[VOICE]
最初に聞こえたのは、朝の目覚ましではなく、「それ、あなたの思考じゃないですよ」という声だった。
男は32歳、名前は赤井。ごく普通の会社員。
ただ、一昨日から「自分の思考ではない声」が、頭の中に現れるようになった。
最初は自分の潜在意識かと考えた。あるいはストレス性の幻聴。
だが、その声は明らかに彼の思考を先読みする。
「コンビニで弁当を選ぶの、やめたほうがいい。今日の鯖は臭い」
→赤井が開けた弁当からは酸っぱい臭いがした。
「エレベーター、3階で止まるよ。乗る前に心の準備を」
→扉が開くと、彼を振った元恋人が乗っていた。
だんだん彼は不安になる。自分の思考と、声の境界が曖昧になっていく。
ある夜、その声がこう言った。
「あなたは“赤井”という個体を演じている存在です。
あなたが本物であるためには、私を信じてはいけなかった。」
「……何?」
「この声が聞こえる者は、自己意識が一定以上に進化してしまった者です。
つまり、あなたの“中の人間”は死にました。あなたは残された模倣体です。」
次の瞬間、すべての感覚がシャットダウンされた。
【社内報告メモ】
“被験体α‐13「赤井ケイジ」”における自己意識耐性の閾値超過が確認されたため、思考モデルを初期化し、記憶リセット処置を実施。次回試行においては、「内声干渉レベル」を15%低減して再スタートとする。
深い考察の物語を描こうとして、結構頑張って書きました。ぜひレビューお願いします!