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84.がんばれ




「………………」


ボクは、力なくふらふらと、近辺をさ迷っていた。


頭を激しく殴られたかのような衝撃に襲われて、ボクはもう、立っているのもやっとだった。



『……はあ、だから陰キャはうざったいんだよ』



彼の言葉が、胸に焼きついて消えない。


焦げ付いた痕が、今も自分の身体を燃やしている。


「うっ、うう、ううっ……」


優樹くんが、あんなこと、言うはずがない。


他人を傷つけるようなことを、言う人じゃない。


何度もそう考えるけど、でも……それは結局、ボクの頭の中でこしらえた優樹くんでしかない。


本当は、ずっと、そう思われていたのかも。


ボクのことなんて、好きじゃなかったのかも。


そんな気持ちが芽生えてしまうのは、ボクがやっぱり……ボクのことを好きになれないから。


ボクよりも千夏さんの方がいいって、ボク自身でそう思ってしまってるから。


「あっ、ああ…………うあっ……!」


もう、分からない。


何もかも分からない。


全部がカオスで、混沌としてて、ぐちゃぐちゃだ。


顔も見たくないって言われてしまったら、ボクはもう、情けなく退散するしかなかった。


優樹くんを助けたいと思うよりも、嫌われたくないという想いが先に来て、結果……ボクは彼を見捨てた。


「あああっ!ああああ……っ!」


ねえ、誰か、教えてよ……!


ボクは、どうしたらいいの!?


何が正解だったの!?


結局ボクは、このまま生き延びるの!?


なんのために!?


なんのために!?


大好きな人からも拒絶されて!!愛してた人さえも喪って!!


なんでボクばっかりこんな目に!!


もう嫌だよ!!苦しいよ!!


辛いことばっかりだよ!!


やっぱりあの時、死ねばよかったんだ!!死んでしまえば、こんな気持ちにならずに済んだのに!!


寂しい想いをせずに、済んだのに!!




「あああああああ!!あああああああああああああああああっ!!!」




……言葉にならない絶叫が、ボクの喉から溢れ出た。


その場に倒れ込んでしまいたかった。


やりきれない想いで、胸がパンクしそうだった。今にもぱんっ!と破裂して、ボクの内蔵が飛び散りそうだった。


いや、いっそそうなってくれた方がよかった。


もう、全部どうでもいい。


何もかも。


生きることも、死ぬことも。


何もかも。


全部……。


「………………」


その時、だった。


ボクはふと、本屋さんを見つけた。


そこもさっきの地震で倒壊してしまい、建物の原型を保っていなかった。


本屋さんの入り口前には、四本の「のぼり旗」が立っていた。これにはアニメ化した漫画のイラストや、新作小説の広告が描かれていた。


この旗の内三本は、建物同様、横に倒れていたが、不思議なことに……一本だけは真っ直ぐにピンと立ったままだった。


「………………」


その旗に描かれていたのは、ダーク・ブルーのキャラクターである、レインだった。


『ダーク・ブルー TVアニメ放送中!』と、レインの足元にはそう書かれていた。


彼女は腰に手を置いて、いつものように飄々とした笑顔を浮かべていた。


「……レイン」


ボクの、憧れたキャラクター。


彼女のようになりたくて、ボクは一人称まで変えて、髪型も短くして……。


「………………」


ふ、ふふ。


結局、この有り様か。


ボクにできたのは外面だけ。レインのように……強くはなれなかった。


形だけで、中身の伴ってない、オタクの痛い中二病。


恥ずかしくて惨めな、猿真似なんだ……。




『何も恥ずかしくないよ、黒影さん』




「………………」


その時……ボクはいつだったか、優樹くんから言われた言葉を思い出していた。




『凄く、素敵なことじゃないか。自信満々な人に憧れて、その真似をするっていうのは』


『野球選手に憧れて、野球部に入る人が大勢いるように、漫画のキャラに憧れて、その真似をするのは……何も、恥ずかしいことじゃない。ただ、入り口が違うだけなんだよ』


『野球から入るか、漫画から入るか、その入り口の違いでしかない。でもどっちにしても、『立派な人間になりたい』という目標は変わらないんだ』


『憧れた対象が実際の人物だろうが漫画のキャラだろうが、自分の生きる目標に……生きる糧になるのなら、それでいい。心の支えになったものが、どんなものでも構わない』


『だから僕は、黒影さんが“ボク”と言うことを、何も恥ずかしいと思わないよ』




「………………」


優樹、くん。


そうだね。


君はあの時、そう言ってくれた。


優しいよ、君はほんとに。


まだ恋人でもなかったはずの、ただの友だちだったボクへ、あんなに優しい言葉をくれた。


泣いちゃうほど、嬉しかったな。


そうなんだ、ボクだって……ボクだって、本当は、立派な人間になりたいよ。


自分のことを、嫌いになんかなりたくない。


胸を張りたい。


自信を持ちたい。


自分を肯定して……生きていたい。


「………………」


ボクは、来る道を振り返った。


そして、ごくりと、生唾を飲んだ。


(……ボクは、とことんダメな人間だ)


メソメソしてて、暗くて、頭が悪くて、情緒不安定で、人に嫉妬ばかりして、いつも死にたくて、話が面白くなくて、ブスで、スタイルが悪くて、陰キャで……。


自分のことなんて好きになれないし、今だって自己嫌悪ばかりしているけど……。


「………………」


でも、ここで優樹くんを見捨てたら、ボクは本当に、本当に……ダメな人間になる。


こんなボクに優しくしてくれた彼に、なんの恩返しもできないまま終わることになる。


そうしたら今度こそ、ボクはボクを、好きでいられなくなる。


だから……。


だから。


「……優樹くん!」


そうして、ボクは来た道を全速力で引き返した。


自分でも驚くほどに、足が早く感じられた。


周りの景色がどんどんと脇を過ぎていって、優樹くんのいる場所まで帰ってきた。


「優樹くん!ごめんね!やっぱりボク、君を助けたい!」


ボクの声を聴いた彼は、「彩月さん!?」と言って驚きの声をあげていた。


「な、なんで戻ってきたの!?ダメだよ!もう!もう本当に間に合わなくなるよ!」


「いい!優樹くんを助けずにいるくらいなら、死んだ方がマシだよ!」


ボクは彼の肩を担いで、渾身の力を振り絞りながら、彼の身体を起こした。


「んんっ!!んぎぎぎ……!」


歯を思い切り食い縛って、身体がぐらぐらと揺れながらも、なんとか自分の背中に、彼を背負うことができた。


(よ、よし!これでようやく……!)


でも、ここからが問題だった。


背負ったまではよかったものの、そこから一歩も歩くことができなかった。


彼の重さに耐えきれずに、ちょっとでも脚を動かすと、すぐにバランスが崩れて倒れそうになる。


「わっ!んく、ちょっ……はあっ!」


冷や汗が、ぼたぼたと地面に落ちる。頭に血が上って、顔が熱くて仕方なかった。



……ドドドドドド



地鳴りのような音が、遠くから聞こえてくる。優樹くんが「さ、彩月さん!」と、叫ぶようにボクへ言った。


「もう、すぐそこまで来てる!でっかい樹が押し流されてるよ!」


「はあっ!はあっ!はあっ!」


「彩月さん!僕言ったじゃないか!顔も見たくないって!も、もう僕は!君のことなんて……嫌いなんだ!」


「………………」


「だ、だから!僕なんて置いていって!僕のことは気にしないでいいから!」


「いい!!」


「え!?」


「優樹くんがボクを嫌いでも、いい!関係ない!!だって、だって……!!」




「ボクは、君が好きだから!!」




さっきと同じように、歯をぎゅーっ!と食い縛って、歩くために、ふらふらと右足を浮かした。


でもやっぱり、彼の重さに耐えられなくて、身体が前に倒れそうになった。


(あ、危ない!)


その時、咄嗟にボクは右足を地面につけた。


ばんっ!!と、右足全体に痺れるような痛みが走った。


「そうだ!こ、これだ……!」


敢えて、身体を前に倒すんだ!そうしたら、背中にいる彼の重さが加わって、前傾に倒れ込む形になる!


それを利用して、足を一歩ずつ出せば、歩ける!


重たいものを無理して背負おうとしてたから、歩けなかったんだ!この重さを、逆手に取ってやるんだ!


頼りない細い足だけど、今はこの足に賭けるしかないんだ!!


「あぐっ!ううっ!ぐうううう!!」


牛のようにのろのろと……でも間違いなく、進んでいた。


眼を大きく見開いて、唇を噛み締めて、人生で出したことのないほどの力を使って、歩いていた。


「さ、彩月さん……」


「……優樹くん、いつも、優しくしてくれて、ありがとう……」


「え……?」


「君のこと、本当に、大好きだよ」


「………………」


「大丈夫、ボクが、ボクが助けるよ……!今度はボクが!君を!」


「彩月さん……」



……♪


……♪……♪♪



ボクのポケットに入れていた、優樹くんのスマホに着信がはいった。


それは、あの音楽。優樹くんの家族が好きだった、スペッツのチェイリーだった。


それはまるで、ボクのことを応援してくれているかのように、音楽がボクの心に響いてきた。


(優樹くんの、お父さん、お母さん、そして小幸さん……。どうか、力を貸してください!)


右足。


左足。


右足。


左足。


遅くても、いい。


情けなくても、いい。


それでも、一歩を歩むんだ。


たとえそのせいで、土砂に追いつかれて死んだとしても、構わない。


最善を、尽くした。


精一杯、やった。


そのために死ねるなら、ボクは本望だ!


好きな人のために、一歩進む!それ以上に価値のあることなんて、ない!!



(……がん、ばれ!)



がんばれ!


がんばれ!


がんばれ!



がんばれ!!






がんばれ……ボク……!!














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おっしゃぁぁぁ!!!
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