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沈黙の港  作者: ちぇりー
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5

 港での聞き込みを終え、クロウは歩き慣れた住宅街の坂を上っていった。

 夜通しの捜査で体は重かったが、頭だけは妙に冴えている。

 拾った情報が、まだ“形にならない影”として胸の中にこびりついていた。


 カフェの外階段を上り、二階の自宅兼事務所の扉を開ける。


 散乱した書類。

 壁に貼られた古い事件写真。

 黒板には以前の調査のメモが残ったまま。


 クロウはコートを椅子に投げ、

 港で手に入れた情報を一つずつ机の上へ並べた。


 ――水死体

 ――外傷なし

 ――時間経過が短い

 ――それなのに沈まず、港に流れ着いた


「おかしい。……どう考えても、自然じゃない」


 手帳を閉じ、黒板に向かう。


 壁に貼っていた古い写真やメモを一気に剥がし、

 黒板の表面を腕で軽く払う。


 チョークを握り、

 力強く書き殴る。


 ・“水死体なのに綺麗すぎる”

 ・“沈まず流れてきた理由”

 ・“外の男”

 ・“後ろ盾の存在”

 ・“港の動線”


 書き終えると、黒板は白い文字で埋まった。


 クロウは腕を組み、

 その文字列をじっと見つめる。


 線が繋がりそうで、繋がらない。

 だが、違和感だけは確実に輪郭を帯びていた。


「……自然死でも事故でもねぇ」


 その言葉が、部屋に静かに落ちた。


 クロウは深く息を吐き、

 コートを再び肩にかけた。


「ハンクに渡す材料は揃った。……署へ行くか」


 



階段を下りると、カフェの店主がカウンターを拭いていた。


「いらっしゃい。……寝てないね、その顔」


「今日は寝る暇がなかった。濃いコーヒーを一つ」


「はいはい。疲れた男の薬だね」


 店主は慣れた手つきで紙カップにコーヒーを注ぎ、

 クロウの前に置いた。


「物騒なことでもあった?」


「物騒なのはいつものことだ。」


「ほんと、あんたはいつも厄介ごとを拾うねぇ」


「拾いたくて拾ってるわけじゃない」


 軽口を交わし、クロウは代金を置いて店を出た。


 



 署までは徒歩十五分。

 朝の街は少しずつ騒がしさを帯びている。


 クロウはコーヒーの蓋を少し開けて一口飲んだ。


「……苦」


 それが、今日の気分に合っている。


 歩きながら頭の中で整理する。


 水死体の不自然さ。

 店主の“後ろ盾”。

 港での噂。


 黒板に書いた違和感が、歩くたびに重みを増していく。


 



 古びた警察署に着くと、

 階段の前で見知った顔がこちらを睨んだ。


 クロウの元上司、バーンズ警部だ。


「……お前か。

 また勝手に嗅ぎ回ってるらしいじゃないか、クロウ」


「嗅がれると困ることでもあるのか、警部?」


「言葉だけは一人前だな。

 辞めたあとまで俺の手間を増やすんじゃない」


「俺はただ、目の前の事件が“ちゃんと”解決してるか確認したいだけだ」


 バーンズは舌打ちをし、

 不機嫌な顔で署の中へ消えていった。


「相変わらず可愛げのねぇ上司だな」


 背後から声がした。


 振り返ると、ハンクが片手をポケットに突っ込みながら立っていた。


「来るの遅ぇよ。会議室空けてある。

 話を聞かせろ」


「お前も何か持ってる顔だな」


「まぁな。

 お前が喜びそうな話だ」


 クロウはハンクの後ろについて署の廊下を歩き、

 奥の古い会議室に通された。


 



「で、港での聞き込みは?」


 ハンクが腕を組む。


 クロウは黒板に書いた内容を簡潔に説明した。


・水死体にしてはあまりにも綺麗

・沈まずにこちらへ流れ着いた

・店主は外の男と接触

・“後ろ盾”を手に入れたと言っていた


 ハンクは黙って聞き、

 途中で何度か書類を確認した。


「……やっぱりか。

 お前の拾った情報と、こっちの報告が一致してる」


「こっち?」


「実はな。

 外の男、警官の一人が“軽くつけてた”んだとよ」


「つけてた? なんで俺に言わなかった」


「俺もさっき聞いたんだよ。

 どうもスラムの近くで

 似合わない身綺麗なスーツを着た

 見慣れない奴が

 一人で歩いていたから

 気になってつけてたんだと」


 ハンクは机の上に置いた紙を指で叩いた。


「深夜に、山の方へ向かったのが最後の目撃だ。

 そこから急に足取りが消えた。」


 クロウは一切動かず、その言葉だけを吸い込むように聞いた。


「山……」


「お前も思ってんだろ?

 偶然なんかじゃねぇ」


 会議室の空気が重く沈む。


 港、店主、外の男。

 そして“山”。


 線が、はっきりと一つの場所に収束し始めていた。


「山に……何がある?」


 クロウの問いに、ハンクは肩をすくめる。


「それを調べるのが、お前の得意分野だろ」


 クロウはゆっくりと椅子から立ち上がった。


「……行ってくる」


 その目には、

 “何かに気づき始めた探偵の光”が宿っていた。

◆をつけてたほうが読みやすいですかね?

区切りとしてわかりやすいので

これからつけようと考えてます

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