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第14話「準備」

それから六日後。


アカデミアの東門を抜ける馬車が、砂塵を巻き上げながら進んでいた。硬い車輪が石畳から土道へ移ると、馬車の揺れは一層激しくなった。

車内にはルシアナ、カミーユ、リオネル、…そして無言のまま、学院から渡された『とある依頼書の写し』を読み込むT-800の姿があった。


『契約安定化試験』は既に終わっている。カミーユとリオネルは無事に合格することが出来た。

試験の二段階目――実技演習でも、カミーユは召喚体の制御を見事にやり遂げ、リオネルは自身にアニマの力を発動させることで身体能力強化に応用し、誰もが納得する結果を残した。


一方、ルシアナの場合は事情が複雑だった。演習場で暴走した召喚体を制圧したという実績は、規定以上の力量を証明するに十分だった。しかし、暴走する召喚体以上の力を持つ”T-800”を模擬戦に出すこと自体が危険と判断された。

さらに、召喚試験でも異例の合格を出している経緯があり、学院としては度重なる特例を認めることに慎重にならざるを得なかった。


結果、学院は別の判断を下した。

――試験後の長期休暇を利用し、冒険者ギルドから寄せられた”ある依頼”を解決せよ。

それが今回の馬車旅の目的だった。


窓の外には、見慣れた学院都市の街並みが少しずつ遠ざかっていく。石造りの塔の影が小さくなり、やがて視界の端から消える。ルシアナは革張りの座席に背を預けながら、ひとつ深く息を吐いた。


「……なんだか、本当に遠くまで行くのね」

そう呟く彼女の横で、カミーユは穏やかな笑みを浮かべ、リオネルは腕を組んで無言を貫く。

T-800は相変わらず微動だにせず、”依頼書”を読み終えると首を動かして周囲を確認していた。


「……私たちが一緒に行くの、ちょっと意外に思ってる?」

 ルシアナは小さく瞬きし、少し間を置いてからカミーユの問いに頷いた。


「……でも、助かるわ」

 すると、リオネルは肩をすくめ、苦笑した。


「助かるって言うより、おれっちらのほうが興味津々なんだよ。あいつ……いや、おまえの召喚体な。どうやってアニマを使わずに、あんな力を発揮できるのか……普通じゃありえねぇ」


カミーユも真剣な表情で続けた。

「“彼”が言っていた『機械』という存在も、学園の資料には一切記録がないわ。知っている者がいない以上、私たちも直接調べるしかないの」


 ルシアナは二人の視線を交互に見やり、小さく息をつく。

「……つまり、研究目的?」


「そういうこと。でも、もちろんそれだけじゃないわ」

カミーユが少し笑みを浮かべる。

「あなた一人じゃ、もし何かあったとき心配だから。学園側もそれは考えてくれたの」


「俺たちが頼み込んだら、すぐに許可をくれたしな」

リオネルが片手を後頭部に回しながら言う。

「おまえがどこかでまた妙な騒ぎを起こす前に、俺らがフォローしてやるよ」


ルシアナはわずかに口元を引き結び、前へと歩みを進めた。

「……あまり頼りすぎないようにするわ」

「それが一番いいかもな」

 

T-800が依頼書をルシアナへ返すと、

「……依頼の内容から判断するに、武器と防具の準備が必要だ」


リオネルが眉をひそめる。

「素手で暴走した《ワーウルフ》をやっつけられるのにか?」


「遠距離による攻撃や複数による襲撃を受けた時、ルシアナを守ることは難しい」

T-800は淡々と告げる。それを聞いたカミーユは真剣な表情でやや考え込み


「たしかにそうよね。いくらあなたが強くても一人でできる事には限界があるわ…。ねぇ、今日は目的地の村近くの町で降りるわよね?着いたらそこで手分けして必要な行動をとるべきじゃない?」


「じゃあ……カミーユと私は宿の手配。リオネルは冒険者ギルドで今回の依頼の受領報告をお願い。T-800は装備の調達をお願いするわね」

ルシアナは簡潔に指示を出した。


「了解。」

「ええ、それでいきましょう」カミーユもすぐに同意する。


ルシアナは腰の小さな革袋を外すと、T-800の膝上へ置いた。

「装備の費用はこれを使って。必要なら追加も出すわ」

 ずっしりと重い金貨の入った袋を手渡す。T-800は一瞥し、何も言わず袋を受け取った。


「お嬢様の家は相変わらず太っ腹だな」リオネルが苦笑混じりに呟く。

「お金の心配はいらないわ。それよりも、安全に終わらせることを優先しましょう」

ルシアナの静かな口調に、車内の空気が少しだけ引き締まった。


車輪の音が乾いた道を刻み続ける。町まではまだ時間がある。窓の外、夏の陽射しを受けて麦畑が金色に揺れていた。

午後三時過ぎ、柔らかな日差しが街路樹の葉を黄金色に照らし、町の石畳に長い影を落としていた。


馬車はゆっくりと町の城門をくぐり抜ける。周囲には穏やかな午後の喧騒が広がり、商人たちの呼び声や子供の笑い声が微かに響いていた。

砂埃が風に舞い上がり、乾いた空気の中を通り過ぎていく。舗装された石畳の道は午後の陽光を反射し、歩く人々の足元を柔らかく照らしている。


降車の合図が出ると、ルシアナ、カミーユ、リオネル、そしてT-800は静かに馬車から降り立った。

「それじゃあ、各自やることはわかっているわよね。2時間後にまたここで落ち合いましょう。」


「さてとおれっちはギルドへ行って依頼の正式な受領報告と、町の状況確認もしてくる。ギルドからの情報も得られるかもしれないからな」

リオネルは背伸びをしながら答え、長く座っていたため、全身の筋肉をほぐす。


各自の行動を再確認していると、後ろで乗ってきた馬車の御者から声がかかる。

「あんたたち、武器の準備がどうこういっていたよな。もしよかったら『アラモ武具店』によってくれよ。従兄弟がやっているんだが、冒険者からの評判もいいんだぜ」

「まぁ、当てもなく探しまわるよりかはいいか…T-800にどうするかまかせるよ」


◆◆◆

町の雑踏が耳に入り、通りには店や商人の呼び声が響く。鍛冶屋の鉄の匂い、革製品の匂いが風に混じる。

T-800は物静かながらも確かな足取りで、鍛冶屋や防具店の並ぶ通りを歩いていた。


『アラモ武具店』

店先には様々な武器や防具が整然と並び、鍛冶の熱気と革の匂いが入り混じった空気が漂っている。

T-800は無表情のまま店内に足を踏み入れ、静かに周囲を見渡しながらカウンターにいる店主に声をかけた。


「近接戦に特化した『ローマン・アームズ工房のグラディウス』はあるか?」

「ドワーフ国産だ、室内戦でも取り回しに困らないよ」


「装填オプション付き、リピーター・クロスボウ」

「新製品で入ったばかりだ。こいつはいいよ!横づけ装填式だから狙撃の邪魔にならない。フロントサイトを目標に合わせて射れば百発百中!」


T-800は渡されたリピーター・クロスボウを静かに構え、店内を見渡した。

「なんか他には?」


店主の問いにリピーター・クロスボウをカウンターへ置きながら

「射程400可変式プラズマライフル…」


「あいにくとそいつは売り切れでね…」客の冗談に合わせたつもりで店主が答える。

T-800はカウンター後ろに並んだクロスボウへと目を移し

「ヘヴィ・クロスボウ」


「お客さん詳しいね…どれも魔獣から身を守るには最適だ」

T-800がヘヴィ・クロスボウに手をかけ、滑車を引こうとしたその時、店主が尋ねた。


「それで、どれにする?」

T-800はゆっくりと店主を見据え、静かに答えた。

「全部だ」


店主は驚きながらも満面の笑みを浮かべ、肩をゆらして笑った。

「へへ、今日はもう店じまいにするか」


代金を支払い、大袋に大量の武器を詰め込んだT-800は、静かに約束の場所へと足を運んでいった。

いつも読んで下さりありがとうございます。

次回は8月17日18:00の投稿を予定しております。


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