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岐阜の誕生

稲葉山城の包囲を始めてから、一年が過ぎようとしていた。

城の中では、飢えと絶望が、もはや兵士たちの魂まで喰らい尽くしている頃だろう。

そして、ついにその日が来た。

「申し上げます! 城内より白旗! 斎藤義龍、天守にて自刃! 城兵、開城を願い出ております!」

伝令の報告を聞いた俺の心に、高揚はなかった。ただ、長くかかった一つのプロジェクトが、ようやく完了したという、静かな安堵があるだけだ。

当然の結果だ。俺が仕掛けたのは、物理的な兵糧攻めではない。希望を断ち切り、未来を奪う、「精神の兵糧攻め」だったのだから。

俺は、初めて稲葉山城の天守に立った。

眼下に広がるのは、豊かな濃尾平野。そして、これから俺が乗り出すことになる、西…魑魅魍魎が渦巻く畿内へと続く道。

(いい眺めだ。こここそ、天下を動かすための、最高の司令室ヘッドクォーターになる)

俺は、その場で家臣たちに宣言した。

「この城は、これより**『岐阜城』と改める! そして、この城下の町・井ノ口も、『岐阜』**と改名する!」

家臣たちが、その名の由来をいぶかしんでいる。俺は、不敵に笑ってやった。

「周の文王は、岐山より起こり、天下を平定した。我が師・沢彦和尚は、孔子の生まれた地・曲阜の名を引いて、儂にこの名を授けてくださった。岐山と曲阜、合わせて岐阜。すなわち、この地は、俺が天下布武を始める、聖地となるのだ」

そして、俺は朱印に刻ませた、俺の会社の新しい経営理念スローガンを、初めて彼らに示した。

『天下布武』

武力をもって、天下に俺の秩序ルールを布く。これより、俺の全ての事業は、この四文字のために行われる。

岐阜を手に入れた俺は、すぐに京へ上洛する、などという短絡的な判断は下さなかった。

今の畿内は、将軍家も、三好・松永といった有力大名も、互いに足を引っ張り合うだけの、泥沼のマーケットだ。あんな場所に中途半端な戦力で乗り込めば、すぐに経営資源を使い果たし、共倒れになるだけだ。

(馬鹿げている。天下統一とは、戦い続けることだ。息切れしないだけの、圧倒的な国力…戦い続けるための、無尽蔵の体力キャッシュフローを、まず手に入れる)

俺の仕事は、戦争から、**「国創り」**へとシフトした。

第一に、人的資源ヒューマンリソースの最大化。

「光秀! 長門守! 全国に、最高の噂を流せ!」

俺は、情報戦のプロたちに命じた。

「織田の治める尾張と美濃は、地上の楽土である、と。税は安く、街道は安全で、身分を問わず、実力のある者は誰でも成功できる。戦に疲れた民よ、安寧を求める者よ、全て我が国へ来い、とな!」

このPR戦略は、絶大な効果を発揮した。戦乱に喘ぐ他国から、難民ともいえる人々が、毎日毎日、岐阜の城下へと流れ込んできた。

同時に、俺は奴隷商人たちとの取引も拡大させた。買い集めた奴隷たちには、最低限の衣食住と、そして「希望」を与えた。

「お前たちは、もはや奴隷ではない。俺の民だ。この国のために働き、成果を出せば、いずれは己の土地を持つことも許す」

感謝と忠誠。それは、恐怖よりも遥かに強力な、人を動かすエネルギーとなる。

第二に、優秀な人材のヘッドハンティング。

俺が岐阜に巨大な城下町を築き、楽市楽座で商業を奨励すると、噂を聞きつけた者たちが、全国から集まり始めた。

腕利きの職人、抜け目のない商人、そして…主家を失った、腕自慢の浪人たち。

俺は、彼らを実力のみで評価し、次々と俺の会社に採用していった。家柄も、過去も、一切問わない。必要なのは、俺の天下布武という巨大プロジェクトに貢献できる、「スキル」だけだ。

こうして、俺の家臣団は、旧来の譜代と、俺が自らスカウトしたプロフェッショナル、そして新たに集った野心家たちが入り混じる、最強の「多国籍軍」へと変貌していった。

第三に、インフラへの徹底的な投資。

俺が始めた「織田用水」の建設は、丹羽長秀の指揮の下、着々と進んでいる。

美濃と尾張の平野では、農業革命によって、これまでの倍以上の米が収穫されるようになった。

岐阜の城下町は、碁盤の目のように整備され、その規模は京の都をも凌ごうとしていた。

全ての富は、この岐阜に集まり、そして俺の金蔵を満たしていく。

俺は、岐阜城の天守から、活気に満ちた自らの国を見下ろした。

田畑を耕す民、槌音を響かせる職人、そして、新しい時代の匂いを嗅ぎつけて集まってきた、無数の才能たち。

ここは、もはや単なる一つの国ではない。

天下統一という、前人未到のプロジェクトを動かすために、俺がゼロから作り上げた、巨大な**「エンジン」**だ。

(畿内の魑魅魍魎どもよ。待っていろ)

俺は、西の空を睨みつけた。

(お前たちが泥沼の中で足の引っ張り合いをしている間に、俺は、お前たち全てを飲み込むだけの、圧倒的な力を蓄えている)

その時は、もう、目前に迫っていた。

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