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第12話「制止」

演習場の喧騒がようやく静まり返り、舞い散う土埃の中でルシアナはT-800の肩の傷に視線を落とした。


「怪我は……大丈夫なの?」

不安げに尋ねるルシアナに、T-800は淡々と答えた。

「問題ない。機能に損傷はない」


その無機質な言葉に、彼女は少しだけ胸を撫で下ろしながらも、その異様な冷静さに違和感を覚える。


そこへグレタが静かに近づき、柔らかな手つきで自分の上着を脱ぎ、裂けた肩口を覆い隠すように掛けた。

「確かに大丈夫かもしれないけど、あんたが”機械”ってことは、あたいら以外知らないだろ。こうしておけば少しは目立たなくなる」


ルシアナとカミーユ、リオネルの様子を一瞥し、グレタは落ち着いた声で言った。

「ここは任せたよ。あたいはあの獣人族たちの様子を見てくる」


グレタが向かった先には、倒れ込み、肩や足を押さえて呻く獣人族の上級生たちがいた。


「おい、ガザル、リウィル、ザリクル……大丈夫かい?」

一人ずつ傷を確かめながら、慎重に声をかける。


「グレタか……? 俺は何ともねぇが……」

スカーフェイスのガザルがそう答え、取り巻きの二人に視線を送る。


黒い毛並みを震わせながら、リウィルがかすかにうなずいた。

「ああ、なんとかなぁ……でも、まだ痛ぇな」


足を押さえてうめく、背の低いザリクルも息を整えながら答える。

「動けるけど、無理はできねぇな」


2人の命に別状はなさそうだと安堵したグレタだったが、ガザルが自分の召喚体ワーウルフを見やり、低く問う。

「……俺の相棒はやられちまったのか?」


「残念だけど……あんたの召喚体は暴走していた。他に被害が出る前に、”あいつ”が止めちまったよ」


「くそったれが……! 今までこんな事なかったのによ!」

(確かにガザルは素行は荒いが、アニマの扱いでは常に上位だった。獣人族特有の身体能力を活かしたアニマ操作で、あの《ワーウルフ》を完全に制御していたはずなのに……)


その時、訓練場の入り口に教師陣と警備隊が現れ、重々しい空気が場を包み込んだ。


「なんだこの状況は!! 今度は一体何があった!!」

教師の一人、アルフォンスの声が冷たく厳しく、訓練場のざわめきを一瞬にしてかき消す。


被害に死傷者は出なかったが、上級生使役する強力な召喚体が絶命している事実は重大だった。


「召喚体が関与したのか?」

厳しい視線が自然とルシアナとT-800に向けられる。


アルフォンスが険しい表情で詰め寄った。

「ルシアナ・グランテール!!……この騒ぎの原因は、またお前とその召喚体なのか?」


「そ、そうですが、これは、あの召喚体が――」

「先日の件といい、召喚に成功してからというもの、お前は召喚体を制御できず、問題しか――」


アルフォンスの言葉を、T-800が遮った。

「そこの召喚体は制御不能の暴走状態にあった。俺の召喚士やその周囲も危険に晒されていた。それを排除したまでだ」


「……!? (召喚体がしゃべる? 人間型だから話せるのか……)」


「痕跡からも明らかだが、強力な召喚体の暴走だった。機能を完全に停止させる必要があった」


「騒ぎの原因がルシアナとその召喚体であることはわかった。だがこれはやりすぎだ! 処分は覚悟しておけ!」


「なぜだ? 召喚士が召喚体を使用し、自己および第三者の生命・身体を守ることは《召喚体の使用に関する規定・第42条》に明記されている。《第42条・特例附則:暴走召喚体制止規約》に照らしても、そこの暴走召喚体の機能を停止させたことに咎はないはずだ」


「……な!?」

その発言に驚いたのはアルフォンス教師だけでなく、ルシアナたちや負傷した獣人族たちも同じだった。


「”怪我”の治療が必要なので失礼する」

そう言うと、T-800は演習場から姿を消す。


その様子を見て、グレタは小声でルシアナたちに言った。

「おい、あんたたちも行きな。ここはあたいが何とかしておく」


グレタの言葉に我に返ったルシアナたちは、同時に審問での報告義務を思い出す。

「あの、先生……報告書は明日の朝一番に提出します!」


そう口早に告げると、ルシアナたちは演習場を後にし、T-800を追った。


いつも読んで頂きありがとうございます。

次回の投稿は8月13日18:00を予定しております。


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