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愚者と悪魔の物語  作者: らいった
第2章前編  王への道も一歩から
37/50

第7話  そうだ、王都に行こうその1

お気に入り登録、ポイント共々ありがとうございます!!

「王都に行く?」


「うん。マルトさんのところからすぐ行けるでしょ??私考えたんだよ、昨日みたいな人達が出てくるのは何が原因なのかなって。やっぱりそれを知るためには人間の社会に行くしかないじゃない??」


 一晩経ち、しっかりと休んだ俺達はダンジョンコアルームに集合してこれからの予定を話し合い始める。そんなときレナが王都へ行こうと提案してきた。


「良いんじゃないでしょうか?ダンジョンと魔物はベリトとオセに遊撃を指揮させておけば大丈夫でしょうし、確かに主様達は人間達をもっと知るべきでしょうしね」


 メフィも肯定的であり、特に断る理由もない。


「そうだな。俺もきちんと自分に合う武器が欲しかった所だ。冒険者の遺品から金は多くあるし、色々この世界の人間の国を見て回るか」


 そう言って俺が乗り気になっていると、珍しくヒェンが頼み込んでくる。


「マスター、私も人間の世界を見て見たいです。連れて行ってくれませんか?」


「お前が居なくてこのダンジョンは大丈夫なのか?」


「侵入者が居た場合、自動で私に伝わるのでおそらく大丈夫です!それより私もマスター達と出かけたいのです!!」


 上目遣いで頼み込んでくるヒェン。隣でレナがかわいいよ~と身悶えする中、メフィがヒェンを擁護する。


「私が留守番していますのでヒェンを連れて行ってやってくれませんか主様?ヒェンの外見なら人間に疑われることはありませんし、せっかく身体を手に入れたのだからそれくらい楽しませてあげましょうよ」


「お前は良いのか?人間の感情を学ぶいい機会だと思うんだが?」


「人間の外に見せる感情は私はもう見飽きました。それより私は主様が様々な経験をして得た感情の方がよっぽど興味があります。ですからどうぞ皆さんでお楽しみくださいませ」


 メフィの言葉に納得する俺。


「わかった。じゃあ遠慮なく楽しませてもらおう。悪いが留守は任せた。・・・それじゃあ2人とも準備をして行こうか」


 そう言って俺、レナ、ヒェンは準備をしてマルトの研究所に向かうのだったーー








ーーー


「ふぇ~、凄い人の数ですねぇ~」


 ザミエル王国の王都の大通り。出店が並び多くの人が歩いている光景を見て、ヒェンが呟く。


「本当に多いな。この前の早朝とは大違いだ」


「そりゃ、この国は冒険者ギルド本部に認可を受けた商人は関税がほとんど徴収されないからね、昼に出店を開く流れの商人が多いんだよ。だから昼はいつもこんなものらしいよ?」


 勇者時代に知ったのか、レナが説明してくれる。


「何で冒険者ギルドなんだ??」


「う~ん、詳しくは知らないけど、そもそも冒険者ギルドはこの国の王が始めたモノらしくてね。今も総責任者は王族らしいんだよ。だからここの冒険者ギルドに認可を受けるのはこの国の王族に認められたということになっているらしいよ?」


「へぇ~、けど王が冒険者ギルドなんて何で作ったんだ?」


 何気なく疑問を口にする俺。するとーー


「それは初代国王が魔物達を無用に殺す行為を嫌ったからです」


 不意に俺達の横から聞き慣れない声が聞こえる。慌てて横を向くとそこには神官服を纏った白髪の老人が立っていた。


「ああ、驚かせてすみません。たまたま話が耳に入って来たのでつい口出ししてしまいました」


 そう言ってペコペコ謝る老人。その男に俺は尋ねる。


「貴方は?」


「私はワーグナーと申します。この王都の教会で神官をさせていただかせてもらっている者でございます。よろしければ貴方様の疑問にお答えしてもよろしいでしょうか?」


 そう尋ねてくる老人ーーワーグナー。俺はレナとヒェンに顔を向けるが2人とも別にかまわないという顔をしている。それを見て俺は言う。


「じゃあお願いしてもよろしいでしょうか?王が無用な殺戮を嫌ったと言うのは?」


「ええ、初代国王ザミエルは〈強欲〉の魔王マンモンの死後、混乱する魔王領を手に入れようと民に圧政を強いたバルタザール王へ革命を起こし、王となったお方。あの方は王になりまず、冒険者ギルドの設立にとりかかりました」


 一度ワーグナーは言葉を区切る。


「王は領土拡大を考えず、王国内を発展させるため、魔物を殺す冒険者を規制する代わりに王国領への侵入行為を極力控えさせるという協定を〈強欲〉の悪魔と結びました。それが今の冒険者ギルドのできるきっかけになったのです」


「なるほど。それで王立機関なのですね?」


「ええ、それに王は言いました。いつか人間と悪魔が共存出来る世界を作りたい。だからその前段階としてギルドを作り無用な死を避けたいと。そのため王は各国に頼み込み、冒険者ギルドを世界に作り、民の依頼を仲介することで魔物達を無用に殺さないようにするシステムを構築したのです。・・・ですが、やはり全ての人間にその意を理解する事は出来なかったようですね」


 そう言って沈痛な顔をするワーグナー。彼があの冒険者達のような人間のことを思っているのだと何となく理解が出来た。


「貴方は初代の王と知り合いだったのですか?」


 何となく感じた疑問を素直に口にする。


「はい。私は若い頃、王付きの神官として、また友として王に仕えました。されど、王の命令で今は民の為に教会に仕えさせていただいております。ですので、そこのお嬢様の転職の際には力に貸してさしあげますので是非教会にいらしてください。・・・さて、それではそろそろ失礼させていただきますね。老人の昔話に付き合わせて申し訳ありませんでした。それでは良い旅を」


 そう言って老人は人の波へと消えていく。それを見ながらレナは言う。


「そっか・・・この国の王様はしっかり考えてギルドを作っていたんだね。それを今の人達は知らないから・・・」


「ああ、だから冒険者達が勝手にあのような行為に出ているんだな・・・っとそれよりヒェン、レナ気づいたか?」


 俺の質問に首を傾げる2人。


「あのワーグナーと名乗った老人は俺達の正体に恐らく気がついていたぞ?」


「「!?!?」」


 驚きの表情を浮かべる2人。


「レナにだけ転職の話をしていただろ?俺だって冒険者の格好しているから言われてもおかしくないはずなのに、あの人は言わなかった。そう、まるで、俺が転職出来ないのを知っているかのようにね。それにレナは勇者の職だから普通の場所じゃ騒ぎになるから転職出来ないだろ?それもあの人は知っていそうだったしな」


 レナは驚きながら問いかけてくる。


「何であの人がそんなことを知っているの!?」


「そこまではわからないよ。ただ、敵対するつもりはなさそうだし、実際レナが転職するときに力になってくれそうだからほっておいた。それよりちょっと出店を覗こうよ。面白そうだしさ」


 そう言って歩みだす俺。本当は心当たりがあったが、本人が言わない以上追及する気もなかったのであえて話題を打ちきり進みだす。


 後ろから待ってくださいマスタ~というヒェンの声を聞きながら俺は人の波に飲まれていくのだった。










ーーー


「・・・・・・何の用ですか?」


 ダンジョンコアルームで1人佇む黒猫が液晶に映し出された魔物達の様子を眺めながら呟く。


「ん?いやぁ皆が居なくて寂しいよぅとか言ってそうな君の元に遊びに来ただけだよ?」


 黒猫の言葉に応えるように白衣の男が現れる。


「いえいえ、十分独りを満喫しているのでさっさと帰ってくださいよぅ」


「ふふ、照れちゃってこのツンデレがぁ~本当は僕が来て嬉しいくせにぃ~」


 言いながらメフィの頭をなで回すマルト。それを無視しながら、メフィは尋ねる。


「・・・で??相手にするのもバカらしいですが私に何の用ですか?本当に用も無いのにちょっかい出しに来ただけなら怒りますよ??」


 すると、マルトは即答する。


「特に用はない!!・・・ああ、うそうそ、冗談だから怒らないで、ね?今回来たのは君のことについてさ」


 メフィのジト目に慌てて弁解するマルト。


「私のことですか?」


「うん。君はかなり自然に感情を出せるようになったからね。感情を持つ気分を聞いて見たかったのさ」


 そう言って不敵に笑うマルト。それにメフィは真剣な顔で答える。


「・・・素晴らしいです。本当に。流れ込んでくる1つ1つの感情が私に色々なことを教えてくれます。喜びも怒りも悲しみも楽しさも全てが交ざり、私という個を形成していくのがはっきりとわかるんですよ」


 その答えを聞いてマルトは嬉しそうな、けど少し寂しそうな表情をする。


「・・・そっか。良かったよ、君のその答えが聞けてさ。やっぱりファウスト君は凄いなぁ。僕に出来なかった君に心をあげることを果たしそうなんだからさぁ」


「貴方はやはりまだ心を作る研究を??」


 メフィの言葉に頷くマルト。


「うん、メフィのためでもあるし、それが彼女との約束を守る一番の近道だと思ったからね。まぁ心は作れなかったけど、その研究過程で出来たモノがファウスト君の役に立ちそうだし、、結果オーライかな?」


 そう言うマルトにメフィは尋ねる。


「・・・いまさらですが主様は貴方が力を貸したいと思う方なのですか?」


「おいおい、自分の主を信じてないのかい?彼は良いよ。僕が望みを預けたいと思うほどにね。それに彼にはレナさんがいる。僕のようなことにはならない立派な王になれるさ」


「貴方だって十分立派なことをしたのでは?」


「・・・いいや、僕は結局何も変えられなかったさ。マンモン様や、彼女の屍を越えて必死になってもあそこまでしかできなかった。けど、僕は彼らなら出来ると信じている。僕達の願いを、彼女の願いを叶えることを」


 どこか哀しげな顔をするマルトにメフィは尋ねる。


「だから貴方は最愛の人の名を借りて主様達の前に立っているのですか?彼女の願いとやらを叶えてもらうために。」


 メフィの問いかけに力強く頷くマルト。


「そうだね。〈強欲〉の魔王の右腕と呼ばれた悪魔はもういない。ここにいる僕はマルトーー人と悪魔の共存を願う愚かな1匹の悪魔さ」


 そう言ってマルトは笑う。その横顔はいつもヘラヘラしている彼からは信じられないくらい哀しげな表情をしていたーー

次回は武器など購入回、若干中二成分多めでいく予定です。

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