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愚者と悪魔の物語  作者: らいった
第0章前編  悪魔との出会い
3/50

プロローグその3  契約の時 修正済

「……契約?」


 無気力で生きてきた俺の前に突如現れたメフィストフェレスと名乗るモノ。そのモノの言葉に俺は思わず聞き返す。


「ええ、それは【契約】の能力を持つ私だけが出来る人間である貴方と悪魔である私との間の物々交換。貴方と私で行う命をかけた儀式。もし契約がなされたならば、私は貴方の望みを叶えるために身命をとしてあなたに仕えることを誓います。

 ーーそう、貴方様が望むなら私はこの身から黄金を生みましょう。

 ーーそう、貴方様が望むなら私は神にすら牙をむけましょう。

 貴方が望むことに私が答え、貴方は私に対価を払う。どうです? 素晴らしいと思いませんか!?」


 メフィストフェレスはやかましく騒ぎ立てる。だが、俺はそんなことに反応する気力も起こらない。だってそうだろう? 口で何を言おうが彼女が帰ってくるわけではないのだから。


「……俺には望みなんてない……」


 あくまで無気力に。構ってくる不思議なモノを払うようにぶっきらぼうに俺は言葉を紡ぐ。だが、そんな様子を気にもせず、メフィストフェレスは変わらず小馬鹿にしたように挑発してきた。


「おやまぁ、クールに決めちゃってぇ~。何?? それでかっこいいとか思ってるんですか?? っていうかあれ?これが今こっちの世界で流行ってる中二病って奴なんですか?? おお痛い痛い。…………っとまぁ冗談はここら辺にしてっと」


 メフィストフェレスは一度言葉を区切り、目に妖しく光を灯らせ、俺を真っ直ぐ見つめてきた。


「貴方がそんなとこで痛い人ゴッコをしていたところで彼女はーー桐生レナさんは帰ってはきませんよ??」


「…っ!?」


 告げられた言葉が胸を抉り、俺ははっきりと動揺する。

 目の前のモノは何故レナの名を知っているのか? 彼女はどこにいるのか? 先程までの無気力さがどこにいったかと思うほどの熱が胸を焦がし、気づいた時には俺はメフィストフェレスの襟を掴み、押し倒していた。


「何故レナのことを知っている!? お前はあいつの……レナの居場所を知っているのか!?」


 燃え盛る思いが俺を突き動かす。そんな様子に馬乗りの下に悪魔は心底嬉しそうに笑い顔を作っていた。


「……先程まで消えかけていた貴方の魂の炎が、今はあらゆるモノより高く貴く燃え上がっています。本当に貴方は面白い方だ。全くの無欲なのか、そうではないのか、私には到底理解が出来ません。……が、良いでしょう。その魂の炎に免じて答えましょう。……前に述べたように私は異世界に住まう契約の悪魔。貴方の心を覗くのは容易い。故に断言しましょう。貴方の思い人、桐生レナさんはこの世界にはいないのだと」


 先程までの口調が鳴りを潜め、きちんとした言葉を紡ぐメフィストフェレス。だが、今の俺にそんなことはどうでもよく、告げられた事実を思わず聞き返すことが精一杯であった。


「この世界にいないだと!?」


「ええ。【契約】の能力を持つ私は、強い思いを持つ者を探し当てることができます。ですが、本来貴方がどんなに望もうとも私と貴方の世界が違うため、私は貴方と出会うことは無いはずでした。ですが、貴方の思い人がゲートに飲まれこちらの世界に来た影響で、私は貴方の思いに気づけたのだと思われます」


 馬乗りの下になっていた状態からするりと抜けて俺の前に立ちながら話すメフィストフェレス。それに俺も体勢を直しながら聞き覚えのない言葉の意味を問いかける。


「ゲートとは何だ??」


「その名の通りこの世界と私たちの世界を結ぶ門であり、時空間魔法の適性者が大量の魔力で世界に歪みをつくるモノ。魔法の痕跡を見る限りどうやらその思い人を狙ってゲートの穴を開けたようですのでまあ、異世界人に与えられる能力を利用しようとした者達の仕業なのでしょう。そして、そういう目的ならばレナさんはまだ向こうで生きているはずです」


 異世界人に与えられる能力。メフィストフェレスの説明に聞き覚えのない言葉は再び現れるが、もはやそこに関心を持つことは無く、俺の関心は一つのことに絞られてきていた。


 ーーそう、アイツが、レナが生きているということに。


 どんな形であれ、レナは多分生きている。それならばきっとあの太陽のような笑みを浮かべ、ここではない何処かの世界で強く生きぬいているのだろう。

 そこまで考えたとき、諦めが先に来て久しく抱かなかった彼女に会いたいという思いが首をもたげ、一層胸の内が熱く燃え盛って来ていた。


 そして、そんな俺の思いを読みとったのだろう。メフィストフェレスは何故か眩しそうに一度目を細めた後、紅き眼を爛々と輝かせ、気づけば俺の隣に移動し甘く囁き始める。


 ーー彼女に会いたいですか??ーー


 ーー私は貴方の願いを叶えることが出来ますーー


 ーー願いを叶えるために私と契約しましょう?ーー


 と。


 その言葉達は今の俺にとってとても蠱惑的で、抵抗することの出来ない強い力を持っている。故に俺は横で囁く悪魔の甘言に一つ問いかけを行う。


「もし契約をするのならばお前が俺の望みを叶える代わりに、俺はお前に代価として何を払えばいい??」


 正直心はもう定まっていた。だからこそきちんと目の前のモノと向き合うために言葉を紡ぐ。すると、そんな様子をやはり眩しそうにした後、メフィストフェレスは問いかけの答えを述べる。


「私は貴方様が一つの願いを叶えるのに代価を求めません。貴方が望むのならば私は無償で願いを叶えましょう。……ですが貴方様が願いを叶えていったその先に満足したという感情を得た時、完全に満たされた貴方様の魂をいただかせて頂きます」


 俺の心の決意に気づいたのか、貴方から貴方様というように変化した言葉。それを聞きながら、俺はふと昔レナが教えてくれた話を思いだし何気なく口にする。


「この世界に同名の悪魔の話があるんだが、それはお前のことなのか??」


「いえ、私はこの世界に来たのは初めてなので違うのでしょう。ですが、界渡りをした感じによれば、この世界は私達の世界と限りなく近く、限りなく遠い世界のようなので、その悪魔も何らかの関係があるかも知れませんね」


 限りなく近く、限りなく遠い世界。その言葉の意味はわからない。だが、そこにはレナがいる。そして、もう一度彼女に会えるならば、全てに満足した後、魂を売り渡すことなど何も怖くはなかった。


「…ふむ、いいだろう。ならば俺はお前と契約しよう」


 覚悟を決め、俺は悪魔との契約を承諾する。するとメフィストフェレスは確認をとるかのように問いかけてくる。


「……本当によろしいので? 魂を私に売り渡すということは満足した瞬間、貴方の命は終わるのですよ?」


「それでも俺は彼女に会いたい。だから……頼む!!」


 悪魔の技か人の気配が完全に消えている中、黄昏を背に俺はしばらく出していなかった強い感情と共に悪魔に懇願を行う。

 それは何て冒涜的な行為だったことだろう。だが、いくら神に願っても叶わなかったことを悪魔を名乗るものが魂を代価に叶えてくれるという。ならば、俺は悪魔に魂を売ってやる。

 そう強く思った瞬間、メフィストフェレスは俺を見下ろすように中空に浮かびあがる。


「わかりました。それではこれから契約へと入らさせていただきます。」


 ペコリと宙で一礼するメフィストフェレス。すると俺の足下に魔法陣が現れる。


「私、悪魔メフィストフェレスは矮小なる身なれど主さまの手となり足となることをここに誓う。私が代価にもとむるは望みを叶え、この上なく満たされた主様の魂。それを知ってなお主様は私を求めるか?」


 形式ばった悪魔の問い。それに俺の口は答え方を知っているかのように言葉を紡いだ。


「あぁ、俺は求める。望みを叶える力を。それをお前がくれるというのなら、全てが満たされた時、魂を捧げることをここに誓う」


 そして、言葉と共に足下の魔法陣が鈍く発光した。


「…これで契約は完了です。それではこれより主様の望み、異世界への界渡りと、主様の深層にある欲求『心を知りたい。手に入れたい』を叶えるために我が力を行使します」


 契約の時とは違った形の魔法陣が発生し、力の奔流が吹き荒れる中、悪魔が聞き慣れない単語を言っていた。


 深層心理?? 俺の?? 心?? 俺は彼女に会いたいだけじゃないのか??


 思考がまとまらない中、不意に力の奔流が消え、魔法陣のあった地面がいきなり大穴へと変化し、俺を飲み込んでいく。


「準備が整いましたので、世界間移動を行います。これより参りますは我が故郷、この世界に限りなく近く、また限りなく遠い世界にして魔法や悪魔が存在する世界、インテグラ。かの地で主様の願いが叶わんことを」


 悪魔の声を聞きながら俺は落ちていく。落ちていく。落ちていく。


 そして、


「…そういえば私一人が開くことが出来るゲートは自分以外のモノだと人間じゃ格が高すぎて通せないんですよぅ~。なので魔物に主様を変えておきました~。まぁ魔物になったら本能に忠実な分さっさと満足してくれるかな~とかそういう下心もあるんですけどね」


「はぁ??」


 突然始めのようにおどけながら告げられる言葉。だが、穴の中に落ちていく恐怖感と混乱で俺は理解がついていかない。そしてそんな俺を気にもせずメフィストフェレスはさらに言葉を続ける。


「まぁ悪魔との契約なもんで、悪く思わないでくださいね?? …っと、そろそろ向こうに着きますね。ではでは主様、インテグラにようこそ~」



 その、メフィストフェレスの言葉を聞きながら俺は意識を失ったーー。

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