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愚者と悪魔の物語  作者: らいった
第2章前編  王への道も一歩から
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第2話  責任と覚悟、そして新たな可能性

 目の前にいるマルトと名乗った男は悪魔のはずなのだが、どうみても、人間にしか見えない。というより、アスモデウスもそうなのだがこいつらにはメフィの本体に会った時に感じた人間とは違うという感覚がまったく感じられない。



「人間じゃ・・ないのか??」



 思わず俺の口から漏れ出す言葉。それを聞いてマルトと名乗った男は嬉しそうな様子で話し出す。



「ん?うまく擬態できているだろう?僕やアスはメフィみたいな魔人種じゃないからね。擬態無しじゃこんなもんさ」



 そう言って彼はメフィを左腕で抱え、右手で顔を払うような動作をする。その後に残されたのは猛禽類の顔に目を6つ持つ悪魔の顔だった。そして先程まで無かった威圧感が発生している。



「さすがにこの姿じゃいろいろ面倒だろう??それに僕は平和主義だからね。大人しく人間として生活していたいのさ」


「どの口が言うんですかぁ!!どの口が!!」



 言いながら、顔を元の人間の顔に戻し、腕の中で暴れながら憎まれ口を叩くメフィの顎を楽しそうに撫でるマルト。


 そして一頻り撫でた後、こちらに向き直り話し出す。



「さて、立ち話も何だし、僕の家に行こうか。ついておいで」



 そう言って、メフィを頭の上に乗っけてマルトは歩き出す。メフィはもう抵抗するのに疲れたのか大人しく乗っかっている。そのあまりにシュールな光景に俺とレナは互いに顔を見直した後、置いていかれない様に歩き出した。
















ーーー



「ここが僕の家だよ。」



 マルトに会った王都の入り口から大通りを20分程歩いた先にある小さな路地に入ったところに俺達は居た。周りを住宅が並んでおり、家も極普通の家である。



「ふぇ~、本当に普通に生活してるんだね~」


「というか色々突っ込みどころがありすぎて逆に何も言えないんだが」


「主様、コイツに関して深く考えたら負けです」


「いやぁ、そんなに誉めないでくれよメフィ。照れるじゃないか」


「今の言葉の何処に誉められる要素があると思っているんですか!?」


「ん、全部じゃないのかい??」


「・・・・」



 いいように振り回されて続けているメフィ。それを楽しむマルトの顔を見ていると、まるでメフィにわざと感情を剥き出しにして食いかからせているようにも見える。その俺の視線にウインクを返しマルトは言う。



「まぁとりあえず入ってお茶でも飲みながら話そうじゃないか。ほら、入った、入った~」



 その言葉に従い、俺達は家に入る。家の中もほとんど普通であったが、何気なく違和感を感じるモノが置いてあり、それにレナが突っ込みを入れる。



「何でさりげなく電子レンジがあるの!?」


「え、だって便利じゃないか?」


「いやそういう問題じゃなくて・・」


「ああ、何で世界観ぶち壊し的なモノがあるかって?そりゃ、向こうの世界ーー君たちの世界で生活してて便利だったからもって来たに決まっているじゃないか。電力は僕の雷魔法で賄えるからね。・・・・・・ん?なに、君たちの世界の便利なモノは物語をつまらなくするって?だったら君たちが使わなければいい話だろ?僕は出番無い時にこっそり使うから大丈夫」


「・・・・・」



 メタ発言の嵐に突っ込み切れなくなったレナの変わりに俺が聞く。



「向こうで生活してたとは?」


「ん?文字通りだよ?こっちよりあっちの方が魔法がないぶん生物学とかが圧倒的に発展しているから、一度研究に行き詰まってから何年間か暮らしてたんだ。ちゃんと大学も出たしね。ほら学生証もあるよ?・・というか服装があっちのモノの時点で気づいて欲しかったかな?」


「・・・・・」



 若干今より若い姿の写真付の有名大学の学生証を見せられレナに続いて俺も何も言えなくなる。その様子を見てメフィが代わりに話す。



「しばらく見ないと思ったら、そんなことをしていたんですか。それで?何か糸口は得られたのですか?」


「ん~目指す頂きはまだまだ高いかな。・・・でもまぁファウスト君の願いを叶えることぐらいならできそうだよ?」


「本当か!?」



 その言葉に俺は食いつく。



「うん。だから落ち着こう。とりあえずそこのテーブルでお茶でも飲みながら話そうじゃないか。ああ、メフィはミルクにするから安心していいよ」



 そう言って俺達を丸テーブルを囲む椅子に座らせ、マルトはキッチンにむかう。



ーーそして、10分後、四人の前にカップが置かれ、マルトはおもむろに話しだす。



「さて、まず用件のことなのだけれども魔物達の欠損部位を治し、再び戦闘が出来るようにしたいというのでいいんだね?」



 俺は頷く。



「・・・結論から言えばそれは可能だよ。その条件を僕は満たすことが出来る。君に力を貸すのも別に僕はかまわない。ただ・・ただ一つだけ質問をしてもいいかい?」



 その言葉に困惑する俺。それを見ながらマルトは言う。



「簡単なことさ。無くなった部位をなんとかする、そんなことを不死族じゃない普通の魔物に行うにはリスクが生じる。そのリスクは最悪、死へと至るモノなんだ。それを知ってなお君は望むのかい?」


「・・・・・・・」



 俺は思わず言葉につまる。確かに簡単に部位を復元することが出来るなんて美味しい話はあるわけがない。だが、そのリスクが死であるという話が俺を迷わせる。俺がアイツ等の命を握るという感覚に耐えられず、思わず逃避してアイツ等の自由意思に任せるという選択肢が浮かんだ時に、タイミングよくマルトが付け加える。



「あくまでもこれは患者の魔物ではなく君への質問だ。 患者の意思は関係ない。君が他者を生かし、殺す。その責任を取れるのか、それを聞いているんだ」



 心を読んだように響くマルトの声が俺の逃げ道を潰す。必死に答えを出そうとするも、全く浮かばない。焦る焦る焦る焦る。追いつめられ、恐慌状態になりかけたその時、俺の脳裏に不意にゴブDの死に顔が浮かんだ。


 脳裏に浮かぶ奴の死に顔は安らかで、満足していた。それを思い出した俺はハッとし、平常心を取り戻す。


 それから大きく深呼吸をし、メフィとレナと順番に目を合わせ、俺はマルトと向き合う。



「俺はたとえアイツ等が死ぬような可能性があっても、アイツ等の願いを叶えてやりたいと思う。」


「・・・理由を聞いても?」


「・・前の戦いの時、あるホブゴブリンが俺を庇って死んだ。そいつは安らかな顔で死んでたんだ。・・・あの時俺はあいつの死に顔の理由がわからなかった。けど今ならわかる。あいつは満足してたんだと。・・だから、だから俺は今動けない奴らもこのままただずるずる生かすよりも、アイツ等が望む様にしてやりたい。例えそれで死ぬことになっても、満足した気持ちで死なせたい。それが俺の気持ちだ。」



 俺はマルトを真っ直ぐ見つめ、はっきり言った。


 見つめあったまま長い沈黙の時間が過ぎる。


 そしてマルトが口を開く。



「・・・君の覚悟、確かに聞いた。いいよ。合格だ。君の願いを叶えよう」



 そう言って、カップに入った飲み物を飲み干して立ち上がるマルト。そのまま歩いて壁まで行き、壁にあるスイッチのようなものを押す。すると壁に穴が開き、下り階段が現れる。



「ついておいで」



 下り階段を降りながらマルトは言う。


 俺達はそれに従いついていく。そのまま少し降りていくと鉄製の扉があり、マルトはそこでこちらを向く。



「我が研究所ラボへようこそ」



 その言葉と共に後ろ手で扉を開けるマルト。


 その行為によって開けられた扉の先にはーー




ーー液体の詰まったカプセルと色々なモノが乗った作業用テーブルが並ぶ広大部屋が広がっていた。



「ここは何なの?」



 余りにも現実離れした光景にレナが尋ねる。



「ここは僕の研究所。魔物の研究をしたり、君が首にかけているような魔道具を作る所さ。それよりはい、これ」



 レナの質問に答えながら俺に何かを手渡すマルト。手渡されたモノを見てみるとそれは金属製の腕だった。



「これは!?」



「それは僕が作った義手だよ。魔物である鉄巨人の破片をそこに並んでる培養槽で複製し、加工した生体金属で作ったモノで、その他の人工筋肉もこちらの世界のモノで作成してある正真正銘この世界産の義手さ」



 それを聞きながら俺はレナと義手を観察する。金属でありながら、軽く、また関節も中の人工筋肉のお陰か違和感なく曲がる。



「・・・これを魔物達の四肢の代わりにするのか?・・大丈夫なのか??」


「うん、アスから魔物達の状況を聞いていたから、もう四肢、眼といった必要なパーツは準備してあるよ。また、ただ適合させるだけなら問題ないことはすでに実験済みだから大丈夫さ」



 そう言ってマルトは左腕の擬態を解く。その左腕は持っているのと同じ金属製の義手で出来ていた。



「・・・自分ですでに実験済みか。だが適合させるだけなら問題ないというならさっき言ってたリスクの話は何なんだ?」


「なに、簡単なことだよ。魔物達は進化する。その時に異物が混ざってた場合どうなると思う??適合出来た場合、常識を越えた進化をするかもしれない。けど適合しなければ拒絶反応で死ぬ、そういうことさ」


「あんたは大丈夫なのか?」


「僕はもう進化の上限に達しているからね。けど進化出来る魔物達はどうなるかはわからない。こればっかりは神のみぞ知るって感じだからね。・・・どうだい?ここまで聞いてもまだ決意は揺るがないかい?」


「・・・・・ああ、俺の決意は変わらない。だが、魔物達にもこの事を話して適合手術を受けるか聞かさせてくれないか?」


「うん、かまわないよ。というより適合手術を行うのは僕だから、僕が患者の魔物達に確認を行おう。それくらいは容易いしね。それよりこのラボとダンジョンの間の転移陣を作ってくれないかなぁ?これから先いちいち時空間魔法で転移するのもめんどくさいからさ」


「ああ、わかった。メフィもレナも異存はあるか?」


「いえ、特にありません。それにここに転移陣を作って置けば王都に用がある時便利だから寧ろ作るべきです」


「私も異存はないよ。変わっているけどマルトさんは信用出来そうだしね」



 二人の意見を聞いたあと俺はヒェンと連絡をとり、転移陣を作成する。



 すると地面に光る魔方陣が出来る、その魔方陣に全員で飛び込んだその先はーー





 いつものダンジョンNo.5121のコアルームだった。





色々悩みましたけど、この案で結局投稿しました。

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