表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

市場の反応

六角氏が、たった一日で滅んだ。

この報せは、俺が放った軍勢よりも早く、京の都へと駆け巡った。

俺は、陥落させた観音寺城で、月影衆が次々と もたらす「市場の反応」を、冷徹に分析していた。

報告一:足利義昭(我が社の看板商品)

まず、俺が担ぐ神輿、足利義昭だ。

彼は、俺の本隊の後方、安全な浅井領で戦況を見守っていた。そこに、六角氏滅亡の報が届いた。

「…まことか! あの六角が、たった一日で!」

報告によれば、義昭は狂喜乱舞し、涙を流して俺の使者の手を取ったという。

『信長殿は、まさに天が遣わした義の将軍! この義昭、信長殿と出会えたことを、亡き兄上もきっと喜んでおられるであろう!』

(まあ、そうなるな)

俺は、その報告書を読みながら、鼻で笑った。

彼は、自分の夢が叶うことしか見えていない。その夢を叶えているのが、誰の力で、どんな計算に基づいているのかを、まだ理解していない。

それでいい。神輿は、ただ輝いていればいいのだ。担ぎ手が誰であるかなど、意識する必要はない。彼のその純粋な喜びは、俺の上洛を「正義の戦い」として見せるための、最高のPR材料になる。

報告二:三好三人衆(競合他社)

次に、京で権力を握る、将軍殺しの逆賊ども、三好三人衆。

彼らの反応は、一言で言えば「パニック」だった。

『馬鹿な! あの六角が一日だと!? 何かの間違いであろう!』

『織田の軍勢は、一体どれほどの数なのだ! 報告を改めよ!』

『裏切りか!? 六角の誰かが、奴に内通したに違いない!』

彼らの本社(京の拠点)では、幹部たちが互いを罵り合い、責任をなすりつけ合う、典型的な末期症状を呈しているらしい。

彼らの計算では、六角は最低でも数ヶ月は持ちこたえるはずだった。その間に、京の防備を固め、周辺の反織田勢力を結集させる計画だったのだろう。

(旧時代の経営者の、なんと想像力の欠如したことか)

俺の電撃戦という「新しいビジネスモデル」が、彼らの常識を、そして前提としていた事業計画の全てを、根底から破壊したのだ。

狼狽し、内輪揉めを始めた企業など、もはや敵ではない。ただの、俺がこれから行う「資産整理」の対象に過ぎない。

報告三:朝廷(格付け機関)

そして、最も重要なプレイヤー、帝のおわす朝廷だ。

彼らは、軍事力も、経済力もない。だが、この国で最も価値のある資産…「権威」という、無形のブランドイメージを独占している、最高の格付け機関だ。

その報せは、明智光秀を通じて、極めて丁重に届けられた。

朝廷の反応は、「驚愕」と「期待」が入り混じったものだった。

三好という、粗暴で、朝廷を軽んじる「野蛮な経営者」に、彼らは心底うんざりしていた。そこへ、足利義昭という「正統なブランド」を掲げ、圧倒的な実力パワーで旧弊を打ち破る、俺という新しい経営者が現れた。

帝は、俺を評価するために、すぐに勅使を派遣することを決めたという。

(来たか)

俺は、静かに頷いた。

彼らは、俺を試しているのだ。この織田信長という男が、三好と同じただの野蛮人か、それとも、自分たちの権威を尊重し、新たな庇護者パトロンとなりうる男か、を。

「光秀。勅使は、最大級の礼節をもってお迎えしろ。俺は、旧時代の権威を破壊するが、利用価値のある伝統は、最大限尊重する男だということを、彼らに見せつけてやれ」

全ての報告を、俺は読み終えた。

盤上の駒の動きは、全て俺の想定通りだ。

神輿は、上機き嫌で輝きを増している。

敵は、パニックに陥り自滅寸前。

そして、最高の権威を持つ格付け機関が、俺という新しい会社に興味津々だ。

もはや、躊躇う理由は何もない。

俺は、観音寺城の広間に、全軍の将を集めた。

「六角は、消えた。京までの道は、開かれた」

俺は、地図上の、京の一点を、鞘の先で叩いた。

「これより、この織田信長が、天下の静謐を取り戻す。全軍、京へ!」

俺の号令に、十万の軍勢が、地を揺るがす鬨の声を上げた。

日本の、古いOSをアンインストールし、俺の新しいOSをインストールする時が、ついに来たのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ