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名門の滅亡と織田海軍の誕生

畿内。

それは、日本の政治・経済・文化、その全てが凝縮された、巨大な市場だ。だが、この市場を制するには、陸路だけでは足りない。瀬戸内海へと繋がる海の道…これを支配する者こそが、真の勝者となる。

(俺の会社は、まだ陸運部門しか持っていない。これではダメだ。強力な海運部門…すなわち、無敵の水軍ネイビーを創設する)

俺の目に、伊勢志摩の海図が映っていた。そして、そこに記された一つの名。

九鬼くき一族』

志摩の海を荒らし回った海賊大名。だが、今は伊勢の国司・北畠家と、それに連なる志摩の豪族どもに本拠を追われ、流浪の身となっている。

(最高の投資案件だ)

俺は、ほくそ笑んだ。

スキルと野心はあるが、今は落ちぶれている。これほど、安く買い叩けて、かつ大きなリターンが期待できる人材アセットはない。

俺は、清洲城に全軍の主力を集結させた。尾張・美濃・北伊勢から集まった兵の数は、六万。もはや、地方大名の域を完全に超えた、国家規模の軍事力だ。

「これより、南伊勢へ侵攻する! 目的は、国司・北畠具教とものりの首だ!」

俺の号令に、家臣たちは沸き立った。だが、俺の本当の狙いは、北畠の領地そのものではない。奴らを叩き潰すことで得られる、副産物…九鬼一族と、伊勢湾の制海権だ。

出陣と同時に、俺は一人の男を密かに呼び寄せた。九鬼一族の若き当主、九鬼嘉隆よしたか。落ち武者のような姿だが、その瞳の奥には、飼いならされていない狼の光が宿っていた。

「嘉隆。お前に、兵三千と船、そして莫大な銭を与える。お前がやることは一つ。俺が北畠の本隊を伊勢で引きつけている間に、故郷である志摩を奪回しろ。できるな?」

「…御意。この九鬼嘉隆、殿の期待、必ずや果たしてみせましょうぞ!」

彼は、俺という巨大なベンチャーキャピタルから、再起という名の融資チャンスを得たのだ。その目に、疑いの色など微塵もなかった。

戦いは、俺の描いた脚本通りに進んだ。

俺が率いる六万の大軍が、津波のように南伊勢へと殺到する。北畠の軍勢など、もはや俺の敵ではない。城は次々と落ち、兵は逃げ惑う。

北畠具教が、俺の本隊の対応に忙殺されている、まさにその時。

背後で、もう一つの戦端が開かれた。九鬼嘉隆率いる俺の別動隊が、海から志摩へと上陸。故郷を奪われた恨みと、俺への忠誠を胸に、獅子奮迅の働きで、裏切り者の豪族どもを血祭りにあげていった。

「申し上げます! 志摩より火の手が! 九鬼の一族が、織田の旗を掲げて…!」

北畠の本陣に、絶望的な報告が届いた頃には、全てが手遅れだった。

北と南、二つの戦線を同時に強いられた北畠軍は、完全に混乱。そこへ、藤林長門守率いる月影衆が、偽の伝令を飛ばし、兵糧庫に火を放ち、指揮系統をズタズタに引き裂いていく。

もはや、戦ではなかった。ただの、巨大な組織が崩壊していく様を、俺は高台から静かに眺めているだけだった。

北畠具教は、剣豪としても名高い男だったが、組織のトップとしては無能だった。彼は、俺に降伏し、伊勢の全てを差し出すことで、かろうじて命だけは拾った。

戦後、俺は志摩の港で、勝利に沸く九鬼嘉隆と対面した。

「見事だったな、嘉隆」

「はっ! 全ては殿のおかげにございます!」

「礼はいい。ここからが、お前の本当の仕事だ」

俺は、伊勢湾の広大な海を指差した。

「嘉隆。お前に、この織田家の海軍の全てを任せる。俺は、お前に莫大な投資をする。銭も、木材も、最高の船大工も、全てくれてやる。お前がやるべきは、この日本の誰もが見たことのない、最強・最大の艦隊を創り上げることだ」

俺の頭の中には、前世の知識の断片…鉄の装甲を施された、巨大な軍艦のイメージがあった。

「ただの船ではない。海に浮かぶ、城を造るのだ。いいな?」

九鬼嘉隆の目が、少年のように輝いた。彼は根っからの船キチであり、海賊なのだ。最高のオモチャと、無限の予算を与えられて、燃えないはずがない。

こうして、後の世に「織田海軍」として恐れられる、巨大な軍事組織の産声が上がった。

伊勢志摩を完全に手中に収めたことで、伊勢湾は、もはや俺の会社の「プライベート・プール」と化した。

俺はすぐに丹羽長秀に命じ、湾岸に巨大な港湾施設をいくつも建設させた。安全になった海の道には、全国から商船が吸い寄せられるように集まってくる。

海運がもたらす関税収入と、交易による利益は、飛騨の金山にも匹敵する、新たな巨大キャッシュエンジンとなった。

俺は、新しく生まれ変わった港で、建造が始まったばかりの巨大な竜骨を眺めていた。

陸の軍団は、完成した。

海の軍団も、今、生まれようとしている。

そして、それらを支える財政基盤も、もはや盤石だ。

(さて、役者は揃った)

俺は、再び西の空…魑魅魍魎の都、京へと視線を向けた。

(お前たちの、旧時代のゲームはもう終わりだ。これより、俺が新しいルールで、この国を根こそぎ買収してやる)

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