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愚者と悪魔の物語  作者: らいった
第2章前編  王への道も一歩から
35/50

第5話  守るべきモノ

 そろそろ日が落ち、夜の時刻へと変わる時刻。ダンジョンへの帰路につく俺達は進む。


 今回の目的はダンジョンから中心部に10キロ程度の距離に集まっている魔物達と戦う予定しかなかったので野営の装備を持たずにきたのだ。そのため軽く仲間達とじゃれあいながらも帰るために歩き続ける俺達の元にヒェンから通信が入った。


『マスター、そこからダンジョンへのルート上2キロの距離に冒険者の集団がいます。何らかの視覚阻害の魔道具を用いて野営しているため、詳しい情報はわかりませんがお気をつけください』


「視覚阻害?」


『ええ、マルト様曰く安全に野営するために用いる魔道具で、結界内の情報を外部から隠蔽し、仮に結界に何かが侵入した場合瞬時に知らせるモノだそうです。尚レナ様の荷物にも同様のモノがありました』


「うん、私も持っていたよ。一人用なんだけど良く水浴びしたり寝る時に使ってたな~。・・・あの頃はウェイバーが良く覗こうとしてみんなに怒られていたっけ・・・」


 過去を懐かしむレナを横目に俺はヒェンに尋ねる。


「その冒険者は今の俺達ではかなわない相手か?」


『昼間にサーチャーで見かけた冒険者は中級8名でしたが、正直野営準備中の情報は見ていませんので正確な情報はわかりません。申し訳ありません、マスター』


 責任を感じているのか少しへこんだ声のヒェン。


「いや、そこまでわかっているなら十分だ。何もお前に一日中監視していろなんて言えないしな。・・ありがとうな助かったよ。うまいことやって帰るからダンジョンで待っていてくれ」


 そう言って通信を切った俺はレナに尋ねる。


「俺が奴らの野営に入り、話を聞いて情報を集めるのはどうかな?正直どういう噂が流れているか気になるしさ」 


 レナは少し考え、


「そうだね~君は外見パッと見普通の人だし、擬態使って足と翼を隠せば冒険者相手でもイケるんじゃない?それと何で私は行かない前提なのかな?」


「いや、どんな危険があるかわからないからー「一応私見習いでも勇者だからね?君とどっちが強いか白黒つけようか?」


 俺の言葉を塞ぐように剣を首に当てて話すレナ。それに冷や汗を書きながら俺は答える。


「・・・・・わかったよ。但し、危険だと思ったらどんな手を使ってでも逃がすからな!」


 そう言って、俺達は結界のある場所に近づき、魔物達を待機させ擬態を使い結界に入っていくのだった。









ーーー



 結界の中では10人ほどの男達が輪になって何かを囲み、騒いでいた。俺達が入ると同時に音が響き、男達は一斉に振り返ったが、同業者が紛れ込んできたと勘違いしたらしく、すぐに興味を無くし元に戻っていく。その時、一人の冒険者が話しかけてきた。


「おう、兄ちゃん、てめえも報償金目当ての口か?女連れとはいい身分だなあ?金払うからその女俺にも貸してくれよ、グヘヘへへッ」


 山賊かと疑うくらい人相の悪い男が下品な顔で話しかけてきた。俺は思わずレナを隠すように立ち、舐められないように強い口調で答える。


「大切な人なんでね。貸すなんて考えられない。それより、報償金とは何だ?俺達はここら辺で冒険者やってるだけなんでよく知らないんだが」


 そう言ってギルドカードを見せる。


「けっ!田舎者のFランク野郎がケチりやがって!・・・まぁいい、俺達はアイツらのお陰で気分が良いんだ特別に教えてやらぁ!最近ここら辺で帝国の勇者様の一団がほぼ壊滅したんだとよ。それでその原因になった人型の魔物に報奨金がかかっていて、どんな痕跡でも金になるって言うから俺達は来ているんだよ。兄ちゃん達何か知らねぇか?赤目の人型らしいんだが」


「・・・いや、俺達はランク通りの初心者だからな。ダンジョンがあるくらいしかわからないな」


「ああ、あの初心者用ダンジョンか。そうなんだよな。さすがにヴァランタインやカールみたいな超一流の冒険者がそんなとこの魔物にやられるとは思わないしな。だからこっちは魔王が直々に来て殺したんじゃないのかと結論をだして、肩すかしくらった腹いせにストレス発散中よう」


 そう言って男は輪になっている集団を指さす。


 俺は何気なく指の方向に歩み寄り、男達の隙間から覗いた。そこにはーー








ーーーケットシーが剣で地面に縫いつけられ、その腹に男達が武器を突き立てているおぞましい光景が広がっていたーーー






 そして、その周りには原型を留めていない魔物達の死体が転がっている。


「ッ!?!?」


「ひどい・・・なんてことを・・・」


 隣からのぞき込むレナは思わず口を抑えてあとずさる。俺はレナの視界を塞ぎながら不快感を必死に抑え、尋ねた。


「これは・・・これは、何をしている!?」


「ああん?何って魔物退治だよ。お前等だってこれで飯食ってんだろ?」


「討伐依頼が出ていたのか??」


「ふん、出てるわけねぇだろこんな基本無害な雑魚に。ただ、たまたま居たからな。退治ついでに遊んでんだよ。ぶっ刺していって、殺した奴が負けっていうな。・・・ん?なんか文句あるのか?冒険者ならよくやることだろ?」


 それがさも当然のことのように語る男。同じようにケットシーを囲む男達も罪悪感など微塵に感じさせずに楽しみながら剣や槍を刺している。俺はその刺されて苦しむケットシーの声を聞きながら思い出した。かつて俺のエゴで殺してしまったゴブリンのことをーー



「こいつらは何か害をなしたのか?」


 不快感よりも怒りといった感情が渦巻く中俺は尋ねる。こいつらを殺す理由があったのかと。


「さっきから何だよ!別にただ居ただけだよこいつらは!!けどこいつらは魔物だろ?殺して当然じゃねーか!!」


 俺の態度にイラつく男の言葉に頭の中で何かが切れる。


「・・・レナ、外に出て、ベリト達を連れてきてくれ。俺はもう限界みたいだ」


 レナの耳にだけ聞こえるようにささやく。


「・・・・わかった。確かにこれは酷すぎるよ。急いで医療キットとみんなを連れてくるから君はあの子をーーあのケットシーを守ってあげて!!」


 そう言って駆け出すレナ。彼女には極力人間を殺させたくなかった。だからベリト達を呼びに行かせたのだ。


「おいおい、彼女が行っちまうぜ?泣かせちまったのか??・・しょうがない。ここはひとつ俺が身体でつらい思い出をーーーぐはっ!?・・な・・・何を!?」


 俺はレナの方へ向かおうとする男を持っていた槍で突き刺す。そしてそのまま男達の方へ投げる。


「!?!?おいおい、なんだぁ!?」


 動揺している男達の隙間を縫って、俺は環の中央にいるケットシーの元へと向かう。


「う・・・うにゃあ・・・」


 身体中傷だらけの猫が弱弱しいうめき声をあげる。


「もう大丈夫だ。お前のことは俺が守るから」


 優しく微笑みながら言い、俺は刺さっている刃物達を抜く。そして、傷口からあふれ出す血を止めるため、時空間魔法を行使する。


時間凍結フリーズ!!」


 まだレベル2の俺の時空間魔法では全てを止めることは出来ないが、剣が刺さっていた場所限定ならMPの続く限り停止できる。俺のMPが枯渇するまでの目安は1分、それはベリト達の所にある予備の医療キットをレナが持ってくるまでには十分な時間だった。


 俺は戸惑う男達の前で擬態を解き、猫を抱えながら翼を広げ空へ舞い上がった。


「おい、アイツ人間じゃねえ!!魔物だ!鳥の亜人だ!!」


 俺の姿を見て男達が叫ぶ。そして腐っても冒険者な奴らはすぐさま武器をとって俺を包囲する。


「相手は空を飛べるが後は人と変わらねぇ!!弓や俺の魔法でーーグハァ!?」


 指示を出そうとする魔法使い風の男は最後まで言葉を紡げなかった。ーーなぜなら男の胸にいきなり金属の爪が生えたからだ。


「主、命令を」


 そう言って人狼ーーオセは男から爪を抜く。崩れゆく男。そして、森の奥からはレナとベリト達が駆けて来るのが見える。それを見て俺は全員に響き渡るように叫ぶ。


「皆、命令だ!この魔物の命を軽んじるモノ共を逃がすな!必ず殺せ!!見敵必殺サーチアンドデストロイだ!!わかったか!?ならいけ!!!」


「「「「おう!!」」」」


 かけ声と共に突撃していく魔物達。俺はその声を背にレナの元へと飛んでいきケットシーを預ける。


「レナはこいつを治療しておいてくれ!俺はアイツらをーー」


 そう言いながら振り返ると、驚くことにもう勝敗の行方が決まりかけていた。


ーー遠距離から攻撃できる弓使いや魔法使いはオセが素早い動きで一撃を加え、トドメを鳥達が容赦なくさし、


ーー近接の戦士達はベリトに攻撃を加えるものの、銀色の身体はその攻撃を全て防ぎ、手に持つ銀色の棍棒で敵を薙ぎ倒していく。




 その冒険者が抵抗できないあまりにワンサイドゲームな展開に、最初に俺に槍を刺されていた男が悲鳴をあげる。


 


「・・・なんでこんなことになってんだよぉぉぉぉ!?!?ゲホッ、ゴボォ」


 血を吐きながら叫ぶ男の元へと俺は飛んでいき、叫びに答える。


「お前が無意味に殺してきた魔物達も同じように考えていただろうさ。だからこれはその報いだ」


 言いながら俺は槍を掴む。


「や、やめてくれ!!何でもする!!金も払ーー「お前らは喰う価値もない。そのまま死ね」ーーぎゃぁぁぁぁぁ!?」


 命ごいする男をもう一度槍で抉り、殺す。一度身悶えした後そのまま男は動かなくなった。そして、俺は呟く。


「意味もない殺戮なんて虚しいだけじゃないか・・・」


 未だ悲鳴と怒声が入り交じる戦場でその声はむなしく響く。その言葉をもう一度噛みしめてから俺はまだ戦いの続く所に向かうのだった。



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