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愚者と悪魔の物語  作者: らいった
断章その2
27/50

第3話  女勇者の話その1

※※※side レナ※※※



 森の奥、少し拓けた所に大勢の人間の姿が見える。そしてそれに囲まれるように3人の男女が倒れている。



「なんで!?なんで貴方達がこんな真似をするの??答えて!!ジーベルッ!!ヴァランタインッ!!」



 身体が痺れているのか倒れて身動きが取れない状況の中、女は呂律が回らない舌で必死に叫ぶ。


 その目線の先には20人近くの知らない男達と共に女のことをいつも側で支えてくれていた2人の男達の姿があった。











ーーー





 ーーー時は四ヶ月以上前まで遡る。私は彼氏への誕生日プレゼントを買いに行った帰り、突如、足下に出現した門のようなものに呑まれた。


 そして、門から抜けていった先にあったのは、儀式場のような場所と何名かの人間が倒れている光景だった。むせかえるような匂いの中、奥の通路から歩いてきた豪華な衣装に身を包んだ中年の男は私に言った。




ーーーお前は魔王を倒すための勇者として呼ばれた。ーーー



ーーーお前には魔王を倒せるだけの力をつけてもらう。ーーー



ーーーもし魔王を倒したならば、元の世界に帰してやろう。ーーー



 男はそれだけを一方的に告げると、呆然としている私を無視して、元来た道を帰って行った。


 それから私は宰相と名乗る人物から説明を受け、自分がガスパール帝国皇帝の命により召喚された存在であり、〈称号〉によって一般人より強くなっていることや、特殊職業〈勇者〉になることが出来るということを知った。


 だが、説明を受けた所で私は素直に魔王を倒しに行くことを承諾出来なかった。


 だってそうでしょう?私はただの学生で、何の力もないし、魔王に恨みがあるわけじゃない。ーーそれに、向こうの世界に置いてきた彼氏のことが気がかりでしょうがない。私が姿をくらましたらきっとアイツはーー××は、また昔のようになってしまうにちがいない。自分の中の欲を恐れて、また世界から目を背けようとするだろう。やっと、自分に対して正直になり始めていたのに。


 しかし納得は出来なくても魔王を倒さない限り私に元の世界へ帰る選択肢はない。結局、私はなし崩し的に魔王討伐の勇者として祭り上げられ、宰相が用意してくれたマルグリッドという偽名と仲間と共に〈勇者〉の職業につき、魔王を討伐するための旅に出た。



 その仲間達は皆一流で、



〈キメラの魔導師〉と呼ばれ、3つの属性を使いこなす魔導師の職業につく宮廷魔術師であった青髪に眼鏡をかけた青年、ジーベル。


〈昼行灯の暗殺者〉と呼ばれ、盗賊の上位である暗殺者の職業につく元義賊の冴えない緑髪の少年、ウェイバー。


〈魔弾の射手〉と呼ばれ、魔法を込めた弓矢を使う魔狩人の職業につく金髪に整った顔を持つ青年、カール。


〈寡黙なる守護者〉と呼ばれ、様々な職業を経験し、今は聖騎士の職業につく灰色の長髪を持つ寡黙な中年、ヴァランタイン。



ーーと、二つ名を持つ者達だった。勇者の為に強者を揃えたと宰相は言っていたが、この人達は強さだけでなく、居心地のいい人達で、思っていたより快適に旅が出来た。


・・・しかし、私は旅の間ずっと悩んでいた。本当に魔王を殺す必要があるのかと言うことを。


 旅の途中によったある村では確かに魔物の襲撃はあった。だが、それはあるダンジョンを持つ者の独断であり、その者を倒した所で魔王が報復に来ることはなかった。


 何故魔王を討伐しなければならないのか?仲間に何度か聞いてみたが、皆一様に倒す必要があるからだと答える。


 その答えに承服しかねながらも、旅を続け、レベルアップのため兼行方不明の兵士を探すために〈強欲〉の魔王領に突入する前日、私は彼に出会う。


 その私が会った彼は冒険者で、全身を鎧で覆っており、やけに綺麗な目だけ見えていた。


 私は彼に兵士のことを聞こうとした時、ヘルムを外さない彼にジーベルが苛立ち、強引に外す。その下に隠れた顔はーー





ーー火傷の後が酷いものの、この世界にいないはずの彼の顔そのものだった。



「ねぇ!?貴方の名前は!?貴方はこの世界の住人なの!?」



 思わず感情に任せて問いただしてしまう。だが、返ってきたのはファウストという別人であるという答えだけであった。


 ・・・そう、こんなところにいるはずがない。だってこちらの世界にこれる術が無いのだから。


 それでも、何かが引っかかっていたが、明日が出発ということもあり彼と別れることになった。



・・・それからしばらく、私達は魔王領を旅した。町の近くの森で初級者用ダンジョンを見つけたが、私はすでに中級を攻略する実力が会ったため、仲間達に頼んで町のギルドに報告をするだけに止めてもらった。仮にも帝国が偵察に出した人間が初級者用ダンジョンで死ぬとは思えなかったし、不必要な殺戮をしたくなかったからだ。


 そうして襲いかかる魔物だけを狩るようにしながら、魔王領を巡ったが兵士達の痕跡も見つからず、中級ダンジョンを一つ向こうから攻めてこられたため、攻略したという成果のみで帰路に着くとき、事は起こる。



 初級者用ダンジョンがあった位置からあまり離れていない開けた場所で休息を得ることになった私達。長旅の疲れもあり、皆気が弛んでいた。そのため力を抜いたままジーベルが入れた飲料を口に含んだ時、体を痺れる感覚が襲う。見ると、ウェイバーもカールも同じように痺れて倒れようとしている。だが、残りの二人ーージーベルとヴァランタインは平然とした顔で立ち上がり、森の奥の方へ歩き、ジーベルが奥の方へ手招きのような動作をする。すると20人ばかりの男達がわらわらと現れて来たのだった。













ーーー



 私は動けない状況の中、ジーベル達に必死で叫ぶーーなんでこんな真似をするのかと。


 その言葉に顔に狂気の笑みを浮かべたジーベルが答える。



「なんでこんな真似をするかってぇ?そりゃぁぁぁ勇者様ようぅぅあんたの身体が目当てに決まっているだろぉぉぉが!!あんたの悲痛にゆがむ顔を楽しんで屈服させる日をどんなに待ちわびたことかぁぁ」



 今までのジーベルから考えられない口調と様子に愕然としていると、カールが叫ぶ。



「バカな!?姫君は皇帝に認められた勇者!!そのようなことがまかり通るはずが無いだろう!」


「クハハ、カールよぅぅ私の後ろにいる奴等に見覚えはありませんか?コイツらは皇帝が役に立たない勇者を殺す為に私に寄越した奴等ですよ?まぁ私が帝国に虚偽の報告をしてた為このような事になったのですがねぇぇぇ。彼らも楽しませることを条件に簡単に力を貸してくれーー「ごちゃごちゃうるせぇっす。姐さんの邪魔をするなら死にやがれぇぇ!」



 ジーベルが答えていた時、奴の首に向けて声とともにナイフが投げられる!!その出所はいつの間にか麻痺から立ち直ったウェイバーだった。


 しかしそのナイフは一本の剣によって妨げられる。ーーヴァランタインの剣によって。



「ヴァランタインの旦那ァ!何で邪魔をするんすか!?寡黙なる守護者と言われるあんたならどっちが正義かは分かるでしょう!?」


「・・・・・・・・・・・」



 短剣を手に戦いながら叫ぶウェイバー。しかしヴァランタインは無言で剣を振る。その様子を見ながらジーベルが代わりに答える。



「無駄ですよ。その男は初めから私のことを気づいていた。しかし、何も言っては来なかったし、強者と戦えるという条件で簡単にこちらについてくれた。そういう男なんですよぉぉぉこいつはぁぁ!!」



 そういってジーベルは魔法を放つ。ヴァランタインの攻撃で隙が出来たウェイバーに向けて。



「ぐわあぁぁぁぁ!?」


「ウェイバァァァァ!!」



 魔法が直撃したウェイバーは叫び、動かなくなる。それを見て私は叫ぶ。


 ウェイバーの死を確認したジーベルはこちらに向き直り、カールに向けて話し出す。



「どうです?カール、今からでも遅くはない。このどこの馬の骨ともわからない奴のために操を立てているこの女を一緒に屈服させませんか?」



 それを聞きながらカールは痺れる身体で立ち上がり、私の前に立つ。



「断る!!私は姫君の心意気が気に入って此処にいる!私がすべきは彼女を思い人の元まで守り抜くだけだ!」



 その言葉にジーベルは顔をしかめ、



「・・・あ、そう。じゃあ死ねやぁぁぁぁぁ!!」



 そう言って魔法を連発する。



「カァァァァル!!」



 目の前で着弾する魔法の中私は叫ぶ。巻き起こる砂ぼこりの中、カールはまだ立っていた。



「姫・・・・逃げ・・・」



 その言葉とともに再び襲う魔法によって目の前でカールが崩れ落ちた。



「イヤァァァァ!?」



 仲間達が死んでいく光景に心が耐えきれず涙を流す。


 それを見ながら下品な笑みを浮かべ近寄ってくる男達。その光景に思わず言葉が漏れる。



「助けて××!!」



 この世界にいるはずのない男の名前を呼ぶ私。もう一度会いたいよと強く思った時ーー



「レナに手を出すんじゃねええぇぇぇぇぇ!!」



 この世界では呼ばれることのないはずの名前を呼ぶ声とともに魔物の大群が押し寄せてきたのだったーー



もう一話続きます。次回はヴァランタイン戦後が中心です。

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