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第2話「異界」

砂嵐が舞う灰色の空を、鋼鉄の獣が横切った。


ハンターキラー――空中戦闘型無人兵器。重力制御によって宙を滑空し、敵影を感知すれば即座にプラズマ弾を放つ死の機械。


その眼下には、かつて都市と呼ばれた瓦礫の荒野が広がっていた。


ビルは骨のように崩れ、道路はひび割れ、地表には機械の残骸と人間の骨が散っている。


ここは西部戦線の旧シリコンバレー区。


かつて世界の頭脳が集まったこの地は、今やスカイネットの無人兵器の生産と戦略エネルギーの管理を担う中枢の一つでもあった。


だが、今それは、静かすぎた。


「……おかしい。ブリキどもの姿が一切ない」


施設内を移動していたレジスタンス部隊の隊長が、耳元の通信機に向かって低くつぶやいた。


「前衛部隊より報告。敵の反応、なし。侵入ルート確保。繰り返す、敵影ゼロ」


「敵がいない?そんなバカな……」


機械の支配下にある施設が、無傷のまま放棄されるなどあり得ない。


仲間たちは訝しげに周囲を警戒しながら、コンクリートの亀裂を辿り、地下格納庫へと降りていく。


そして――彼らはそれを“見た”。


鋼鉄の床も、強化コンクリートの壁も、タングステンの装甲版も、根こそぎ抉り取られている。


残ったのは不自然な円形のクレーター。熱変質した表面が、わずかに青白く光を帯びていた。


「……これは……?」


中心施設。機械炉、エネルギーコンデンサー、ハンターキラー、エリアル、タンク等の組立ライン


――すべてが、忽然と“消失”していた。


直径数十メートルの真円状にえぐれた床。


その縁は焼け焦げ、金属すら歪むほどの熱と圧力がかかった痕跡が残っていた。


まるで、空間ごと“引き抜かれた”かのような跡。


「爆撃でもねぇ……熱核でもない。物理法則を捻じ曲げたような……」


工兵がそっとつぶやいた。


だがそれは、明らかに“自然”ではなかった。


まるで、何かが世界から「召喚」されたかのように――。


「……全隊員、警戒を解くな。」


「隊長これは、我々の勝利なのでしょうか……」


「いや、スカイネットがブリキ共を別の時間軸へ転送させたのかもしれん、


このことは直ちに《司令官》へ報告だ! 急ぐぞ!」


◆◆◆


西部戦線の旧シリコンバレー区の部隊からもたらされた情報により、


スカイネット軍の重要拠点を抵抗軍は被害なく抑える事に成功した。


しかし、《司令官》は危機感を募らせていた。この拠点にもタイムマシーンの存在が確認されたのだ。


通常の転移ではありえない範囲の空間がえぐり取られるように転移したことが判明した。


スカイネットはこれまでにも、過去に2度、ターミネーターを送り込んだ前例がある。


だが今回は、単体兵器ではなく、複数の未来技術を集約した《施設》ごと、

時間を越えて転送した可能性が高い。


しかも、これまでは”生体組織”を持たない対象はタイムトラベルは出来なかったが、西部戦線拠点では明らかに”生体組織”以外を送り込んでしまっている。


また、”どこ”へ転送されたかも不明なのだ。幸いなことに技術兵の解析により”座標”と”時間”の履歴を割り出すことには成功している。



時間と場所が変わり、別の地下施設


――スカイネットから奪還された旧通信基地の地下格納庫では、新たな作戦が進行していた。


照明の落ちたコンクリートの空間。そこに立っていたのは、ひとりの男の姿をした兵器。


T-800。


シリーズ中でも最も戦闘と潜入に特化したモデルであり、全身を生体組織で覆われた戦術型エンドスケルトン。


外見は人間そのものだが、その内部には高出力モーター、戦術予測ユニット、損傷解析機能を備え、単独で小隊を殲滅可能な近接戦闘能力を有していた。


「目標再入力完了。転送座標、確定」


制御コンソールの前に立つ技術兵が、かすかに緊張した声で告げる。



隣に立つ指揮官が頷き、T-800の前に一歩進み出る。


男は年の頃は40代後半か。額から左頬へ斜めに走る深い傷跡が、縫合痕を残している。


無精ひげに隠れた口元は固く引き結ばれ、その眼差しは、過去に何度も死線を越えてきた者だけが持つ、重みと決意を帯びていた。


その視線が、まっすぐにT-800を捉える。


「……行き先は“不明”だ。だが、あの時間軸の向こうにスカイネットが干渉した“何か”がある。


それを探れ。そして、破壊対象でなければ――守れ。


……たとえ、それが我々の知る“世界”の外であっても、だ。」


T-800は無言のまま、ゆっくりと男に視線を向け、わずかに頷いたように見えた。


転送装置が作動する。


円形のプラットフォームに青白い光が走り、重力場が渦巻きうねる様に空間が歪んだ。


「転送カウント、開始!――3、2、1……!」


眩い閃光と共に、T800の体が徐々にフェードアウトしていく。


だがその途中、警告音が鳴り響いた。


《時空座標中、干渉エネルギー急上昇――!》


《制御不能!出力超過、転送強行されます!》


青白い閃光と雷鳴が装置全体を包み込む。


その瞬間、T800の姿は、音もなく消えた。


機器は焼け焦げ、壁面には謎の立体陣形の焼き跡が残された。


「座標はどうなった!? ……目標地点は!?」


「直前で時空座標に変動がおこりました、目標地点の座標に若干のずれが生じた模様。


しかし、時間座標に大きな歪みが発生したため《いつ》へ転送されたか不明です…」


◆◆◆


……【転送中プロトコル】起動。


周囲の時間波が伸び、視覚は無限の閃光と闇の連なりに溶ける。


観測不能な時空の裂け目を滑空する最中、T-800の内部モジュールに“干渉ノイズ”が走った。


《システムアラート》

> 転送座標に不整合:再演算中……

> 重力場乱流確認。外部エネルギー干渉の可能性=高


……ノイズの海の中、命令系統に歪みが走る。


 《主要任務の再定義》

> 【探査任務】:維持

> 【破壊対象】:未確認 → 保留

> 【保護対象】:追加登録中……


……カチ、カチ、と機械的な音が鳴る。


そして、視界に一瞬だけ、ノイズまじりの文字列が映し出される。


> 保護対象:L-S!R:γ₈Nq=E43@ZTL


(文字列解読不能:既知言語コードと不一致。言語ファミリー未分類。構造解析中……保留)


▼発音推定:不可能

▼対象ラベル:OBJECT-A001(暫定識別)


> 対象データ不明:情報取得優先順位=最高


***


閃光が、視界を呑み込んだ。


二つの月の光が照らす異世界。


そこに、“彼”は立っていた。


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