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乾いた城と黄金の平野

美濃の主要な拠点は、全て俺の手に落ちた。

斎藤義龍に残されたのは、稲葉山城とその周辺という、もはや本社ビルとその敷地だけの、破産寸前の会社だ。

俺は、三万という、この地域では規格外の大軍を率いて、その本社ビルを完全に包囲した。

「殿! 今こそ総攻撃の時! 一気に攻め滅ぼし、美濃を完全に我らのものに!」

軍議の席で、柴田権六がいつものように息巻いている。他の武将たちも、目の前の巨大な獲物を前に、興奮を隠せない様子だ。

だが、俺は冷ややかに首を振った。

「馬鹿を言うな。あんな石と木の塊に、俺の貴重なリソースを無駄死にさせてたまるか」

俺は立ち上がり、広間に掲げた稲葉山城の絵図を指差した。

「稲葉山は、殺して奪う城ではない。干上がらせて、無傷で手に入れる資産だ。これより、力攻めは一切行わん。徹底的な兵糧攻めに切り替える」

俺の命令は、絶対だ。

家臣たちの不満を無視し、俺は稲葉山城の周囲に、巨大な「檻」を作り始めた。

城を遠巻きに囲むように、幾重にも柵を打ち込み、土塁を築き、監視のための砦をいくつも建設する。鼠一匹這い出る隙もない、完璧な包囲網だ。

そして、俺は前代未聞のシステムを導入した。

「包囲の兵は、定期的に入れ替える。尾張の本国にいる兵と入れ替えろ。戦争は非日常ではない。俺の会社にとっては、日常業務の一部だ。社員(兵士)に過度な残業を強いるのは、三流の経営者のやることだぞ」

ローテーション制の導入により、俺の兵は常に最高のコンディションを保ち、士気も落ちない。一方で、城の中の義龍軍は、食料と希望を日に日に失い、精神的に磨耗していく。

どちらが勝つかなど、子供でも分かる理屈だった。

さて、稲葉山城という「懸案事項」を檻の中に閉じ込めた俺は、本来の目的…すなわち、**「美濃の完全なる経済的併合」**という、巨大プロジェクトに着手した。

戦争の真の目的は、領土の奪い合いではない。富を生み出すシステムそのものを、奪い取ることだ。

俺は、包囲網の本陣に最低限の将を残し、自らは馬を駆って、美濃と尾張の平野を視察して回った。

「丹羽五郎左(長秀)! この国の血管を、全て作り変えろ!」

俺は、我が社のインフラ担当役員に命じた。

「尾張と美濃を隔てる、全ての道を平らにし、倍の広さに拡幅しろ。国境の関所は全て撤廃だ。血流(物流)が滞れば、組織は死ぬ。俺は、尾張と美濃という二つの心臓を、一本のぶっとい大動脈で結ぶ!」

次に、俺は濃尾平野の広大な未開拓地を指差した。

「内藤(昌豊)! 全国の市場から、奴隷を買い集めろ。銭はいくら使っても構わん。この黄金の平野を、全て水田に変えるのだ!」

人権? 知ったことか。俺は、労働力という「商品」を、市場から正当な対価で買い、最大の利益を生むプロジェクトに「投資」しているに過ぎない。彼らの働きで生まれる富は、いずれこの国の全てを潤すことになる。

そして、俺の真骨頂である、前世の知識チートを解放する。

買収した奴隷と、動員した農民たちを使い、俺は農業革命を開始した。

「全ての田を、この設計図通り、四角く作り直せ! 区画整理だ! これで水の管理も、稲刈りも、効率が段違いになる!」

「種籾は、全てこの塩水に浸けてから蒔け! 良い種だけが沈む! これで収穫高は二割増しだ!」

「水田に、鯉や鴨を放て! 奴らが害虫と雑草を食い、糞が肥料になる! 一つの田から、米と魚と鴨肉、三つの利益を生むのだ!」

塩水選、鯉農法、合鴨農法…。この時代の誰も知らない、だが効果は絶大な技術の数々。

美濃の農民たちは、最初こそ俺を魔物でも見るような目で見ていたが、秋になり、これまでの倍近い米が実ると、その視線は熱狂的な崇拝へと変わった。

さらに、俺は丹羽長秀を呼び寄せ、尾張の地図を広げた。

「五郎左、最後の仕上げだ。我が社の金庫である知多半島は、水が少なく、農地が広げられん。そこで…」

俺は、地図の北、木曽川の上流から、南の知多半島まで、一本の線を指でなぞった。

「ここに、巨大な用水路を掘る。木曽川の水を、知多の痩せた土地まで引くのだ。『織田用水』と名付けよう」

「そ、そのような、途方もない…!」

絶句する長秀に、俺は笑って言った。

「俺は、大地を作り変える。不可能を可能にするからこそ、俺なのだ。やれ」

その頃、稲葉山城の天守で、斎藤義龍は何を思っていただろうか。

日に日に減っていく兵糧。仲間たちの裏切り。そして、城壁の外から聞こえてくる、槌音と、新しい国が生まれる活気。

彼が見ているのは、ゆっくりと迫りくる死だ。

俺が見ているのは、これから始まる、黄金の未来だ。

お前が城の中で干からびていく間、俺は未来を創っている。

それが、お前と俺の、経営者としての決定的な差だった。

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