プロローグその1 ある男の話 修正済
初投稿です。よろしくお願いします。
生きる。ということはどういうことなのか?
そんな青臭く、くだらないことを、釣り竿をたらしながらふと考える。
何か目的ややりたいこと。つまり、いわゆる欲望というものを持つ人のことを生きているというのならば、俺は生きているとは言わないのだろう。
…なにせ俺は自分が何をしたいのかわからない。自分が何を望んでいるのかすらわからない欠陥品のような男だからだ。
昔から俺は大抵のことが出来た。勉強も運動も人並みに出来、友達もそこそこいた。
…けれど、あくまでも人並みにしか出来ない人間だった。けっして一番になることもなく、また成りたいとも思わないまま月日は過ぎ、そこそこの高校に行き、そこそこの大学に入った。
あの頃はそうやって生きてきたことに疑問を持つことはなかったし、これからもないと思っていた。
……そう、2年前彼女に会うまでは。
始まりは2年前、河川敷でたまたま被ったからという理由で親から送られてきた釣り竿から糸をたらしながらぼんやりしていると、後ろから綺麗な声が聞こえてきたのがきっかけだった。
ーー釣れますか?ーー
と。
振り返るとそこにはは釣り竿を片手に微笑む彼女がいた。
…今思えば、彼女は最初は同好の士を見つけた嬉しさで声をかけてきただけだったのだろう。
だが、なぜかはわからないが、彼女はやたら俺自身のことに興味を持ち、色々なことを根ほり葉ほり尋ね、しまいには次にここに来る日すら指定をして帰って行った。
そうやってその日から俺と彼女の関係は始まり、そして半年もする頃には付き合うようになったのだった。
あの頃、俺にとって彼女は眩しく、そして初めて自分が彼女に相応しくなりたいという望みを持てた希望であり、太陽のような人であった。
彼女と居る間、俺は生きている充実感を得ていた。芸術を見て感動したり、自分で物を作り、出来映えに二人で喜びあったりした。
…そう、あの時は時がこのまま止まればよいとすら思っていたのだ。
…だが3ヶ月前、俺の誕生日の日、彼女は突然姿を消した。
警察に捜索願いを出し、彼女の両親とともに血眼になって探したが、見つかったのは彼女のバッグと、プレゼント用に綺麗に包装された釣り竿だけだった。
……その日から俺は全てがどうでもよくなった。
彼女がふらりと帰ってくるかもしれないと思い生きてはいるものの、昔に戻ったように何もする気になれず、今日も、魚がかからず何時までも待ち続けられるようにと、真っ直ぐに伸びた釣り針に餌も着けずに垂らしながら考え事ーーつまり生きることとかそういう青臭い考え事ーーをしていたそんな時、突然声が聞こえてきた。
ーー釣れますか?ーー
と。
振り返るとそこには夕日によって血のような色が映った執事服を着た、紅い髪に紅い眼を持ち、中性的な顔立ちに悪魔のような笑みを浮かべたモノが立っていた。