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愚者と悪魔の物語  作者: らいった
第2章後編  嫉妬と強欲
41/50

第10話  レナの覚悟

 もしかしたら書き直すかも。そういう感じの回

「・・・・・・」


 深い森の中、一人の丸腰の村娘風の女が三人の男に囲まれていた。女は採集にでも来ていたのか巨大なバスケットを持っている。


「ぐぇっへっへっ。嬢ちゃんはここらへんの村娘か何かか?まぁいい。こんな森に一人でいるおめぇが悪いんだ。ちょうど弱い魔物狩りにあきていたところだし、大人しく俺らと遊んでもらおうか??」


 そこは男が三人と女二人の冒険者が野営している結界の魔道具の中だった。


「あ~、やだやだ男ってのはさ。あたし達は残りの魔物で楽しんでいるからさ。あんた達は見えないところでやってよね」


 一人の女が何かの血で濡れた剣を手に言う。


「ああ、わかってるよ。こちとらてめぇらが身体貸してくれねぇからたまってんだ。せいぜい楽しませてもらうぜ」


 下卑た笑いをしながら言葉を返す男。



ーーその時、囲まれている村娘風の女が会話を聞いて反応を返す。


「・・・貴女達は何をしているの?」


「ああん!?見りゃわかるでしょ??魔物をいたぶって楽しんでんのよ。ストレス解消にいいのよね」


 そう言いながら、ゴブリンを切りつける女冒険者。すでにゴブリンは事切れている。それを見て女が尋ねる。


「そのゴブリンは貴女達にとって殺す必要があったの?」


「はぁ?何言ってんのあんた??あたし達レベルになるとこんな魔物殺しても何もメリットなんて無いわよ。ただ、暇つぶしに殺しただけ」


 それが当然の様にゴブリンを切り刻む女冒険者。その様子を見ながら、村娘風の女はため息をつく。


「・・・なんでみんなわからないんだろうね。ギルドを作った人の思いをさ」


「は?」


 突然の女の態度に反応できず、間抜けた声をあげる冒険者達。


「・・・しょうがないか」


 言葉と共にバスケットに手を入れる女。周りの男や女が呆然としている中、女はバスケットから棒のような物を取り出す。その先端には赤、紫、緑、黄が混ざったような色の不思議な球体が付いており、周りを透明な水が覆っている。


「フィーアちゃん、〈形態変化〉パターンBで行くよ。硬化お願い。あと麻痺と毒化も」


 女の声に反応するように、その棒に付いている水が急速に動き出す。そしてまるで生き物のように動いた後、水は剣の刃の形と化し、さらに黄色と紫色に染まっていく。


「それじゃあ行くよ」


 剣と化したモノを手に駆け出す女。目の前にいる男三人に斬りかかる。まずは一人目、袈裟斬りに切り下ろす。


「はぐっ!?」


 一撃で斬られた男は死にはしない。だが男は痺れたように崩れ落ちる。


 そのまま女は勢いのまま二人の男に斬りかかる。


「ふ、ふざけんなぁぁぁ!!」


 さらに一人の男が斬られる中、もう一人の男が叫びながら、女の死角から斧を振り下ろす。


 その声に反応し、女はスキルを使用する。


「守護方陣!!」


「ふぐっ!?」


 言葉と共に彼女を覆うように現れた光の壁が男の斧を弾き、体勢を崩させる。そのまま女は追撃し、男は痺れたように崩れ落ちる。


 瞬く間に崩れ落ちた三人の男達を目にし、二人の女冒険者は震える声で叫ぶ。


「あんたは・・・あんたは一体何者なの!?」


「私?・・・そうね、私は勇者マルグリッド。虐げられるモノを守る者よ」


 その答えに驚愕する二人の女。


「うそよ!!勇者は死んだはずでしょ!!だから殺した魔物に賞金がかかっているんでしょ!?大体勇者なら何であたし達を襲うのよ!?人間のために魔王を殺すのが勇者なんでしょう!?」


 信じられないような目でマルグリッドと名乗る女を見る女冒険者達。その目を向けられた女は悲しそうな顔をして言う。


「勇者とは魔王を倒す者じゃないんだよ。勇者は昔から弱きモノを守る存在。だから私はその子達を守るために剣を振るう」


 言い切る女にさらに驚愕する二人。


「こんな魔物を守るだって??頭イカレてんじゃないの!?これは殺すべき相手でしょう!!」


「虐げられるモノに人も魔物も関係ないんだよ。生きるために食らう必要があるなら構わない。強さを求めるため、襲ってくるモノと戦うのは構わない。ダンジョンを攻略に行くのは構わない。・・・けど、戦う意思の無い格下のモノを虐げる人だけは許さない。ーーそう、私達は見ていたわ。ここに野営をする前、貴方達が戦わずに逃げようとするその子達を後ろから斬りかかり殺す所を。だから今回は彼に譲ってもらったのよ。あまりにも許せなかったから」


 そう言って剣を構え直して、さらに紡ぐ。


「さあ、貴女達も剣を取りなさい。戦う覚悟を見せなさい。私はもう貴女達を殺す覚悟をしたわよ?」


 凛とした声が響く。その言葉を聞いた女冒険者達はとまどいながら行動する。


「冗談じゃないわよ!!あんたなんかに構っていられないわ!!あたし達はあんたが生きているという情報で儲けてやるんだから!!」


 捨てゼリフと共に逃げ出す女達。それを見た自称勇者は目を細め、剣の持ち方を変え、大きく後ろに振りかぶる。


「フィーアちゃん、〈形態変化〉パターンW、補正お願い。まとめて捕らえるわよ」


 言葉に反応するように水の剣が形を変える。鋭い刃となっていた部分が丸くなり、細長く延びていく。まるで鞭のように。


 そして、鞭状になったそれを振り下ろす女。真っ直ぐ延びていく水の鞭は逃げている女冒険者に追いつき、ぐるりと生きているように巻き付く。そのままさらに延びて行き、もう一人の女冒険者も捕らえた。


「な、なによこれぇ・・・!?きゃああぁぁぁ!?!?」


 水の鞭に捕らえられた女達が突如悲鳴と共に崩れ落ちる。よく見ると巻きついている部分の内側で水が棘のような形になっており、刺さったところから血が出ていた。


「ありがとうフィーアちゃん。もう一度剣になってくれるかな?」


 鞭のようになっていた水が再び縮み、先程と同じ剣の姿へと形を変える。それを見た女は何も言わず、倒れている女冒険者に近寄り、水の剣を振り下ろす。


「ぐふっ!?」


 女冒険者の首から血が流れ、光が消えていく。それを無表情のまま眺めた後、もう一人の女にも同じように斬りかかる。


「な、なんで・・・ぐっ!」


 うめき声とともに女の命が絶たれる。そうして静寂が戻り、立っているのがマルグリッドと名乗る女だけになった時、彼女の後ろに空から一つの人影が降りてきた。


「レナ・・・」


 空から降りてきた背中から翼を生やした男は心配そうに声をかける。その声に振り返りながら、まるで糸の切れた人形のように男の胸に倒れ込む。


「・・・大丈夫、大丈夫だよ。・・・けどちょっとだけ胸をかして・・・」


 震える声でそう呟き、男の胸にすがりつき、すすり泣く。


 それがどういう意味かわかっているのか男は黙って彼女の頭を撫でながらじっとたたずむのだったーー。








ーーー



ーーあれから王都から帰った俺達は、早速スライムツヴァイから進化したスライムフィーアの元へと向かう。そこにいたのは四つの赤、紫、緑、黄色が混じった核を持つ、巨大な水で出来たスライムだった。



△▲△



race;スライムフィーア



Lv1

HP;420/420

MP;100/100



力 C

タフネス B

敏捷性 C+

知力 D(C)


()は〈王権〉による補正


〈特性〉〈捕食吸収〉〈毒耐性〉〈麻痺耐性〉〈火耐性〉〈風耐性〉〈4つの心〉〈形態変化〉



スキル 硬化 毒化 麻痺化



※〈4つの心〉・・・最大4体まで分裂可能。能力は全て本体と同等になる


※〈形態変化〉・・・任意の形に身体の液体部分を変形可能



▽▼▽



 そこそこ強いステータス。それに何よりも新たな〈特性〉が目を引く。実際に分裂させてみると、普通のスライムより少し小さな大きさのスライムが4体になり、各々スキルや〈特性〉を使用する事が出来、姿形も自在に変えられる。


 その利点をなんとか利用出来ないかと考えていた時、ふらっとやってきたマルトが提案がする。すなわち、フィーアの核の一つを魔道具に組み込み、水による多様性を持つ武装として使用するのはどうかと。


 俺達はそれに賛成し、フィーアの許可を得てマルトはレナの為のモノとして魔道具作成を始める。そしてそのまま一週間は平穏に過ぎ、武装として完成し、レナが受け取った後、ちょうどタイミング良くそれは起きたーー。





ーーー



「私が行くわ!!あんなの絶対許せない!!!」


 ダンジョンNo.5121のダンジョンコアルームにレナの声が響く。そのダンジョンコアルームの液晶には現在、ゴブリン達をなぶり殺す冒険者達の姿が映っている。


「駄目だ!それを君にやらせるわけには行かない」


 感情に任せて叫ぶレナを諌めるように俺は冷静に彼女を止める。


「何で!?」


「君はまだ人間を殺めてないだろう?俺は君に本当の意味でこっちに来て欲しくないんだよ!!だからそれは俺がやるーー」


 最後まで言葉を言えなかった。レナが俺の口を手で塞いだのだ。そして、彼女は話し出す。


「ありがとう。私のことを案じてくれてさ。私だって本当は人を殺すのは怖いよ。けど、あれは許せない。だから、私は覚悟を決める。これから先も君の隣にいるためにもね。その為にも今回は私にやらせてちょうだい」


 強い意思の目で俺を見つめるレナ。彼女が彼女なりに覚悟を決めようとしているのがわかる。俺はそれに気圧され、頷くことしか出来なかった。


「・・・うん、それじゃあ行ってくる。フィーアちゃん早速だけどよろしくね」


 手に持つ新たな相棒に言葉を告げながら彼女はダンジョンコアルームを出ていく。


『・・・強い、良い女だな。汝にはもったいないくらい』


 背中のニーズヘッグが話しかけてくる。


「・・・なぁ、俺は行かせて良かったのかな?」


『さあな。我にもわからん。だがわかるのはあの覚悟を汝がきちんと見届ける必要があるということだ』


「そうだな・・・」


 正しいかどうかはわからない。けど、レナの覚悟を見届ける必要がある。確かにそうだ。だから俺はダンジョンをヒェンとメフィに任せてレナの後を追う。


 そしてレナが、彼女が覚悟を決め冒険者達を殺して行くのを俺は空から見届け、全てが終わった後に彼女の元に降りたった。


「レナ・・・」


 正直どう声をかけていいのかわからない。けれど、今声をかけないと彼女が壊れてしまう。理由はわからないがそう感じた。


 すると、彼女はこちらを振り向き、俺の胸に倒れるように顔を埋め、呟く。


「・・・大丈夫、大丈夫だよ。けどちょっとだけ胸をかして・・・」


 言いながら、すすり泣くレナ。恐らく今、必死で人間を殺してしまったという罪悪感と戦っているのだろう。平和な世界の、普通の女にはこれから先は辛すぎる。だから彼女なりに何か乗り越えようとしているのだろう。そんな彼女に俺が出来るのは胸をかし、頭を撫でてやるくらいしかなかったのだったーー。

この話は無くても支障有りません。ただ、異世界転移した普通の女が同じ人間を殺すことを受け入れるまでの過程などを描きました。フィーアの説明が適当なのは、まぁドンマイということで。

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