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愚者と悪魔の物語  作者: らいった
第1章前編  誰にも負けないダンジョンを
12/50

第6話  本当の覚悟 修正済

※※※side リース※※※



 私はリース。ロックブーケの町に住む17歳のどこにでもいる普通の女です。特徴と言ってもロックブーケのギルド兼酒場で受付嬢をしているということぐらいしか上げられないくらい平凡な女で、今日も仕事に追われる毎日を過ごしています。


「こっちにビール2つ追加でくれ~」


「あ、こっちにも3つ追加で~」


「はぁ~い。かしこまりました~」


 オーダーを聞きビールを両手に走り回る私。え?受付嬢のはずなのにウエイトレスとして働かされているのは何故かって? そりゃ受付嬢としての仕事がないから働いているからに決まっているじゃないですか。このロックブーケはザミエル王国の辺境に属し、50年程前の魔物の大襲来以来ダンジョンもなければ強い魔物もいないためそれほど困難な依頼がくることもなく、最低限を稼ぎ飲んだくれる地元出身者しかいないので受付嬢としての仕事はほとんど必要なかったのです。


 ですが、今日は違いました。夜、いつものようにウエイトレスをしていると店にフルプレートアーマーとフルフェイスヘルムを身に纏った見なれない男性が入ってきたのです。


「ギルドの登録を行いたいのだが」


 ヘルムの中からくぐもった声が聞こえてきます。顔はよくわかりませんが、声はまだ若いと感じました。


「わかりました。それではこちらにどうぞ」

 

 そういって私はエプロンを外し、受付カウンターに向かい気持ちを切り替えます。


「新規登録の方ですね。それではご説明させていただきます。まず当冒険者ギルドは冒険者の方々に住民達の要望を依頼という形にして出すという仲介者のようなものとして存在しております。そのため冒険者達の命は全て自己責任ということになりますがよろしいでしょうか?」


「ああ、かまわない」


「では登録に移りたいと思います。それではこちらの用紙に名前と本人確認のための符号となる言葉をお書きください」


 男性は紙を受け取り、少し考えた後何かを書き私に渡してきます。その時に見えたヘルムから覗く彼の目はとても澄んでいて、思わずドキドキしてしまったのは内緒です。そして受け取った紙には名前と「レナ」という言葉が書かれていました。誰かの名前でしょうか?


「ファウスト様でよろしいですね?かしこまりました。それではファウスト様はGランクからのスタートになります。ランクは2つ上までの依頼は好きに受けることが出来ますがランクが高い程達成が困難なのであまりオススメは出来ません。またランクは多くの依頼をこなし実績を作るか、強さを評価されるという方法で上げることが出来ます。以上で説明を終わりますがよろしいでしょうか?」


「ああ、ありがとう。大丈夫です」


「それではこれがギルドカードになります。なくすと再発行には500ゴールド程かかるので無くさないように気をつけて下さい」


 言葉とともにギルドカードを渡していたとき酒場の席から野太い声が聞こえてきました。


「おいおい兄ちゃんよぉ、そんな全身を鎧で隠さなきゃ外を歩けないなら帰ってママのおっぱいでも飲んでろよ」

 

 そうだそうだ~というヤジが飛んでくる。私に言わせればあんた達こそ働けよ!と思い目の前の男を庇おうとしましたが、男性は私を手で制しました


「この鎧の下は昔火を吹く魔物に襲われ大火傷を負いましてとても見れたものではありません。そのせいで親に捨てられ、ある老人に育てられていたのですが、先日亡くなってしまい、彼の遺言の冒険者になれという言葉に従って形見の鎧を身につけここまで来たのです」


 そう男性は言い被っていたヘルムを外します。その下にあったのは半分焼けただれた顔をもつ澄んだ目をした男性の姿でしたーー。




※※※side リース end※※※













   ※




 ……俺は今酒場で暑苦しい男達と酒を飲んでいる。なんでもあまりにも可哀想な境遇だから今夜は酒をみんなで奢ってくれるらしい。久しぶりに飲む酒は異世界でも変わらず上手く、「ギルドに登録しに行くと必ず絡まれるのがお約束って奴なんですよ主様。ですからあえてその常識をぶち破りましょう!!」と言って絡まれないための設定や火傷の痕を擬態で作る手伝いをしてくれたメフィストに何か土産でも買って行くかとすら思ってしまうほどであった。


「そういえば人を探しているんですけど知りませんかね?レナという女性でもしかしたら最近有名になってきているかも知れないんですけど?」


 酒という潤滑剤のお陰で酒場の皆と打ち解け始めた時を見計らい、俺は目の前で飲んでいた男に尋ねる。


「レナ?……聞いたことねぇな。おい、お前は聞いたことあるか?…………やっぱねぇよな。そもそもこんな辺鄙なところじゃろくに情報が入って来ねぇしなぁ。んでそのレナとかいうのをなんで探しているんだい?」


 グッと思わず拳に力がこもる。だが、彼女を見つけ出すためにはこんなとこで躊躇出来ないと、思いきって口を開く。


「……大切な人なんです。もう会えないと思っていたけれどまだ生きて何処かにいるかも知れないと最近わかったんです」


 口にするとやはり会いたいという気持ちが湧いてきて身体が自然に強ばる。すると、そんな様子に目の前の男が真面目な顔つきで話し出した。


「……兄ちゃん、そのレナって子の詳しい情報を教えな。俺らがもっている情報網を使って探してやるからよぅ」


「え……」


 予想していなかった言葉。見るとまわりの人達が皆頷いている。


「本当ですか!?」


 そんな彼らを見て俺はどうしようもなく感情がこみ上げてきて驚きの声をあげた。


「おう。若いもんの恋路を応援するのも年寄りの仕事よぅ!さて、そうとなったら久しぶりに依頼をしながら出かけるとするかねっと。お~いリース嬢~悪いが依頼を見せてくれねぇか~?」


 そういって酒場の冒険者達は酔っぱらいのくせに依頼を見に群がっていく。そして後日、俺から受け取ったレナの情報とともに彼らは出かけて行ったのだった。










   ※




 酒場の皆を見送った後、俺は森の中を駆ける。皆への感謝と共にいつか彼らがダンジョンに来た時に殺さなければならないという葛藤に心が苦しめられ、無我夢中にダンジョンへと走って行く。


 そこにふらふらと歩いてくる一つの影。


「邪魔だぁぁぁぁ!!」


 何気ない優しさがつらかった。剣を持つ以上何処かで敵対する関係なのに、それを知らずに向けてくる優しさが苦しかった。


 そんな苦しみを振り払うかごとく、進行上にいた子鬼、ゴブリンを硬化した腕で殴り飛ばす。


「グッ…………ギャアァァァ…………」


 籠手の上からでも伝わる殴った感触。勢いよく殴り飛ばされながら断末魔をあげ、しまいにピクリとも動かなくなったゴブリン。その姿を見て俺はふと我にかえった。



 ーーー今、俺は何をした?



 近づいてもピクリとも動かないゴブリン。何日も何も食していなかったのか、ガリガリに痩せて腹だけ膨らんでいる姿が目に入り、思わず息を飲む。



ーーー覚悟を決めてくださいませ。ーーー



 頭の中をメフィストフェレスの声が響き、気がついた時には俺は叫んでいた。


「何が迷いを吹っ切れただ!!俺は今何をした!? たかが優しい言葉を投げかけられたくらいで動揺して何の命を奪った!!一匹のゴブリンの命を奪ったんだ!!それともなんだ?、所詮コイツの命は気まぐれに殺される程度のものだったとでも言うのか!?いや、そんなことはないだろう!!俺は!!オレは!!オレは!!」


 絶叫が森の中を響き、残響が虚しく響く。そうやってひとしきり叫んだ後、俺は崩れおち自問自答を繰り返す。




 ……それからいくつの時間が経ったかもわからなくなるくらい長い時間が経っただろう。静けさが支配する森の中、ゴブリンの死体の前で、俺は俺なりの答えをだし動かなくなったゴブリンに優しく語りかける。


「すまなかったな。俺はお前を自分の身勝手さ故に理由もなく殺してしまった。だからお前に誓おう。俺は俺の望みを叶えるため、強くなるために人だろうと何だろうと構わず殺す。そして俺は望みを叶える。だからお前達は俺の糧として俺の中で生き続けてくれ」


 俺は籠手を外し、ゴブリンに優しく手を伸ばし、そして、




 ーー喰らった。








ーーーレベルが100に到達しました。進化することが可能になります。ーーー




~~~進化先一覧~~~



・ポイズンスライム


・レッドスライム


・ブルースライム


・グリーンスライム


・パラライズスライム


・ゴブリン


・ゴースト


・ウルフ


・ミドルモス


・ミドルピグ




〈特殊条件〉魔物を指示し、生物一体以上撃破を達成


・ウルフリーダー


・ゴブリンリーダー


への進化が可能になりました。

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