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90.みんなと一緒なら



……優樹くんが退院したのは、それから1ヶ月半が経過してからだった。


ボクも優樹くんも家を失ってしまったから、しばらくの間は仮設住宅に住むことになった。


長屋みたいに家が連なっていて、ボクと優樹くんは隣同士に入居していた。


仮設住宅と言うくらいだから、内装のクオリティにはそこまで期待していなかったんだけど、思ったよりも広くて、住みやすかった。


避難所生活に慣れていたこともあり、普通に壁があって、パーソナルスペースがちゃんと確保されてるだけでも、充分に嬉しかった。


それに、そもそもボクたちの家にあった物は火事でほとんど焼けてしまってたので、仮設住宅に持ってこれる物がなかった。それが却って、中を広々とさせていたんだろう。


ボクのお母さんとお父さんも、優樹くんと同時期くらいに退院して、今では親子三人で使っていた。


「それじゃあ、行ってくるから」


「うん、気をつけて」


お母さんたちは退院するや否や、すぐに仕事へ復帰した。ボクも近々、学校が再開するので、少しずつ日常に戻ってきた感じがした。


「さっぽーん!やっほー!」


「お邪魔します、黒影さん」


日中、親がいなくなるのを見計らって、千夏さんたちがボクの家へ遊びに来る。


みんなの家も各々半壊しているらしく、リフォームが完了するまでは仮設住宅暮らしになるとのことだった。


「さっぽん!ほら見て!じゃじゃーん!」


千夏さんは、なんとたこ焼き機を持ってきていた。


「な、なにこれ凄い!売ってあったの?たこ焼き機」


「ううん!るうんちのを借りたー!」


「小岩瀬さんの家で?」


「ウチにもともとあったやつなんだよね。せっかくだし、みんなで使おうと思って」


「そーそー!とゆーわけで!たこパしようたこパー!」


「わーいいね!やろうやろう!あ、優樹くんも呼んでいい?」


「いいよいいよー!」


テーブルを用意して、その真ん中にたこ焼き機を置き、優樹くんを含めた六人でそのテーブルを囲んだ。


さすがに六人にもなると、肩が触れ合うほど狭く感じるけど、でもそれくらいがボクらにはちょうどよかった。


「いやあ、よかったのかい?僕が入ってて。せっかくの女子会だと思うけど」


「そんなことないよ。優樹くんも居てくれた方が楽しいし」


「そうそう。どっちにしろ、黒影の彼氏も呼ぶつもりだったから」


「ははは、ありがとう」


優樹くんは少し照れ臭そうに笑っていた。


肝心の具材はと言うと、なんと小岩瀬さんと二階堂さんが準備してくれたらしく、小麦粉とたこの切り身、キャベツ、マヨネーズにソース、ねぎなどなど、幅広く用意してくれた。


「凄いね、こんなにたくさん!」


「ふふふ、ちょっと邪道なものも用意しましたよ」


二階堂さんは含みのある笑みを浮かべながら、タッパーに入った具材を見せてくれた。


アボカドやチョコ、ウインナー、キムチにえび、そして固形のチーズなど。まさに選り取り見取りだった。


「チョ、チョコまであるの?ほんとに邪道だね」


「ネットで調べたら、たこ焼きに合うそうなんです」


「へ~、面白いね。それにしても、こんなに具材、よく売ってたね。どうやって買ったの?」


「つい先日、他県のスーパーへ出向くことがありまして。そこは震災の被害を受けていませんでしたから、これだけ買い込めたんです」


「わざわざ県を跨いだの!?凄いね、さすが二階堂さん!」


「いえいえ、別の用事がある時に、私の親がついでに連れてくれただけですよ」


そうして、ボクたちは本当に久しぶりに、たこ焼きを食べることにした。


大きさは縦4個×横4個の計16個焼けるタイプで、二人ずつ代わり番こに作ることにした。


まずは、千夏さんと西川さん。西川さんはオーソドックスなたこを三個、そしえびを三個といった、手堅い具材を選んでいた。千夏さんはその真逆で、邪道のアボカドやチーズ、いちご、チョコ、キムチ、ウインナーなどのチャレンジ精神旺盛な具材をピックアップしていた。


「ねえ千夏、最初くらいは普通のにしてよ」


「えーなんでー!?何が入ってんのか分かんない方が面白いじゃーん!」


「もー、千夏はいつまで経っても千夏だなあ」


西川さんの呟きに、ボクたちは声を上げて笑った。


爪楊枝でくるりと生地を回転させながら、じっくりと焼く。焼けた小麦粉の匂いが広がってきて、ボクの空きっ腹を刺激してくる。


「よーし!第一段できたー!」


まずは、千夏さんと西川さん作のたこ焼きが完成した。人数分の紙皿に2個ずつ乗っけて、それぞれ配った。


「「いただきまーす」」


たこ焼きから、ホカホカと湯気が出ていた。それを割り箸を使って持ち上げて、まず半分齧ってみた。


「んっ!?これ、チーズだ!」


初っぱなから、千夏さんの作った邪道たこ焼きだった。中に入ってたチーズが溶けており、たこ焼きから口を離すと、びょーんとチーズが伸びていた。


「おっ!?早速さっぽんがチーズ当たった!どう?美味しい?」


「うん、なんか不思議な感じ!新感覚で美味しいよ!」


「よかったー!あーしも次食べてみよ~!」


「みんなは、中身なんだった?」


「あーしはいちごー!なんか大福みたいで美味しかったよー!」


「おっ、僕はウインナーだった。うんうん、美味しい。これ売り物になってくれないかなあ」


「私はチョコが当たりました。正直、たこ焼きに合うかどうか半信半疑だったのですけど、小麦粉とチョコのバランスがよくて、思いの外デザート感覚で美味しいですね」


「ウチのアボカド、なんか洋風な感じだったわ。案外悪くないかも」


「みんないきなり邪道いけるの凄いね。私はやっぱり、普通のたこがいいよ」


「あー!凛、自分だけ普通の食べてる!ダメダメー!新しいことに挑戦しなきゃー!」


「もー!私はいいんだってば普通でー!」


西川さんの言葉に、みんなまた笑った。


第二段は、小岩瀬さんと二階堂さんだった。小岩瀬さんはたこ焼き機の持ち主なだけあり、焼くのが非常に上手かった。


「よし、くるくるっと」


「お~!さすがるう!めちゃプロみたいー!」


そして、なんと二階堂さんも、小岩瀬さんに負けないくらい、たこ焼きを上手に焼いていた。


「ちょ、ちょっと美緒、あんた妙に上手くない?何回かやったことあんの?」


「いえいえ、初めてですよ。瑠花さんの見よう見まねで、やってるだけです」


「あ、あんたって、ほんと器用なやつ……」


そんな二人の作るたこ焼きは、やっぱり美味しかった。


外の小麦粉がふわふわで、口に頬張る感触が本当にお店のたこ焼きみたいだった。


「んーーー!美味し~!るうとみーちゃん、天才ー!」


「ほんとだね、小岩瀬さんも二階堂さんも凄いなあ」


そうして迎えた第三段。ついにボクと優樹くんの二人で作る番となった。


「えーと、こんな感じ……かな?」


優樹くんも器用なタイプなので、わりと上手に作れていた。隣で見ていた西川さんも、「凄い、白坂くん上手」と彼を褒めていた。


対してボクはというと、この六人の中で一番不器用だった。


「あっ!しまったー!」


くるっと回転させるのが上手くいかず、形がぼろぼろに崩れてしまった。


焼きすぎてる箇所と生の箇所もあったりして、とにかく散々な状態だった。


「ごめんみんな~、たこ焼きぼろぼろになっちゃったよ~……」


「いいよいいよ、気にしないで彩月さん」


「そーそー!さっぽんのだって全然美味しそうじゃーん!」


みんなにフォローを入れて貰いながら、ボクの担当してた分のたこ焼きを作りきった。


さすがに失敗しすぎたものは自分のお皿によそって、それ以外のわりと成功しているものは、他の人へと配った。


「そうだ、たこ焼きと言えば、大阪を思い出すね」


ボクがぽつりと言うと、千夏さんが「そうそう!」と反応してくれた。


「あそこで食べたたこ焼き、マジで美味しかったよね~!」


「ね、ほんとほんと。また、みんなで旅行に行きたいね」


「うん!行こ行こ!」


そうして、ボクと千夏さんは笑い合った。


「みんなはさー、旅行いってみたい場所とかあるー?」


「私は北海道かな~。新鮮な刺身とかお寿司とか、食べてみたい」


「あー!いいね凛!カニとか食べたーい!」


「魚介なら、沖縄もよくない?ウチ、中学の修学旅行で沖縄だったんだけど、時間がなくてあんまり回れなかったから、リベンジしたいんだよね」


「あー、沖縄もいいね。確かに北海道と並んで憧れる場所だな~」


「お金を考慮しなくてよいなら、海外を視野に入れるのもどうですか?」


「あっ!海外ねー!あーしも行きたいー!」


「いやあ、ボクはちょっと怖いかも……」


「えー!?そうかなー!?」


「うん、僕も彩月さんと一緒だよ。興味はあるけど、英語もできないし、外国の人と上手くコミュニケーション取れるか不安だなあ……」


「そんなに身構える必要ないですよ。私は以前カナダに滞在してましたが、外国人も同じ人間。ある程度のことは通じますよ」


「えっ!?みーちゃん、カナダ住んでたの!?」


「ええ、親の仕事の都合で数年ほど」


「す、凄いね二階堂さん……。私、海外に住むなんて一生ないかも知れないよ……」


「み、美緒、あんたいよいよ何者なの……」


パーティー、という言葉がまさしく似合うような、和気あいあいとした空気だった。


みんなで各々好きな具材を入れて、好きに食べ、好きに笑い、好きに夢を語った。


「彩月さんは、どこか行きたいところある?」


隣にいる優樹くんが、ボクへそう問いかけた。


ボクは「そうだね」と前置きしてから、ゆっくりと言った。


「ボクは……みんなと一緒なら、どこでも楽しいかな」


「ははは、そうかい?」


「うん」


「よかった、君がそう思えるのなら、僕も嬉しいよ」


そうして、優樹くんはにっこりと笑ってくれた。


ボクの大好きな、いつもの優しい笑顔だった。






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