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愚者と悪魔の物語  作者: らいった
第0章前編  悪魔との出会い
4/50

プロローグその4  そして俺は…… 修正済

「うっ…くっ!? ……ここは?」


 メフィストフェレスの言葉を聞き意識を手放した俺が意識を取り戻した時、そこは見たことがないような木々に囲まれた森の中だった。いや、正確には見たことがないのではなく、形こそ俺の世界の木々であるが、色が深紅だったり、透き通るような青だったりと、とにかく見慣れない色をしている。


「ここが異世界なのか……?」


 思考を巡らせるもののどうにも頭がすっきりせず、何となく体の感覚に違和感を覚えたまま立ち上がろうとして、俺の頭の中でふと元の世界でメフィストフェレスが言った言葉が思い出される。


 ーー魔物に主様を変えておきましたーー


 その言葉と共に俺の意識ははっきりと目覚め、俺は慌てて自分の体を確認する。


 ……腕の感覚……OK。

 ……足の感覚……OK。

 ……目、耳、鼻……


 五感を確認しようとして気付いてしまった。


 気付きたくはなかったけど、気付いてしまった。


 そう ーー


 ーー自分の生身に当たる部分、そのすべての部分が透き通るコバルトブルーで構成され、血や肉といった、本来人間にあって当然なものが何もないことを。


 ーーそう、自分が人の形をした不定形生物、所謂スライムと呼ばれるモノになったということを。


「おい、メフィストフェレス!! 姿を見せろ!! これがどういうことか説明しろ!!」


 スライム化した影響かはっきりと物事を考えられなくなった状況の中、激しく動揺しながらも、俺はとにかく叫ぶ。


 するとそれに答えるように近くの草むらでガサゴソという音が聞こえ、見覚えのある執事服を着た紅きモノが草むらの向こうに進んで行くのが見える。


「待て、待ちやがれ!!」


 ……この時、もし俺が人のままだったならば、まず疑っただろう。ーー何故、このタイミングで姿を見せたのかと。メフィストフェレスにとって騙した相手の前にわざわざ自分の痕跡を見せる理由がないと。


 だがスライムと化した今の俺にはそのような思考をする余裕はなく、ただメフィストフェレスを追うという単純なことしか考えられなかった。


 そして俺は奴を追って草むらを抜けた後に後悔をする。


「……川? あいつは何処に!?」


 視界を遮る鬱蒼とした草むらを抜けた所にあったのは川だった。そしてそこに執事服の姿はなく、在るのは悠々と流れる水の流れだけ。


 ……そしてそこで俺は奴の思惑通り水の流れに映るモノを見た。……見てしまったのだ自分の姿を。


 そう、川に映ったのは青く透き通った人間の形をしたナニかーー服を着て人間のような姿をしているのに、髪から足まで透けているとても人間とは呼べないナニかが呆けて立ち尽くしている姿だった。


「うわぁぁぁぁ!!」


 人間のなりをしたナニかは叫んだ。叫び続けた。

 ーーもはや人間では無いと。会いたい人の前に立つことすら出来ないと。


 ナニかは絶望した。ーー自分にはもうなんの希望も無いと。


 そしてナニかは考えることを諦めた。


「グルルルル……!!」


 ーーその時、おそらく叫び声に反応したのだろう。一匹の狼に似た生き物が現れる。

 それは姿こそ狼だが口には元の世界ではまず持っていないサーベルタイガーのような牙を持っていた。


 その狼はこの世界に生きる魔物の一匹でありサーベルウルフと呼ばれるものだった。

 だが、考えることを諦めただ呆然としているヒトモドキとそれを捕食しようとする狼の間にはなんの関係も無いことであり、ヒトモドキはそれを前にしてもただ絶望に浸っていた。


「ガル!!」


 だから、狼が遠吠えとともに飛びかかってきても、ヒトモドキは反応しなかった。それ故、狼はその無抵抗なヒトモドキの左腕を容赦なく噛みきる。


「ぐっ……!?!?」


 と、その時になってやっと俺は狼に意識を向ける。噛みきられた左腕に激痛が走ったからだ。血も

通わず肉も無いはずなのに痛い。このままだと殺される


 ………………嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ俺は生きて彼女に会いたい会いたい会いたい…………。


 願望が出てくると同時に生存本能が俺に生きるための術を教えてくれる。それに従い、今まさに飛びかかってこようとする狼に対して俺は残った右腕を伸ばした。


「クソッタレがぁぁぁ!」


 俺の叫びと呼応して伸ばした右腕の先、右手が鋭い刃物の様になり、狼の首を切り裂く。


「ギャウッ!?」


 首を切り裂かれた狼は驚き、そのまま呼吸困難になり倒れる。それを見て俺は容赦なくとどめをさした。


「ふうっ」


 狼が動かなくなったのを見て一息をつく。興奮しているのか、その様子を見ても、俺が殺したという罪悪感は湧いてくることはなく、自分の命が助かったという安堵感とともに今まで感じたことのない不思議な高揚感が押し寄せてくる。

 そして何より動かなくなった狼を目にすると俺の中の本能の部分がざわめき出したーーそう、奴を喰らえと。


 抗い難い本能の衝動に負け、狼の前に立った俺に本能がどうすればいいのか教えてくれる。それに従い俺は狼の体に自分の右腕の生身の部分を突き刺した。


 ズプンッ!! という音ともに狼の身体に右腕が突き刺さり、そのまま狼の身体が俺の液体の肉体の中で分解され、吸収されていく。

 それと同時に言い様のない、何か満たされるような高揚感ーーなんというか心の穴が埋まるような、まるで彼女と、レナと過ごした時のような満足感が押し寄せてきた。


「それがあなたの種族スライムが持つ特性【捕食吸収】です。その能力であなたは今自身が殺したサーベルウルフの経験を、心を味わっているんです。どうですか? 最高ではありませんか?」


 とその時、何時から其処にいたのかわからないが、いきなり側に現れ、俺の耳元で悪魔ーーメフィストフェレスは囁く。


「貴方が自分で奪った心はどうですか? 凄く満ち足りた思いを抱きませんか? ……そう、これが貴方の知りたいと願った心なのですよ!!」


 考えが纏まらないまま、俺の心に満足感が募る。それを読み取ったように耳元で悪魔はさらに蠱惑的に囁く。


「求めていたものは手に入った。貴方は今満ち足りている。違いますか?」


 いちいち心を揺さぶる言葉。正直悪魔のいう通りなのかも知れない。俺はこの思いを知りたくて生きていたのかも知れない。そうだ。俺はもう満ぞーー


「…………っ!? ぐぅぅぅ!?」


 ……その時、俺の中で何か得体の知れない巨大なモノーー本来人が持つには大きすぎるが故に無意識下で封じ込めていた強欲が目を覚ます。



 これで満足かって?そんなわけないだろう?オレは欲しい。すべてが欲しい。もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと…………とりあえず腹が減ったな。何かないかな?ああ、良いものがいるじゃないかすぐそばに。悪魔ってどんな味がするのかな??喰らえばどれだけ強くなれるのかな。喰いたい喰いたい喰いたい喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ……



 激しく燃え上がる衝動がオレの理性を凌駕し、心の獣が目を覚ます。


「喰いたい欲しい喰いたい欲しい喰いたい欲しい喰いたい欲しい喰いたい欲しい喰いたい欲しい喰いたい欲しい!!」


 最早言語にすらならない本能の叫び。

 そしてオレはそれを発しながら、笑顔を崩さず佇んでいるメフィストフェレスに向かって人の形すら保たず飛びかかる。

 逃げられないように全体で被さりながらメフィストフェレスを喰らわんとする獣と化したスライムが襲う。

 しかし、メフィストフェレスは逃げる素振りすら見せずに笑い顔のまま言った。


「本当に貴方は最高です」と。




 そうしてオレ、いや俺は今日、悪魔メフィストフェレスを喰らったのだった。

これで第0章前編は終了です。


ここで物語の導入は終わり、後編は主人公に名前がついたり、ダンジョンをもらったりといよいよ本編への前段階に入ります。



と言うことで今まで読む専門だった人間が書くことをはじめましたが、正直作品作るのは大変ですね。時間かかるわ矛盾しないように構成組み立てるの大変だわ。と今まで何の気なしに読んでた作品を作っていた先達の作者の方々に尊敬の念を抱かずにはいられません。自分も出来うる限りこの作品を作っていきたいと思います。


拙い文ではありますが、評価感想等々いただけるとうれしいです。


でわでわまた次の章にでも。

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