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愚者と悪魔の物語  作者: らいった
第2章前編  王への道も一歩から
33/50

第3話  ダンジョンを作ろうその4

いつもより少し長めです。

 俺達が転移陣でダンジョンに戻ると、ヒェンとアスモデウスが待っていた。



「あらちょうどいいタイミングで帰って来ましたわね有名人さん。ちゃんと彼を連れてこれてようで良かったですわ」



 含み笑いを浮かべているアスモデウスに俺は答える。



「ああ、俺は合格だそうだ。それより有名人とはどういうことだ?」



「文字通りの意味ですわよ?“勇者パーティーを壊滅させた謎の悪魔”という呼ばれ方で、ここら辺にいると先の戦いで生き残った者が言いふらしているそうですわ」



 その話を聞いて、俺はあの時さりげなく生き残っていた確かジーベルという名の青髪の男を思い出す。レナも同じことを考えたようで憤慨して話し出す。



「あ~、そういえばジーベルは気づいた時には居なかったんだよね・・アイツ今度会ったらただじゃおかないんだから!!・・・ん?というか何でアスさんはそんなこと知ってるの??」



 レナの純粋な疑問にアスモデウスが悪い笑みを浮かべる。



「うふふ、ダンジョンに侵入してきた殿方の一人を捕まえてアンナコトやコンナコトをして聞いたのですわ。ふふ、思ったよりイイ声をあげるチョロい相手でしたわよ?」



「アスモデウス様・・・あれはチョロいとは言いません。貴方様がすごすぎたんです・・・」



・・・何があったかは知らないがヒェンが本気で引いているのを見るとあまりつっこまない方がよさそうだ。だから話題を変えた方がいいかと思い、ヒェンに尋ねる。



「要するにあの戦闘のせいでここら辺に高レベルの冒険者が集まってくる可能性があるわけだな。その場合、今の残存戦力でどのくらい保つことが出来る?」



「・・・そうですね、今このダンジョンは中・上級ダンジョンとなっていますが、あくまでもこれはメフィストフェレス様の力の結果です。そう考えると今の残存戦力では中級冒険者でもキツいと思われます」



 ヒェンの言葉に俺は頭をかかえる。今の俺なら大抵の冒険者は相手どる自身はあるが、それでもジーベルレベルの強者はいくらでもいるし、俺一人では限界がある。


 やはり、強い仲間やしっかりとしたダンジョンが必要だと思いつつ、準備する時間を稼ぐ方法が見つからず悩む俺に不意に声がかかった。



「はいはい~、ここで便利屋マルトさんの魔道具の出番ですよ~」



 気の抜けた声がコアルームに響く。全員の注目を受け、白衣の男はニヤリと笑う。



「要するに立て直す時間が欲しい。しばらくダンジョンに強者が入らないで欲しい。そんなところでいいんだろう?」


「そんな都合の良いモノがあるのか!?」


「まぁ、回数限定のその場しのぎみたいなモノだけどね」



 そう言って空間から何かを引っ張り出すマルト。引っ張り出されたものはこのダンジョンの入り口である洞窟全体を覆えそうなほど巨大な布と、見ていると不可思議な感覚を与えてくる小さな石像だった。



「この布はステルスオウルという魔物の羽を使った自分の存在を見つけにくくさせる為に使う〈特性〉〈認識阻害〉の効果を持つ布で、ダンジョンの存在を認識しづらくさせるんだ。そして、この石像は〈擬態〉の研究中に作った相手に誤認識を引き起こす結界を半径5キロに作る石像で、使用回数に制限があるけどダンジョンのランクを初心者用と誤認識させ、上級者を避けることが出来ると思うよ?」



 そう言って俺に折り畳んだ布と石像を渡すマルト。その様子を珍しそうにアスモデウスが眺めている。



「・・・正直貴方がここまで力を貸すとは思いませんでしたわ。どういう風の吹き回しですか?」


「ん、これから被験者になる魔物達にすぐに死なれちゃ困るしね。それにファウスト君を気に入ったからね、次期〈強欲〉の王に成るかもしれないモノを助けるのも〈強欲〉の爵位悪魔たる僕の役目だと思ったのさ」



 そう言ってマルトは魔物達に適合手術の説明をすると言ってコアルームを出ていった。



「本当にそれだけなのかしらね・・・。まぁ良いですわ。私もそろそろお暇させていただきます。ファウちゃんその布と石像を貸してくださる?帰るついでにダンジョンにつけて差し上げますから。・・・それでは皆様ごきげんよう。また遊びに来ますわ~」



 言葉と共に消えていく魔王。それを見ながらレナが呟く。



「なんていうか、魔王討伐しなきゃ行けないって言われてた自分がバカみたいに見える光景だよね」


「というか、人が魔王を倒せるという考えがおかしいんですよ。100年前のあの時だって・・・・」



 言いながらハッと口を噤むメフィ。レナがクエスチョンマークを浮かべているのを見て慌てて話を変える。



「い、いえ、何でもありません。そ、そんなことより主様。時間を作れたのだからダンジョンの改良を始めましょう!!このままじゃ、あのヴァランタインとかいうのが帰ってくる前に死んじゃいますよ!?」


「・・・・・・そうだな。まずは今生き残ることを考えないとな」



 あからさまな話題そらしだったが、無理に問いただすのも気が引けたので、そのままダンジョン経営の方へ意識を向ける。



「それでヒェン、新たに作成出来るモノが増えていたが、どうすればいいか案はあるか?」


「ん・・・まずサーチャーの強化は必須ですね。それからフロア改変と拡大を使って、魔物毎の環境を整えるのも良いかもしれません。あとはやはり新たに作成可能になった魔物を使った戦力増強を行うべきですね」



 言われて俺は新たに作成可能な魔物を見る。だが、名前で特徴が見えない魔物が多い。



「すまないが魔物達の特徴をおおざっぱに解説してくれないか?」



 了解しました~という言葉と共にコアルームの液晶に文字がならぶ。





△▲△



・ケットシー・・・〈二足歩行〉を持つ猫型の魔物。ステータス平均はF~E程度。〈器用〉を持つためダンジョン内での細かい作業向き。



・ラージホーネット・・・80センチくらいの体長を持つ蜂型の魔物。ステータス平均はF。毒針を持つ。強い個体が女王になり子を成すため、繁殖力の高さが強み。



・ポイズンスパイダー・・・毒毒しい色の蜘蛛型の魔物。ステータス平均はE。〈体糸生成〉、毒液などの能力を持ち、密林などで真価をはっきする。



・スケルトン・・・骨の形をした人型の魔物。ステータス平均はE~D-程度。骨操作〈アンデッド〉やレベル上昇により取得する骨硬化など、トリッキーな能力を持つ魔物。



・キラーイーグル・・・鋭い爪と嘴を持つ鷲型の魔物。ステータス平均はE~D程度。〈飛行〉が持つ制空権の高さが強み。砂漠などの開けたエリアで真価を発揮する。



・ミニドラゴン・・・小さい身体だが火を吐く器官を持つ竜型の魔物。ステータス平均はE。ステータスは低いが進化後の伸び幅が大きい。ドラゴンブレスを使うため、密林では戦闘に不向き。



・パラライズリザード・・・黄色い身体をもつ爬虫類型の魔物。ステータス平均はD。麻痺ブレスを吐き、動けなくなった魔物を襲う。外では沼地を中心に生活する。



・トロール・・・肥満体な身体を持つ人型の魔物。ステータス平均はD~C程度。知力が圧倒的に低いが、その分高いタフネスと〈再生〉による継戦能力の高さが強み。



・土巨人・・・土で出来た巨人型の魔物。ステータス平均はC。食事を必要とせず、主に忠実だが自律判断が出来ない。〈土操作〉により身体の形を任意に変えられる。



・レッサーデーモン・・・下級の魔人型の魔物。ステータス平均はB。闇魔法などを使いこなし、非常に高いスペックを誇るが、進化には特殊条件が必要であり、大抵進化出来ずに終わってしまう。





▽▼▽




 俺は与えられた情報を見て考えを巡らす。



「ふむ・・・生活環境毎に揃えた方が真価を発揮する魔物が多いのか・・・あと繁殖という言葉が気になるんだが、魔物にも性別はあるのか?気にしたことなかったんだが」


「ええ、きちんとありますよ。中にはメフィストフェレス様のような不特定もいますけど基本的に分かれてます。また繁殖速度は虫系統が一番速く、魔人系統はほとんど子をなしません」


「・・・そうなると繁殖させて増加するのも一つの手か。しかし、その場合食料がな・・・」


「大丈夫です。マスター。エリア改変で密林が作れるようになった今、ダンジョン内で果樹園といった自給自足が可能になります。」


「・・・なるほど、そう考えると密林エリアは巨大に作った方が良いか。ならこんなのはどうだ?」



 そう言ってコアルーム中央の球体に触り、イメージする。



「今までのダンジョンに階層を追加し、またエリア拡大、改変を行い3階層を密林、4階層を砂漠、5階層を沼地にし、それぞれ魔物の居住空間を作り、6階層を訓練場とコアルームにする案ですか・・・・シミュレート完了。魔物の作成とあわせてDP1500程消費しますがこの案を採用しますか?」


「ああ、頼む」


「了解しました。尚全行程終了まで3週間ほどかかります」


「3週間か・・ならサーチャーの強化とゴブリン・ウルフの作成を優先で頼めるか?マルトの手術後のアイツ等のリハビリついでにこの森の魔物と戦おうと思うのだが?」


「わかりました。そのように手配します」



 ヒェンの言葉を聞き、ようやく一段落ついたと俺はフッと肩の力を抜く。すると心に余裕ができるが、同時に余計なことを考えてしまい、悶々としてしまう。それを読み取ったのか、レナが飛びつき話しかけてきた。



「おっつかれ~ファウスト~。一段落ついたみたいだしさ、気分転換に散歩でも行かない??」


「・・・そうだな。レナとほとんど落ち着いて話せてないし、外の川で久しぶりに釣りでもするか。ヒェン、メフィ後を任せても大丈夫か?」


「ええ、何かあったら連絡しますので楽しんでくださいませ主様」



 そのメフィの言葉を聴き、俺はレナに引きずられるようにしてダンジョンの外へ向かって行ったのだった。










ーーー



 あたりはもう夜の帳が降りている時間、俺とレナは寄り添いながら川を向き、即席の釣竿から糸を垂らしている。



「ん~~、この間まではまさか君と異世界でまたこうやっていられるなんて夢にも思わなかったなぁ~」


「・・・そうだね。俺もこうやって君の隣にいるとは思わなかった」


「私が君を見て幻滅するとでも思った?」



 俺は静かに首を振る。



「いや、君が受け入れても、俺は逃げると思っていた。まさかあんな手段で逃げ道を塞がれるとは思わなかったからね」



 レナは自慢気に微笑む。



「ふふ、私も伊達に君の彼女をしていないからね。君を逃がさないようにする方法なんていくらでも思いつくんだよ。例えば今の状況みたいなね」



 俺は苦虫を噛み潰したような顔をする。



「・・・やっぱり気づいていたか」



 レナは声のトーンを落とし、尋ねてくる。



「魔物達の命を預かるのが怖いの?」


「・・・いや、そうじゃないんだと思う。自分じゃよくわからないんだけどさ、多分俺は正しいことをしているのか不安なんだと思うんだ」


「正しいこと?」


「そう、〈強欲〉の王を目指すものとして王にふさわしい正しいーーー」



 そこまで言った時、不意にレナに抱きしめられる。



「ごめんね。私の言葉が君を縛ってしまったんだね。・・・私は確かに王を目指して欲しいと言ったよ?けどそれは君に多くを望んで欲しいと言う意味で言ったんだよ。君は別に王になろうとしなくていいんだよ?きっと王はなるべきしてなるものだから、王になる道に正解なんて無い。王とは、頑張って生きた結果でしかないんだよ」



 優しく語るレナの胸の中で俺は感情が湧き上がり、無様に泣きじゃくる。



「王・・にならないと・・・みんなダメになる・・そんな気がしたんだ・・・」



 赤子のように泣きじゃくる俺の頭を優しく撫でながらレナは言う。



「大丈夫だよ。仮にすべてがダメになったとしても私は最期までずっと君の隣にいる。そう言ったでしょう?」


「レナ・・・」



 俺は涙を拭い、顔を上げる。そこには満面の笑みを浮かべるレナがいた。そして、見つめあいながらお互い顔を近づけーー






ーーー口づけを交わしたーーー

















ーーー



 ダンジョン近くの川、そこに映る二つの影が重なっていくのを奥の森から遠目で眺めている影があった。



「覗き見は趣味が悪いんじゃありませんこと??」



 覗いている影の後ろから女の声が響く。



「そう言う君だってさっきからずっと後ろで覗いてるじゃないか」



 白衣をはためかせ、振り返る男ーーマルト。それに対してアスモデウスはニヤリと笑い、



「うふふ、仮にも〈色欲〉の王を名乗るモノとしては当然の嗜みですわよ。・・・っとファウちゃんそこはガバッと行くところですのよ!何ヘタレてるんですの!?」


「・・・頼むから僕の側で叫ばないでくれるかな?僕まで品性を疑われるだろう?」


「覗いている時点で品性も何もあったもんじゃないですわ。・・・・それで?貴方は何で覗いているんですの?」


「いや、別に覗こうと思ってた訳じゃないけど、たまたま面白い話をしていてね。つい、隠れて聞いてしまってたんだよ」


「・・・・王の話ですか。確かに貴方にとっては面白い話ですわね」


「そうだね。ホントに面白い。あのメフィを救うかもしれない契約者が僕を救う王になるかもしれないなんて運命にしては面白いほど出来すぎているよ」



 若干皮肉気に笑うマルト。



「・・・やはり貴方はあの時のことを?」


「・・・忘れられないさ。けど、過ぎた時は返らない。だから僕はあの新たな王に夢を託す。・・今はまだ未熟だが、王たる器を持つ彼にね」


「・・・なるほど、それが貴方が力を貸す理由ですの」


「まぁ純粋に面白いっていうのもあるけどね・・・・・さて、そろそろ僕は帰るけどアス、君はどうするんだい?」


「そうですわね。貴方の本音も聞けましたし、そろそろ帰りますわ。・・・それではまたお会いできるのを楽しみにさせていただきますわ、さようならマルーーいや、××××ちゃん」



 言葉と共に消えていく魔王。そして静寂な森の中、男の声が響く。



「××××か・・・随分懐かしい名だね。・・・・・・さてと、僕もまだまだ未熟な王のために大事な仲間を救ってやる作業に移るとしますかね」



 そう言い、男は首を鳴らしながらダンジョンへの道を歩んでいくのだったーー。

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