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第16話「到着」

夜が明けても、ルシアナの胸中は晴れなかった。

昨夜、T-800から語られた別世界の惨劇

――三十億の命が一瞬で奪われた事実と、機械との果てしない戦争。

その記憶は、まるで黒い影のように彼女の心を覆っていた。


町での一夜を過ごし、彼らは揺れる馬車に身を任せて出立した。道すがら、リオネルが口火を切った。

「なあルシアナ。その顔、まだ引きずってるだろ? 目の下に影ができてるぜ」


ルシアナは一瞬言葉を失ったが、小さくうなずいた。

「……人間と機械が戦う世界が、本当に存在するなんて。信じられなくて…」


カミーユが静かに答える。

「それでも、彼が語ったことは真実なのでしょう。あの無機質な声に、虚飾はなかったわ」


石像のように無言を貫くT-800はただ前を見据えている。その沈黙が、かえって彼らを守る壁のごとき堅牢さを思わせた。


昼過ぎ、彼らはようやく目的の村へ辿り着いた。森の端に寄り添う小さな村は煙突から立ちのぼる白煙が青空に細く伸びていた。

粗く組まれた木製の防御壁で村の周囲をかこっており、村門は二重に扉が設けられ、簡素ながらも外敵の侵入を防ぐ造りであった。


「……ここが、例の村か?」

 リオネルが鼻をひくつかせ、低く唸った。

「獣の臭いが濃いな…。つい最近、襲われたばかりだな」


門の前につき、守衛と思われる村人に事情を説明し待っていると。彼らを迎えてくれたのは、白い長髭を蓄えた村長と、引き締まった体つきの青年だった。

村長は深く礼をとり、低い声で言葉を紡いだ。

「初めまして。わしはこの村を預かる者、村長のヘイス。隣にいるのはこの村の猟師エドランですじゃ。

この度はアカデミアからご足労頂きありがとうございます。」


「エドランです。この度は案内役としてお供しますのでよろしくどうぞ」

二人が軽い自己紹介を終えると


「オルド=アカデミアから参りましたエルフ族のカミーユです。

こっちは召喚体の《水竜ヴォル・ナーガ》です。」


「オレっちはリオネル。獣人族だ。

二人と違って召喚体はないけど、アニマで肉体強化ができるんだぜ!」


「同じくアカデミアから参りましたルシアナです。…私の召喚体は…」

ルシアナは少し言葉を詰まらせ、後ろに控える巨影を見やった。

「私の召喚体は『かれ』です」とT-800の方を見て、目でT-800にも自己紹介するよう促す。


「T-800。サイバーダイン・システムズ800型、モデル101。自立稼働する戦闘用の兵器だ。」


村長のヘイスとエドランは驚き

「てっきり冒険者が同行してきたものかと思うとりましたが、それにしても大きな方で驚いたのですが…。今は『人型の召喚体』もいらっしゃるんですなぁ」


「は…はい、彼は特別な召喚体で学院内でも新しいアニマの存在として研究しているところなのです」


そんな話をしながら村長宅へと到着し、中へはいると長机のある部屋へ案内される。

村長の奥さんと思われる老齢の女性が、飲み物をだしてくれる。


「既に冒険者ギルドからの依頼書はご覧になられているとおもいますが、

1カ月程前に森の奥に洞窟が見つかりました。その洞窟は、誰かが掘ったかのように奥へと続いており……その奥に魔晶石と金属の鉱脈が眠っていたのです。

しかし、それ以来ワイルドウルフの群れが村を襲うようになりましてな。我らは恐れております。どうか調査と解決を」


「依頼書からも疑問におもったのですが、よろしいでしょうか?」とカミーユが尋ねる。


「なんなりと。私たちでお答えすることが出来る限りではありますが…」


「村を襲うようになったのはワイルドウルフだけなのでしょうか?」


「ええ...ワイルドウルフだけが頻繁に出現するようになったのです。

しかも、ただでさえ攻撃的で気性の荒いやつらが、いっそう狂暴になっているんですよ。

今や不要不急の村への外出は厳禁としています。」


「うーーん。魔晶石が獣のアニマを宿していたら。その周囲の獣、全てに影響するはずなんだけどなぁ。

今になって、しかもワイルドウルフだけに影響がでた。…というのは不思議だなぁ」

リオネルが顎に手を当て、唸りながら考え込む。


「とにかく!一度現地にいって確認をしましょう。

私たちはれっきとしたオルド=アカデミアの召喚士です。

実際に魔晶石鉱脈のアニマを感じれば何かわかるでしょう。」

そういってルシアナが考え込んでいる雰囲気を破るかのように手をパンと叩いた。


「今日は現場を偵察のみとし、本格的な調査は明日、必要な装備を揃えて向かった方がいいだろう。」

ルシアナの後ろで控えるT-800がルシアナの発言に付け加える。


「そうですな、よろしくお願いいたします。」

「そうだ、調査の拠点として宿を手配してるんで、このあとに俺が案内するよ。

なんか物凄い量の装備を用意しているようだし、荷物もそこに置いておくといい。」


話が一段落し、エドランの案内で拠点となる宿へと案内される。

だが、宿の軒下で飼われる犬がT-800を目にした瞬間。

毛を逆立て、低く唸りながら、激しく吠えかかった。

何事かと宿の主人が犬をなだめるが一向に収まる気配なく。


「どうしたんだウルフィそんなに吠えて…すみませんね。お客人方。普段は人に向かって吠えない、おとなしいやつなんですがねぇ」


「俺もウルフィがこんなに吠えているとこは見たことないな…ワイルドウルフの件といい、なんか嫌な予感がするなぁ…」


「へぇ…猟師の感ってやつっすかね?獣人族からするとそういう野性的な感って結構あたるもんなんだぜ」


「ちょっとリオネル変な事いわないでよね…。

すみません店主さん、きっと大人数で依頼とはいえ物騒な装備もたくさんもってきてしまったから、

わんちゃんを刺激したんだと思います。」


「そうだな…エドラン、ちょっとウルフィを見ていてくれ。お客人達を部屋へ案内と、手続きをしないといけないからさ」


こうしてルシアナはカウンターで宿の手続きをすませ。その間に3人は調査に必要とされる道具を部屋へと運んで行った。


ルシアナが遅れて部屋へはいると、T-800が購入した武器と装備を各自に渡しているところだった。

ルシアナには短剣とリピータークロスボウ、リオネルにはセスタスとロングクロスボウ、

T-800にはグラディウスとヘビィボウガン、そしてポールアックス。


カミーユの武器も用意したが彼女はそれらを断った。

「わたしは魔法で戦うわ。それにこの子《水竜ヴォル・ナーガ》の力も役に立つはずよ。」

 その凛とした言葉に、リオネルは口笛を吹いて笑った。

 

荷を置き、偵察の為の準備を整えると1階へ降りた頃、ちょうどエドランが離れの小屋にウルフィを置いて戻ってきたところだった。

「準備の方はいいようだな。洞窟の場所は村を出て30分程のところだから、往復と少し調べるだけなら夕方前には戻ってこられるはずだ。」


こうして、偵察にはT-800、ルシアナ、リオネルの3人が向かい。カミーユは荷物の整理や他の村人へ聞き取りを行う事で手分けをすることになった。


30分ほど森を分け入ると、洞窟は現れた。斜めに穿たれたその口は、雨に削られ偶然露わとなった地の裂け目であった。

「父と狩りの帰りに、ここで地面が崩れ落ちたんです。僕はここを滑り落ちたのですが……幸い父もすぐ近くにいたので引き上げられました。

中は少し調べただけで、深くはまだ見ていません。

まさか村の近くにこんな落とし穴みたいな洞窟があるとは思いませんでしたよ。

おそらく狩に出る1週間くらい前まで、ずっと長雨が降っていたので、洞窟を覆っていた土が柔らかくなっていたのかな。」


リオネルは好奇心から首を伸ばして洞窟の入り口付近を調べている。

「たしかに傾斜はそれほどでもないけど、急にこんな洞窟が足元に現れたら、下まで真っ逆さまだな。」


「おれが下まで行って調べてこよう」

そういうとT-800はポールアックスとヘビィボウガンを置いて洞窟へと進み出る。


「お願いするわ。でも今日は偵察だけだから一人で無茶しないでね」


「ああ…」T-800は簡潔にそう答える。


「ちょっとまった!松明の準備をするからよ」


「必要ない…おれの視覚センサーは暗視機能も備わっている」

簡素にそう答えるとT-800は洞窟の中へと入っていった。


◆◆◆


内部はひんやりとした湿気に満ち、滴り落ちる水滴の音が規則的に響く。

岩肌は苔に覆われ、足下には獣の骨が散乱している。

人間の目には不気味な闇が広がっていたが、T-800の視界は瞬時に赤外線と光量解析に切り替わった。


探索モード


《視覚解析モード 起動》

《環境光量:低/補正:赤外線》

《温度:12.6℃ 湿度:84%》

《周辺生体反応:検知せず》


少し奥に進むと、岩壁の裂け目に鈍い光が反射した。

T-800は一歩踏み出し、センサーを集中させる。


《対象:結晶体》

《形状スキャン:六方晶系》

《スペクトル解析:解析不能/周波数:不定》

《結論:魔晶石 可能性高》


次に、壁面の黒色鉱脈を検知し、赤外線照射による反射率分析を開始する。


《対象:鉱石》

《化学組成:タンタル・ニオブ酸化物含有》

《導電性:高》

《結論:コルタン鉱石》

《備考:電子回路・合金素材に適合》


——環境データ更新。

《洞窟内部=戦略資源鉱脈確認》


◆◆◆


しばらく待っているとT-800が地上へと戻ってきた。

「それで、中はどうだったんだい」


「洞窟内の大気成分に有毒なものは確認されなかった。魔晶石とされる鉱物も文献のデータから特徴が一致した。だがアニマの属性は俺にはわからない。

それと『この世界』の文献にはなかった鉱物もあった。」


「え!?この世界にはないものって??」


「コルタンだ」


「…こるたん??なんだいそりゃ。たしかに聞いたことないな…グレタ先輩だったら知っているかもだが…文献にもない鉱石だとなぁ…」


「なぁ…あんたら、話し合うのもいいが、帰りながらでもいいかい?夕方になるとワイルドウルフの群れに出くわす可能性が高くなるんだ。

急がなくてもいいが、そろそろ出発はしたほうがいいぞ。」

エドランにそういわれ、歩きながらT-800へ質問の続きをおこなう


「それで…そのコルタンってなんなの?」


「コルタンとは耐食性に富み、融点3000度以上の超高融点金属だ。精密機器にも使われ、おれの体にも使用されている。」


「え!?じゃあ、あんたって炎で燃やした程度では破壊できないって事かい?」


「文献や書物の情報からでは、この世界の魔法を含めた技術力ではおれを破壊することは不可能に近い」


それを聞いていたエドランは驚いて姿勢を正し、ルシアナに言う。

「そんなすごい召喚体を使役するだなんて…ルシアナ様は相当に優れたアニマをお持ちの召喚士なのですね。」


「あはは…。 そ…そうよ!私と召喚体も学院ではものすごく注目されているんだから」


「うん…まぁ…たしかにある意味『注目』はされているよな…」

そういうリオネルにムッとした視線で睨みつける。


黄昏が森を覆いはじめる頃、彼らは村へと戻る。だがその瞬間、空より轟音が響き渡った。上空を舞うはカミーユの召喚体《水竜ヴォル・ナーガ》

その口より奔流のごとき水のブレスが大地を薙ぐ。村へと走る視界には、――群れ成すワイルドウルフ。牙を剥き、木々と大地を揺らすような咆哮とともに、村を襲う光景であった。

読んで下さりありがとうございます。

次回は8月22日18時を予定してます。また投稿日があいてしまい、申し訳ありません。

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