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死体が救急隊に引き渡されると、
ハンクはコートの襟を立てて立ち上がった。
「……クロウ、俺は先に署へ戻る。
上からの資料、まとめておく」
「頼む」
「お前は港で何か拾っとけ。
警察は聞き込みなんてろくにしねぇからな」
ハンクは苦笑しながら言った。
その顔には疲れと苛立ちが混じっていたが、
クロウへの信頼がはっきり残っていた。
「いいか? 警察がやらねえなら、お前がやるしかねぇ。
この街はそういう仕組みだ」
「わかってる」
ハンクは手を振り、
濡れた床の上を歩きながら港を離れていった。
その背中が見えなくなる頃、
クロウは周囲を見渡した。
船のエンジン音。
氷を砕く音。
作業員たちのざわめき。
いつもの港のように見えてどこか違和感を感じる。
クロウは死体を最初に見つけた男へ声をかけた。
「さっきの……見つけたのはあんたか?」
「お、おう……。
毎朝、この時間に船の確認してて……」
男は落ち着かない様子で手をこすった。
「見つけたとき、どんな状態だった?」
「……最初は、流木かと思った。
でも近くで見たら、人で……
反応がなくて……」
「他に妙な点は?」
男は少し考え、首を振った。
「いや……ただ、
重たそうに沈んで、また浮いて、を繰り返してただけだ。
それで、岸の方に寄ってきた。」
クロウはそれ以上何も言わず、
小さく頷いた。
次に、別の作業員に声を向ける。
「店主は最近、誰かと会ってたか?」
「……あの外の男か?」
「外の男?」
「港に変なスーツ着た奴が来てたんだよ。
港のこと知らねぇって身体してた。
店主と何回か話してた」
「何を?」
「そこまでは……。
ただ、あの店主は他の連中に比べて話しやすいからな。
外の奴に声をかけられたら、断れなかったんだろ」
クロウはさらに聞く。
「外の男は、いつから来てた?」
「ここ数日だ。
やたらと港の状況を聞きたがってたな」
「港の状況?」
「船の出入りとか……荷の流れとか……
妙に細けぇことを知りたがってた。
観光客って雰囲気じゃなかった」
クロウはメモに短く線を引いた。
港の動線と物流を調べる外の男。
その男と会っていた店主。
そして――
店主の死。
「その外の男、どこへ行ったか分かるか?」
「いや……
でも昨日も店主の店にいたな」
クロウの目がわずかに細くなった。。
クロウは最後に、
年配の作業員に声をかけた。
「港で変な噂、聞かなかったか?」
「……噂なんて山ほどあるよ。
だが最近はひとつだけ妙な話がある」
「どんな話だ」
「“外の連中が、この街を買いに来てる”って話だ」
クロウは目を動かさずに続きを促した。
「買いに?」
「ああ。
この街、どこも腐ってるが……
港だけは金になる。
だから外の連中が港を掘ってる、って噂があるんだよ」
「店主は、その橋渡し……か」
「かもしれねぇな。
あいつ、金には困ってたし……
それに……」
「それに?」
「最近、“後ろ盾ができた”なんて言ってたんだ。
あれ、何だったんだろうな」
クロウの胸に、
ゆっくりと何かが沈んだ。
後ろ盾。
外の男。
港の動き。
殺された店主。
線がひとつひとつ、
埋まっていく感覚。
「……十分だ」
クロウはメモを閉じた。
港の朝日はすっかり昇り、
濡れた床に長い影を落としていた。
「さぁて……ハンクに渡す材料は揃ったか」
クロウはタバコを取り出し、火をつけた。
煙の代わりに、
今日の事件の重みが、
胸の奥に沈んでいく。




