこちらに向け、今まさに襲いかかろうとしている所だった。
その時、我は悟った。自分の死期を。翼を使えず、スキルを使用出来ない我にもはや足掻くための術はないと。通信用魔道具を使う暇さえなく襲いかかる蜂達を前に口から自然と言葉がもれだす。
「・・・主様。ここは危険でーーー」
その言葉を最後まで言い切ることが出来ずに、我は身体中に走る痛みとともに意識を無くしていくのだったーーー。
※※※side???end※※※
ーーー
「侵入したバードマン1体の死亡を確認しました」
「・・・死んだか」
液晶に自分と同じ背中から羽の生えた男がレラジェに狙撃された後、ラージホーネットに襲われ死んでいく姿が映されているのを見ながら、俺はぼそりと呟く。
模擬戦からさらに一週間あまりが経った今、ダンジョンは予定通り完成していた。ダンジョンは食料の問題などから当初の予定を多少変更し、3~4階層を拡大と改変を駆使してそれぞれ密林、砂漠フロアとし、カモフラージュしながら5階層との直通の転移陣をおき、5階層に訓練部屋と医務室兼ケットシー達の部屋、それに名前付きの魔物や俺達のための個室を作り、6階層にダンジョンコアルームを置いた。
そして、新たに生産した魔物達は密林フロアにはラージホーネット、ゴブリン、ポイズンスパイダー、ナイトクロウが居住区を作り、砂漠フロアにはキラーイーグル、ウルフ、ミニドラゴンがそれぞれ居住区を作っていた。
また、俺達がいない時の代理としてレッサーデーモンを生みだし、ガープと名付け、直属の配下として土巨人を何体かをつけてやり、ダンジョンコアルームの守護などを任せる。
そんなこんなでダンジョンが完成し、DP確保のためにダンジョンの認識誤認の石像を外そうかと考えていた時にやって来た侵入者が彼だったのだ。
「マスター、死体はどうしますか?」
「食べれるところは魔物達に分け与え、後はスライムに消化してもらってくれ」
その言葉でヒェンが命令をし、ケットシー達が解体道具を持って出動する。今までの経験から俺もレナも大分精神的に慣れてきており、液晶に映し出される死体の解体現場を黙祷とともに見守る。そして、解体を終え、部位毎にケットシーが各魔物達の居住区に運んで行くのを見ていると、ヒェンが報告してくる。
「持っていたモノから通信用魔道具が発見されました。恐らく、あの魔物は勢力拡大のためにこのダンジョンの支配を目論む他のダンジョンマスターからの刺客かと思われます」
「ん?他のダンジョンマスターが別のダンジョンを支配出来るの??」
「ええ、中級以上のダンジョンにはダンジョンコア情報コピーということが出来、マスターの居ないダンジョンを自分のモノにする事が出来るのです」
確かに作成物の中にそのようなものがあった気がする。だが、何故今になって来たのだろうか?そんな疑問にヒェンが仮説であると前置きしながら意見を述べる。
「元々ここ、〈強欲〉の悪魔達は以前王都で老人が申していたように人間と極力不可侵の協定を結びました。そして魔王不在のために崩れた国を立て直すため、隣接する〈色欲〉や〈怠惰〉の魔王に土地にダンジョンを作る許可を与える代わりにいざというときの守護を二人の魔王に頼んだのです。しかし、その二人の魔王もそこまで積極的にダンジョンを作りませんでした。ですから昔からここらは平和で冒険者も多くありません。しかしーー」
ヒェンの言いたいことの予想ができた。思わず目を合わせると、ヒェンは大きく頷き、
「しかし、以前の騒動で今は数多くの冒険者が訪れるようになりました。ですから、この近辺のダンジョンマスターもダンジョンが攻略される危険性を考えて、我らのダンジョンを自分のモノにしようとしているのかもしれません。転移陣で繋げばいざというときの逃げ場所に出来ますので」
実際、もう一つダンジョンがあるのは大きい。避難場所にするもよし、食料を生産する場にするもよしとメリットが多く、これといったデメリットも見当たらない。だから俺も決意する。ダンジョンマスターを倒し、ダンジョンを奪うことを。
「・・・ヒェン、奴が来たダンジョンがどこにあるか分かるか?」
「すみません、サーチャーの範囲外なのでなんとも・・・哨戒に出ているベリトが見つけられるかもしれませんが・・・」
ベリトには俺と連絡するための魔道具を持たせている。後で連絡をとってみるかと考えていると、
「じゃあさ、ギルドに行ってみない?ギルドは今まで発見されたダンジョンの情報とかまとめているから何かわかるかもよ?」
ウイングキャットを抱いたレナが提案する。ちなみに一週間の間にウイングキャットもレナに打ち解けて、彼女の腕の中が定位置になっていた。
「そうだな・・・ならロックブーケに行くか。あそこがここから一番近いしな」
「なら主様。私も付いていってよろしいですか??主様が他のダンジョンを支配し、先に進もうとしている今、貴方の感情をじかに感じたいので」
俺の言葉に反応して最近大人しかったメフィが話しかけてくる。
「かまわないさ。だが、感情に変化が起きているのか?俺は??」
「ええ、現に他のダンジョンを攻めることに違和感を感じなかったでしょう?ダンジョンという土台が完成した今、主様は自然に次を望むようになっています。ですから私は見届けたいのです。貴方が変わっていく様を。貴方が見せてくれるといった先を。・・・・・・・・・あ、決して出番が無いので無理矢理ねじ込もうとかそういうのじゃないですよぅ??」
最後のは余計だったが、単なる照れ隠しだろう。まだ自覚は出来ないが、メフィの言いたいことはわかる。
「わかった。約束したしな。ついてこいよ、メフィ。ともに先へ進もう」
そう言って、俺はヒェンに後を任せ、レナとダンジョンの出口へ向かう。その肩に赤い目を輝かせる黒猫を乗せながらーー
次回は年明ける前には投稿したいですね。1月は忙しいので。




