第18話 愚者と悪魔
ーーー主様ーーー
黒と赤とで彩られる空間に声が響く。
ーーー貴方は生き残ったーーー
ーーー貴方を思う者の手によってーーー
ーーーそして私はまた一つ知ることができたーーー
ーーー人の心の強さをーーー
赤と黒の空間が光を発し、黒き影に覆われていた何かが徐々に影を消していく。
ーーーさぁ、目覚めるのです。主様。貴方の望みを叶えるためにーーー
空間は輝きを増す。そして影に覆われていた何かは人の形になり、そして、目を開けた。
ーーー
「・・・ここは?」
目を開けるとどこかの部屋の様な天井が見えるところにいた。見覚えがある天井だ。
「あっ!!おはようございます!!マスター。身体の方は大丈夫ですか??」
ヒェンが俺の側にくる。そこで俺は自分の部屋のベッドに寝かされていることに気づいた。だがまだ意識がはっきりせずぼんやりしている。
「マスターが2日以上寝たきりですから心配しました。レナさんもメフィスト様も大丈夫だと言ってはいたのですが・・・」
ヒェンの言葉に完全に頭が覚醒する。
「そうだ!?レナはどうなった!?アイツ等は、ゴブA達はどうなったんだ!?それに俺はどうして生きている!?・・・ッ!?」
興奮し、感情のまままくし立てる俺、だが不意に身体に痛みが走り、言葉を止める。
「落ち着いてください!!マスター!!まだ〈特性〉の影響で削った体力が戻ってないんですから無理はしてはいけません」
そういってヒェンは俺を押しとどめ、話続ける。
「ゴブA達生き残った魔物達は皆ダンジョンに収容しました。マスターが今回得たDPで中・上級向けダンジョンにランクアップしましたので、勝手ながら医療キットを作成させていただき、現在新たに作成した魔物とレナさんによる看病がなされています。また、マスターが生き残った理由の詳細はメフィスト様とレナさんに聞いてください。お二人が大きく関わっているので。それより、進化した感覚はどうですか??マスター」
ヒェンの言葉を聞き、俺は自分の身体を見渡す。執事服を着ている。肌の色も普通。違和感なんてない。ーーそう思った時逆に違和感を感じる。俺はスケルトンだったはずなのに何故擬態もせずに人の形になっている??
そう思い、改めて調べて見て、俺は気づいた。違いに。
執事服の下は相変わらず黒い球体が埋まっており、体毛が身体を覆うようになっている。そして、何より違うのは、背中に翼のような感覚があることと足が鳥のようになっていることだった。
思い切って俺は上半身裸になり、翼を広げるような感じで動かす。すると、そこにはしっかりとした翼が広がっていた。
すごいですねぇ~と呟くヒェンを横目に俺はステータスを開く。
△▲△
name;ファウスト
race;バードマン・龍血混種
class;上級悪魔
Job;無し
Lv1
HP;180/580
MP;200/200
力 A(S-)
タフネス B-(B+)
敏捷性 A(S-)
知力 A+(S)
侵食率;39%
残DP;2550
〈特性〉〈捕食吸収〉〈二足歩行〉〈アンデッド〉〈飛行〉〈翼龍化〉〈先祖返り〉〈時空間魔法の使い手Lv2〉〈統率〉〈リーダーシップ〉〈王権〉
スキル ドラゴンブレス 鋼体化 擬態
new(称号)
・(王の資格を持つもの)
ーーー〈特性〉〈王権〉取得ーーー
(コメント)王とは孤高ではありません。
・(ジャイアントキリング)
ーーー格上の相手との戦闘時ステータスに1段階の上昇補正ーーー
(コメント)モブですが、強かったんです彼等。
※〈飛行〉・・・任意に翼で飛行可能
※〈翼龍化〉・・・任意で変身可能。知力2段階低下、その他のステータス2段階上昇
※〈先祖返り〉・・・瀕死時任意で発動可能。知力9段階低下、その他のステータス6段階上昇
※ドラゴンブレス・・・翼龍時、MP10消費で炎属性のブレス攻撃
※鋼体化・・・MP20消費で20分間タフネスに3段階に上昇補正。炎耐性低下大
※〈王権〉・・・戦闘後のスカウト率上昇大。仲間達の知力に3段階の上昇補正
▽▼▽
スケルトンの時よりも桁違いの強さに俺は驚く。残DPも多い。困惑する俺を見てヒェンは言う。
「どうやら襲ってきた相手は全員かなりの手練れだったようです。どうもレナさんを殺すために皇帝がジーベルとかいうのに強者を与えたのだそうです。お陰でマスターは二段階進化したそうですよ??」
その言葉に俺は納得する。だが同時にレナのことが心配になる。これからもとの世界に返すにしても、準備に時間がかかる。そのあいだ人間の世界で暮らしていけるだろうか??
もう人に成ることを諦めた俺には彼女を自らの側におくという発想がなかった。魔物であり悪魔である自分が彼女の隣に居てはならないーーと、そう思っていた。
そうやって思考を巡らせていると、俺の部屋に二つの影が入ってくる。
「いやぁ、疲れた、疲れたぁ~。ようやくみんな峠を越したよ~。ご褒美にヒェンちゃん~ナデナデさせて~」
「うふふ、幼女に抱きつく美女ってこれはこれで絵になるかもしれませんねぇ~」
そう言って入ってくるレナとメフィスト。
呆気にとられている俺にレナが気づく。
「あ~、おはよう××~。あれ、今はファウストだっけ??じゃあおはようファウスト~身体の調子はどう??」
「あぁ、まだ痛むけど問題ない。それより君は大丈夫なのか??」
「うん、大丈夫だよ。君が助けてくれたからね!!!!」
変わらない眩しいような笑みを浮かべるレナ。それに俺は懐かしさと愛しさを感じる。
「そうか・・・君が無事で本当に良かったよ。本当に・・本当に・・」
襲ってくる様々な思いを抑えながら俺は続ける。
「君のことは絶対元の世界に戻す。だから君はそれまで人間達の国の安全な所にーーー」
俺が紡ごうとする言葉は彼女の手によって抑えられる。そして彼女は言う。
「スト~~ップ!!誰が帰りたいって言ったの!?それに何で君の隣にいて欲しいって言わないわけ??私のこと嫌い??」
「・・・嫌いなわけないだろ!!でも・・・でも・・・俺はもう人じゃない!!悪魔なんだよ!!!それに俺には望みが出来た。だからもう人には戻らないんだ!!!だから・・・、だから・・・!!」
そういって悲痛な顔をする俺に彼女は黙ってゆっくりと距離をとる。そして着ていた服の胸元を下にずらす。するとその胸の膨らみの少し上にはーーーー
「・・・な・・ん・・・で・・・!?」
ーーー俺と同じ黒に赤のラインの入った球体があったーーー
俺は悪魔に問いただす。
「メフィスト!!これはどういうことだ!?」
すると、代わりにレナが答える。
「私がメフィちゃんに頼んだのよ。そして、意識を無くしている貴方から〈契約の楔〉を使わせて契約したの。私が許容できるだけメフィの力を預かるという内容でね。だから侵食はされない。けど貴方が喰われた時私も死ぬ。いわば運命共同体になったわけだね!!」
嬉しそうに語るレナ。だが俺は驚愕が隠せない。
「なんで・・なんでそんなことを・・・君には幸せになって欲しかったのに・・・!!」
俺の叫びに満面の笑みでレナが答える。
「ん~、今、私は幸せだよ??自分の窮地に身を張って助けてくれる彼氏がいて、その彼氏の夢の手伝いができるんだからさ」
さらに彼女は続ける。
「それにメフィから話を聞いて、私のために君が何をしてきたかを知って嬉しかったよ。君の必死に強欲を抑えるため逃げていた心が私のために前を向いてくれたなんて聞いたら、ただ君に甘えて待っているなんて出来ないよ。」
彼女の強い決意のこもった言葉を聞き、俺はぼそりと呟く。
「君は・・・君は・・・バカだ・・・愚か者だ・・」
彼女は変わらぬ笑顔で言葉を返す。
「そうだよ。私は愚か者。悪魔の君を愛する愚者。だから私はずっと君の側にいる。だから君はーー悪魔な君は己の望みを叶えてください。いずれ再び戦うヴァランタインに打ち勝ち、メフィストフェレスを喰らい、その先へーー
ーー全てを望み、全てを手に入れる〈強欲〉の悪魔の王を目指して下さい!!」
・・・レナの言葉が心に響く。ざわつく心を俺は抑えず、起き上がり、レナの前に立ち、抱きしめる。
「わかったよ。もう離さない離してやるもんか!!俺は、全てに打ち勝ち、王になってやる!!全てを望み、全てを守れるような王に!!俺はなってやる!!!!」
俺の叫びが部屋に響きわたる。
その言葉にレナは嬉しそうに笑い、メフィストとヒェンは眩しい何かを見るようにこちらを見ていたーー
ーーかくして、長い長いプロローグの末、愚者と悪魔の物語は幕を開けるのだったーー
ということで第1章終了です。主人公の性格をわざとブレさせる努力はしたんですが、こっちが振り回されると言う事態に・・・(泣)
この後レナの視点を書いた断章の後、第2章に入ります。
第2章は1章で抑えた分ぼくがかんがえたさいきょうのまものとか、チート成分多めで行く予定ですのでご理解の方よろしくお願いしますm(_ _)m




